第十四話 二十人の女
数として渡された。
二十人の女。金の飾り。鳥の羽。食い物。布。
並んでいる。わたしたちと、物が、同じ列に並んでいる。
物ではないと言いたいわけではない。物だった。ずっと前から。今に始まったことではない。
わたしの最初の名はマリナリという。
生まれた家でそう呼ばれた。川のそばの、小さな領主の家だった。父が死んで、母が別の男を迎えて、わたしは要らなくなった。売られた。ポトンチャンの商人に渡されて、ポトンチャンの主人に仕えた。
主人はわたしを別の名で呼んだ。
今、また渡されている。次の持ち主が、また別の名をつけるだろう。
三つ目になる。名前というのは、そういうものだ。器に何と書いてあっても、中身は変わらない。
渡す側の男が何か言っている。受け取る側の男がうなずいている。間に、もう一人、別の男が立っている。渡す側の言葉を聞いて、受け取る側に何か違う音を伝えている。
通じていない。
わたしにはそれが分かる。
渡す側が言ったことと、間の男が伝えていることが、同じではない。渡す側はマヤの言葉を話している。間の男もマヤの言葉を聞き取っている。だが受け取る側に伝えている音は、わたしの知らない言葉だ。
その知らない言葉を受け取る側が聞いて、うなずいている。
うなずいているが、顔が合っていない。渡す側の男がへりくだっている顔をしているのに、受け取る側の男はもっと貰えると思っている顔をしている。
間の男が、うまく変えていないのだ。
——わたしは、こういうことがよく分かる。
分かることが、何の役にも立たないことも、よく分かっている。
列を歩かされた。浜に出た。
大きな船が沖に浮かんでいる。
マヤの舟ではない。わたしが生まれた土地の舟でもない。白い布が張ってあって、木で組んだ壁がある。何隻もある。
白い肌の男たちが浜に降りていた。
鉄で体を覆っている。陽に当たると光る。暑くないのだろうか。暑そうだった。汗をかいている。鉄の下から汗が垂れている。
二十人は、座らされた。浜の、少し日陰になっている場所に、まとめて。
わたしは端にいた。端にいると、逃げやすい。逃げないが、端にいる。
隣の女が泣いている。その隣の女も泣いている。
わたしは泣かない。
泣いても変わらない。変わらないことをしても仕方がない。
わたしが持っているものは二つある。
一つは、マヤの言葉だ。
ポトンチャンに売られてから覚えた。覚えるのに一年かからなかった。わたしは言葉を覚えるのが速い。なぜかは知らない。耳が拾ったものを、口がそのまま出せる。他の人間にはそれが難しいらしいということを、わたしは他の人間を見て知った。
もう一つは、ナワトルの言葉だ。
生まれた土地の言葉。売られる前に話していた言葉。こちらは覚えたのではなく、最初から入っていた。
二つの言葉が頭の中にある。
誰かがマヤの言葉で何か言うと、同時にナワトルの言い方が浮かぶ。水を見て「ハー」と聞けば、「アトル」が勝手に来る。止められない。二つの言葉は、いつも並んで動いている。
これが何の役に立つか、わたしは知らなかった。
何の役にも立たないまま、ここまで来た。
だが。
間の男を見ている。
あの男は、マヤの言葉を聞いて、白い肌の連中の言葉に変えている。
変え方が下手だ。
下手な理由は分かる。あの男の中に入っているマヤの言葉は、後から覚えたものだ。苦労して入れたものだ。すぐに出てこない。出てくるまでに間がある。その間に、前後が狂う。
わたしのようではない。
わたしは二つが同時に動く。考えなくても出る。
だが、わたしに足りないものがある。
白い肌の連中の言葉だ。
あの音は聞いたことがない。どの音がどの意味なのか、分からない。
あの男は、それを持っている。
わたしが持っていないものを、あの男が持っている。あの男が持っていないものを、わたしが持っている。
——繋げば、届く。
その考えは、浜に座った瞬間に来た。
来て、そのまま置いた。使わなかった。
使えば、わたしは数ではなくなる。数ではなくなると、別のものになる。別のものになるということは、また名前が変わるということだ。
四つ目の名前。
それが欲しいかどうか、わたしにはまだ分からなかった。
白い肌の男が一人、こちらに近づいてきた。
長い服を着ている。鉄は着けていない。手に水を持っている。
わたしたちの頭に水をかけて、何か唱えた。一人ずつ。順番に。
唱えている言葉は分からない。マヤでもナワトルでもない。三つ目の言葉だ。
水をかけられた。冷たかった。
それだけだ。何も変わらない。
だが隣の女が言った。あれは名前をつけたのだと。長い服の男がつける名前なのだと。
後で聞いたら、わたしにつけられた名はマリーナという。
マリナリがマリーナになった。音が少し似ている。似ているのは偶然だろう。
三つ目の名前は、もう来ていた。
わたしが選ぶ前に。
日が暮れて、焚き火が起こされた。
わたしたちは火の近くにまとめられた。逃げないように、だろう。逃げない。逃げる場所がない。
間の男が、少し離れたところに座っていた。
火の光が横顔に当たっている。痩せている。肌は焼けているが、刺青はない。耳にも穴はない。
白い肌の連中と同じ顔をしているのに、この土地の言葉を話す。
——この人は、誰かを置いてきた顔をしている。
なぜそう思ったのかは分からない。
顔の造りではない。目だ。火を見ている目が、ここにいない誰かを見ている目をしている。
わたしは目をそらした。
他人の事情に首を突っ込んでも仕方がない。仕方がないことはしない。
波の音が聞こえる。
マヤの海だ。わたしは海の近くで育っていない。川の近くで育った。海は売られてから知ったものだ。
海は、大きな川だと最初は思った。だが川と違って、行き先がない。
行き先のない水のそばで、わたしは四つ目の名前を貰って、座っている。
明日、あの船に乗せられるのだろう。
乗った先に何があるかは分からない。
分からないが、一つだけ分かっていることがある。
あの間の男は、困る。
マヤの言葉しか聞き取れない男は、マヤの言葉が通じない場所に行ったら、何も変えられなくなる。
その時、わたしの二つの言葉が要る。
要るかもしれない。
要らないかもしれない。
——黙っていれば、わたしはずっと、二十分の一のままでいられる。




