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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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2 飲み会

 一九八〇年、秋。


 大学近くの安居酒屋“赤ちょうちん丸福”。


 煙草の煙。


 焼き鳥の匂い。


 ビール瓶。


 狭い畳席。


 そして。


「――そこで吾輩は気づいたのだぁ」


 小野田レイは、ジョッキ片手に無駄に低い声を作っていた。


 完全に調子に乗っていた。


「“あ、これは本物なのだ”……と」


 ドヤ顔である。


 周囲には同じ大学の学生たちが座っていた。


 男数人。


 女子大生三人。


 レイは当然、女子側へ身体を向けて座っていた。


「えー、マジで?」


「怖っ」


「いやいや、盛ってるでしょ」


 女子たちが笑う。


 レイはニヤァ……と笑った。


「うむ。最初は吾輩もそう思ったのだぁ。だが、あれは違うのだ」


 わざわざ煙草に火をつける。


 なお全然慣れてないのでむせた。


「ごほっ!!げほっ!!」


「ダサ」


「のだぁ……」


 だがレイは諦めない。


 なぜなら今日の目的は“美女お持ち帰り”だからである。


 彼の脳内では、現在進行形で昭和の青春映画みたいな展開が流れていた。


『小野田くん怖かったんだね……♡』


『今日は一人にしないで……♡』


『のだぁ……困るのだぁ♡』


 現実。


「で、結局なんだったの?」


「酔っぱらいじゃない?」


「幻覚じゃん」


「のだぁ!違うのだぁ!!」


 レイは机を叩いた。


「本当にいたのだぁ!!白衣の女なのだぁ!!足なかったのだぁ!!」


「いや、それ有名な噂そのまんまじゃん」


「作り話っぽーい」


「のだぁ……」


 若干押されていた。


 レイは焦った。


 ここで空気を取られると終わる。


 持ち帰りどころか“うるさい変人”扱いである。


 なので。


 盛った。


「しかもなのだぁ……」


 レイは声を潜めた。


「吾輩……耳元で囁かれたのだ」


「え?」


「“かえして……”って」


 女子たちが「うわっ」と声を漏らす。


 レイは内心ガッツポーズした。


(勝ったのだぁ!!)


 調子に乗った。


「しかも吾輩、二階から飛び降りたのだぁ」


「は?」


「窓を蹴破ってなのだぁ!!」


「嘘でしょ」


「その時の吾輩、完全に野生だったのだぁ。人間、極限になると超能力出るのだぁ」


「いや普通に危ないじゃん」


「のだっ♡だからこそ男なのだっ♡」


 なお。


 ただ泣きながら逃げただけである。


 しかしレイはどんどん話を盛っていく。


「病院の地下から大量の声も聞こえたのだぁ……」


「きゃー」


「しかも扉が勝手に閉まってぇ」


「それ風じゃない?」


「あと白い手が吾輩の肩を掴んでぇ」


「それ絶対後付けでしょ」


「のだぁ!本当なのだぁ!」


 レイは熱弁した。


 完全に酔っていた。


「吾輩、“死”を見たのだぁ……!」


「その割にめちゃくちゃ元気じゃん」


「うむ!生還した男なのだっ♡」


 女子たちはケラケラ笑っていた。


 正直、半分くらいは馬鹿を見る目だった。


 だが。


 レイはそれを“モテてる空気”だと解釈していた。


 幸せな脳である。


「小野田くんってほんとアホだよね」


「のだっ♡」


「褒めてない」


 そこへ。


 隣の席の酔っぱらいサラリーマンが話に入ってきた。


「兄ちゃん、赤窓病院行ったのか?」


「のだっ♡そうなのだっ♡」


 レイは得意げだった。


「やめとけよぉ。あそこ昔ほんとに人死んでるからなぁ」


「のだぁ?」


「戦後すぐ、結核病棟だったんだよ」


 空気が少し静かになる。


「夜中に女の声聞こえるって昔から有名だぞ」


 女子の一人が顔を引きつらせた。


「えっ……マジ?」


「うちの会社の後輩も行ってなぁ……帰ってきてからずっと高熱出して――」


「のだぁ!?」


 レイが一番ビビった。


「やめるのだぁ!!」


「ははは」


 サラリーマンは笑いながら日本酒を飲んだ。


 だが。


 レイは急に落ち着かなくなっていた。


 なぜなら。


 本当に思い出してしまったからである。


 あの病院。


 あれ。


 絶対いた。


「……のだ」


「小野田くん?」


「……うむ。吾輩、お手洗い行くのだぁ」


 レイは立ち上がった。


 フラフラしながら店の奥へ向かう。


 薄暗い廊下。


 古い木造。


 ギシギシ鳴る床。


「……のだぁ」


 急に怖くなってきた。


 酔いも変な方向へ回っている。


「うむ。大丈夫なのだ。ここは居酒屋なのだ。病院じゃないのだ」


 自分に言い聞かせる。


 だが。


 トイレ前の鏡を見た瞬間。


 後ろに白い影が映った気がした。


「のだぁああああああああ!!!!」


 レイは絶叫した。


 店中に響いた。


 ガタン!!


 勢いよく転倒。


 座敷側の襖に突っ込む。


「痛いのだぁああ!!」


「何!?」


「どうした!?」


 店員まで飛んできた。


 レイは顔面蒼白だった。


「う、後ろにぃ……」


 だが。


 そこには。


 白い割烹着を着た店のおばちゃんが立っていただけだった。


「……兄ちゃん大丈夫?」


「…………」


 沈黙。


 女子大生たち。


 爆笑。


「ギャハハハハ!!」


「最悪!!」


「ビビりすぎ!!」


「のだぁ……」


 レイは真っ赤になった。


 だが。


 数分後にはもう復活していた。


 なぜなら馬鹿だからである。


「うむ!つまり吾輩はそれほど壮絶な体験をしたということなのだっ♡」


「ポジティブすぎるでしょ」


「のだっ♡ところでぇ」


 レイは女子の一人へ寄った。


「今夜怖くて一人で寝れないなら吾輩の部屋に――」


「嫌」


「即答なのだぁ!?」 


 さらに別の女子へ。


「のだっ♡お化けから守ってやるのだっ♡」


「小野田くんの方が叫びそう」


「のだぁ……」


 三人目。


「帰り道危ないから送るのだっ♡」


「自転車だから大丈夫」


「のだぁあああ!!」


 全滅だった。


 その頃。


 店の窓の外。


 道路の向こう側。


 白衣の女がじっと店を見ていた。


「…………」


 誰も気づかない。


 ただ一人。


 ビールを飲みながら騒いでいたレイだけが、ふと窓の外を見た。


「…………のだ?」


 一瞬。


 女と目が合った。


「のだぁあああああああああ!!!!」


 再び絶叫した。


 店員が頭を抱えた。

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