第十八話 チョルーラ
美しい町だった。
テノチティトランに次いで大きいと聞いていた。神殿の数はテノチティトランより多いとも。
入った時、道の両側に人が並んでいた。花を持っている者もいた。
歓迎されている。
歓迎されているように見える、とわたしは思った。見える、と思ったのは、顔が合っていなかったからだ。
花を持っている手と、花を持っている顔が、別のことを言っている。
わたしは顔を読む。昔からそうだ。売られた先で、主人が何を考えているかを読まなければ殴られる。読めば避けられる。避けられれば生きていける。
チョルーラの人間の顔は、笑っていた。だが目が笑っていなかった。
二日目。
飯の量が減った。
初日は多かった。鶏も出た。魚も出た。トウモロコシの粉で作った丸い焼き菓子も出た。
二日目は、豆だけだ。
これは知っている。
檻の中で飯の量を見ていた人間の話を、わたしは知らない。だが、飯の量が変わることの意味は分かる。
客ではなくなっている。
三日目の朝、水を汲みに行った。
嘘だ。水を汲みに行くふりをした。
町の裏手を歩いた。路地を見た。
落とし穴が掘ってある。
道の端に、石が積んである。上から落とすためだ。屋根の上に、縄で縛った丸太が並べてある。
見なかったふりをして、戻った。
コルテスには言わなかった。
まだ分からない。用心しているだけかもしれない。白い肌の連中が来て、用心するのは当然だ。攻める準備と、守る準備は、同じ形をしている。
三日目の夕方、女が来た。
年嵩の女で、いい服を着ていた。腕に翡翠の腕輪をしている。身分のある人間だ。
わたしの手を取った。
「あなた、あの白い人たちの通訳をしているでしょう」
ナワトルだ。柔らかいナワトルで、目を覗き込むようにして言った。
「うちの息子が、あなたを気に入っている。嫁に来ないか」
わたしは黙った。
女は続けた。声を落とした。
「明日の朝、この町で何かが起きる。あなたはその中にいないほうがいい。今夜のうちにこちらへ来なさい。息子のところへ。そうすれば安全だ」
わたしは女の目を見た。
この人は嘘をついていない。
親切で言っている。わたしを助けようとしている。白い肌の連中が明日殺されるから、巻き添えになる前にこちらへ来い、と言っている。
親切な人だ。
わたしは笑った。できるだけ柔らかく笑った。
「ありがとうございます。支度をさせてください。少しだけ時間をください」
女はうなずいた。手を握って、また来ると言って、帰っていった。
わたしはその足でコルテスのところへ行った。
アギラールを呼んだ。
「明日の朝、この町の兵がこちらを襲います。落とし穴が掘ってあります。屋根に丸太が並べてあります。道に石が積んであります」
アギラールが訳した。
コルテスの顔が動かなかった。
しばらくして、短く聞いた。
「確かか」
「確かです。わたしに逃げろと言った人がいます。明日の朝だと」
コルテスはうなずいた。
その夜、白い肌の連中が動いた。
静かに動いた。鉄の服を着け、煙の棒に火薬を込め、馬に鞍を載せた。トラスカラの兵にも伝わった。
夜が明けた。
朝のうちに終わった。
書くことは少ない。
コルテスが広場にチョルーラの長たちを集めた。門を閉じた。
始まった。
広場の中のことを、わたしは見ていなかった。門の外にいた。
音は聞こえた。
煙の棒が鳴り、叫び声が上がり、それから長い時間、聞き取れない音が続いた。
トラスカラの兵が町に入った。家を壊し、火をつけた。
煙が上がった。美しい町の上に、黒い煙が上がった。
何人死んだかは、分からない。
後で誰かが数えたのかもしれない。わたしは数えなかった。
あの女のことを考えた。
翡翠の腕輪をした、いい服の女。息子の嫁に来いと言った女。わたしを助けようとした女。
あの女は、今どこにいるだろう。
考えて、やめた。考えても変わらない。
わたしは言った。
落とし穴のこと、石のこと、丸太のこと、女が言ったこと。全部言った。
言わなければ、明日の朝、白い肌の連中が殺されていた。わたしも殺されていた。
言ったから、チョルーラの人間が殺された。
どちらかが死ぬ話だった。
わたしは、自分が死なないほうを選んだ。
——それだけだ。
それ以上のことは、わたしの中にはない。
ない、と思うことにしている。
煙はその日のうちに収まった。
翌日、チョルーラの残った人間がコルテスの前に出てきた。
許しを請うている。
わたしは訳した。
「モクテスマに命じられたのだと言っています。自分たちの意思ではないと」
モクテスマの名が、また出た。
コルテスは許した。許して、チョルーラをそのまま通過した。
残ったのは、焼けた家と、トラスカラ兵が持っていった物と、数の減った人間だ。
トラスカラの兵たちは上機嫌だった。長年の恨みが晴れたのだ。
白い肌の連中が大帝国を滅ぼした、と後で言われるかもしれない。
違う。
恨みを持った者たちが、白い肌の連中の後ろから来て、長年の勘定を片づけたのだ。
わたしはその間に立って、言葉を渡した。
薪を渡した。
火は、わたしがつけたのではない。
——そういうことにしている。
チョルーラを出た。
西へ。山を越える。
山の向こうに、テノチティトランがある。
わたしが生まれた土地の人間なら、誰でも知っている都。わたしは見たことがない。見たことがないまま、そこへ向かっている。
六千だったトラスカラ兵は、チョルーラの後、さらに増えた。
一万を超えている。
この行列の先頭に、白い肌の男が五百人いる。後ろに一万のナワトルの兵がいる。
どちらが使っているのか、まだ分からない。
分からないまま、わたしは間に立っている。




