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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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1

 一九八〇年、夏。


 地方都市の外れにある旧陸軍病院跡――通称“赤窓病院”は、大学生たちの間では有名な心霊スポットだった。


 終戦直後に閉鎖されたとか、地下に死体置き場が残っているとか、夜中に白衣の女が階段を降りてくるとか、噂だけはやたら多い。


 当然。


 馬鹿は行く。


 そして、小野田レイもまた、その典型であった。


「のだっ♡大学生になった吾輩は無敵なのだっ♡時代は肝試しなのだっ♡女の子にモテるには恐怖体験なのだぁ!」


 なお。


 同行予定だった女子大生二人には普通に断られていた。


「いや、小野田くん一人で行けば?」


「あと絶対なんか壊しそうだから嫌」


「のだぁ……冷たい世の中なのだぁ……」


 しかしレイは気にしない。


 なぜなら馬鹿だからである。


 中古の革ジャンを羽織り、無駄にサングラスをかけ、コンビニ袋に入ったカップ焼きそばとコーラを片手に、レイは夜の山道を原付で爆走していた。


「のだのだのだぁ〜〜〜♪吾輩は勇者なのだぁ〜〜♪」


 原付は異音を立てていた。


 だいぶ危なかった。


 だがレイは気にしない。


 なぜなら馬鹿だからである。


 やがて。


 山の奥。


 雑草に埋もれた巨大な建物が現れた。


 赤窓病院。


 窓ガラスの半分以上が割れており、外壁は黒ずみ、入り口の看板は斜めに傾いていた。


「……のだぁ」


 さすがのレイも少し黙った。


 夜風が吹く。


 ギィィィ……と、どこかで鉄板が鳴った。


「……うむ。帰るのだぁ」


 即撤退しようとした。


 だが。


「ここで帰ったら吾輩、ただ原付で山登っただけの馬鹿なのだぁ……!」


 それは事実だった。


 レイはしばらく葛藤したあと、震える手で懐中電灯を取り出した。


「い、行くのだぁ……」


 入口のガラス扉を押す。


 ギギギギ……


「のだぁあああ!!開いたのだぁああ!!」


 自分で開けて自分でビビる。


 誰も見ていないのに無駄にカッコつけながら、レイは病院内へ侵入した。


 内部は酷かった。


 湿気。


 カビ臭さ。


 床に散乱するカルテ。


 天井から垂れ下がるコード。


 そして。


 静かすぎる。


「の、のだぁ……」


 レイは懐中電灯を震わせながら歩く。


 廊下の奥には車椅子。


 なぜか片輪だけ回っている。


「のだぁ?」


 風でも入ったのかと思った。


 だが。


 窓は閉まっていた。


「……のだ」


 レイは視線を逸らした。


「うむ!気のせいなのだっ♡」


 逃避である。


 レイは早歩きになった。


 二階へ向かう。


 階段はミシミシ鳴った。


「のだっ♡余裕なのだっ♡全然怖くないのだっ♡」


 声が裏返っていた。


 二階の病室には、古いベッドが並んでいた。


 白いカーテンが揺れている。


「のだぁ……病院ってなんでこんな怖いのだぁ……学校のお化けより本格的なのだぁ……」


 その時だった。


 カラン。


 廊下の奥で音がした。


「のだ?」


 レイは懐中電灯を向ける。


 誰もいない。


「……のだ」


 カラン。


 また鳴った。


 今度は近い。


 レイの顔が引きつる。


「の、のだぁ……?」


 ゆっくり。


 ゆっくりと。


 廊下の角から、白い何かが現れた。


 白衣。


 長い黒髪。


 青白い顔。


 女だった。


 しかも。


 足がなかった。


「…………」


 レイは固まった。


 女も無言だった。


 しばらく見つめ合った。


 そして。


 女がスゥ……とこちらへ浮かんできた。


「のだぁあああああああああああああ!!!!!!!!」


 レイは絶叫した。


 人生最大級だった。


「のだぁあああ!!マジでいるのだぁあああ!!聞いてないのだぁああああ!!」


 レイは全力疾走した。


 廊下を爆走。


 曲がり角で転倒。


「のだぁっ!!」


 顔面から滑った。


 だが即起きる。


 後ろを見る。


 白衣の女がゆっくり追ってきていた。


「来てるのだぁあああ!!なんでなのだぁあああ!!」


 レイは泣きながら逃げた。


 完全に被害者面だった。


「吾輩ただ不法侵入しただけなのだぁあああ!!」


 最低の言い分である。


 階段を駆け下りる。


 だが。


 下りた先。


 一階廊下の中央に。


 別の女が立っていた。


「のだぁ?」


 白い患者服。


 顔が真っ黒だった。


「のだぁああああああ!!!!」


 レイは反転した。


 二階へ戻る。


 泣いていた。


「なんで増えるのだぁあああ!!聞いてないのだぁあああ!!」


 すると。


 後ろ。


 耳元。


「……かえして……」


「のだぁああああああああああ!!!!!!」


 レイは半狂乱になった。


 窓を蹴破った。


 ガシャァァン!!


「のだぁああ!!死ぬのだぁあああ!!」


 二階から雑草地帯へ転落。


 普通に痛かった。


「いっっっったぁあああ!!」


 だが止まらない。


 レイは泣きながら山道を全力疾走した。


 革ジャンは破れ。


 サングラスは吹き飛び。


 片足だけ靴が脱げていた。


「のだぁあああ!!もう悪いことしないのだぁあああ!!」


 なお翌週には雀荘でイカサマしようとしていたので反省はしていない。


 山道の途中。


 やっと原付を見つけたレイは、鍵を震える手で回した。


「か、かかれなのだぁ!!」


 キュルルル……


 エンジンがかからない。


「のだぁ?」


 後ろ。


 カツン。


 カツン。


 病院の方向から足音がした。


「…………」


 レイは泣いた。


「お願いなのだぁ……」


 原付に土下座した。


「動いてなのだぁあああ!!吾輩まだ童貞なのだぁあああ!!」


 最低だった。


 すると。


 ブロロロロロロ!!!


「のだぁあああ!!愛してるのだぁあああ!!」


 レイは原付で爆走した。


 山道を蛇行しながら下る。


 泣きっぱなしだった。


 そして。


 街へ戻ったレイは、そのまま友人宅へ突撃した。


 午前三時。


 ドンドンドンドン!!


「開けるのだぁあああ!!」


「うるせぇ!!」


 友人がブチ切れながら扉を開けると、そこには半泣きで泥だらけのレイが立っていた。


「お化けいたのだぁあああ!!」


「は?」


「本当にいたのだぁあああ!!白いやついたのだぁああ!!足なかったのだぁあああ!!」


「……お前また変な薬やった?」


「違うのだぁあああ!!」


 レイは友人にしがみついて大号泣した。


「吾輩まだ死にたくないのだぁあああ!!」


「知らねぇよ!!」


 ちなみに。


 数日後。


 大学内で「赤窓病院には本物が出る」という噂が急速に広まった。


 原因は当然レイである。


 だが。


 本人はその後、一週間ほど夜にトイレへ行けなくなった。


 風呂も怖かった。


 鏡を見れなかった。


 深夜の自販機にも行けなかった。


 そして布団の中で震えながら、レイは毎晩こう呟いていた。


「……のだぁ……なんで吾輩だけ本物引くのだぁ……」

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