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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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13

 一九八一年、晩秋。


 都内。


 雑居ビル三階。


 ○○オカルト出版編集部。


 締切前特有の殺気が漂っていた。


「誰だよこの誤植!」


「写植まだ!?」


「電話取ってぇ!!」


「インク切れたぞ!!」


 煙草。


 怒号。


 コーヒー。


 紙。


 昭和編集部は戦場だった。


 そして。


 その地獄みたいな空間へ。


「来たのだっ♡」


 バァン!!と勢いよく扉を開けながら、小野田レイが現れた。


 なぜかロングコート。


 なぜかサングラス。


 なぜか付け髭。


 そして。


 めちゃくちゃ得意げだった。


「…………」


 編集部全員が嫌そうな顔をした。


「うわ、来た」


「また変な格好してる」


「のだっ♡売れっ子オーラなのだっ♡」


「怪しい情報屋にしか見えない」


 レイは気にしない。


 なぜなら現在の彼は、“自分は昭和オカルト界の新星である”と本気で思い始めているからである。


「ふっふっふ……」


 レイは鞄を机へ置いた。


 ドサァッ!!


 分厚い原稿。


 タイトル。


『実録!!泣き女トンネル』


 しかも。


 赤字で。


『禁断の真実』


 『編集部震撼』


 『読んだ者は呪われる』


 とか書いてある。


「お前が書いたのかそれ」


「売れる煽り文なのだっ♡」


 最低だった。


 編集長が頭を押さえる。


「……で?」


「のだぁ?」


「今回は何を盛った?」


「失礼なのだぁ!!」


 レイは机を叩いた。


「全部実話なのだっ♡」


 なお。


 実際には盛りまくっていた。


 本当は“幽霊同士がなんか空気読んで解散した”だけなのに、原稿ではこうなっていた。


『トンネルの奥から無数の女の泣き声』


『血まみれの女たちが壁から這い出る』


『霊同士の怨念衝突』


『気絶寸前のレイ、命懸けの脱出』


 ほぼ映画だった。


「のだっ♡」


 レイは胸を張った。


「文学的脚色なのだっ♡」


「盛ってんじゃねぇか」


「エンタメなのだぁ!」


 編集部の若手が原稿をパラパラ読む。


 そして。


「……うわ」


「のだぁ?」


「これ前より怖ぇ」


「当然なのだっ♡」


 レイはドヤ顔。


「今回は“閉鎖空間ホラー”を意識したのだっ♡」


「なんでそんな言葉知ってんだよ」


「映画いっぱい見てるからなのだぁ!」


 すると。


 編集長の表情が少し変わった。


「……ん?」


「のだぁ?」


「この“トンネルの奥で女同士が睨み合う”ってシーン」


「名場面なのだっ♡」


「妙に映像浮かぶな……」


「ふっふっふ……」


 レイはサングラスをクイッと上げた。


「才能なのだっ♡」


 実際には本当に見た光景ベースだからである。


 編集長は読み進める。


 段々真顔になる。


「……お前さ」


「のだぁ?」


「描写だけは本当に上手くなってきてない?」


「のだっ♡」


 レイは完全に調子に乗った。


「天才だからなのだっ♡」


「性格が終わってる」


 編集部の隅。


 白衣の女幽霊が静かに立っていた。


「…………」


 当然誰にも見えない。


 女幽霊は原稿を覗き込んでいた。


 そして。


「…………」


 微妙な顔になった。


「……こんなこと……なってない……」


「のだっ♡」


 レイは小声で返した。


「盛った方が売れるのだぁ!」


「…………」


「現実は地味なのだぁ!」


 最低の発想だった。


「……私……あんなに怖い顔してた……?」


「してたのだっ♡」


「…………」


 女幽霊はちょっとショックを受けていた。


 一方。


 編集部は盛り上がってきていた。


「これ絶対人気出るぞ」


「トンネルネタ強いな」


「写真撮れなかったの?」


「のだぁ……」


 レイは露骨に目を逸らした。


「その時は命が危なかったのだぁ……」


 実際は普通に怖くて撮る余裕がなかった。


 編集長は煙草を咥えた。


「よし」


「のだぁ?」


「これ巻頭特集にする」


「のだぁあああああ!!」


 レイ絶叫。


「勝ったのだぁあああ!!」


 編集部中に響く。


「吾輩、時代の寵児なのだぁ!!」


「うるせぇ!!」


 だが。


 編集者たちも少し興奮していた。


 オカルトブーム。


 実話風。


 若者。


 そして。


 妙にリアル。


「次どこ行く?」


「廃村どう?」


「ダムもあるぞ」


「のだぁ?」


 レイの顔色が変わった。


「ま、待つのだぁ」


「ん?」


「吾輩、作家先生なのだぁ?」


「そうだな」


「つまり現地取材しないとダメなのだぁ?」


「当然だろ」


「…………」


 レイは固まった。


「のだぁぁぁぁぁぁ!!」


 編集部に悲鳴が響いた。


「なんでなのだぁ!!原稿書くだけじゃダメなのだぁ!?」


「実話路線だからな」


「危険手当ないのだぁ!?」


「原稿料で我慢しろ」


「ブラックなのだぁ!!」


 レイは机に突っ伏した。


「吾輩、本当は昼まで寝てたいタイプなのだぁ……」


「知らねぇよ」


 すると。


 白衣の女幽霊が少し心配そうに見てきた。


「……大丈夫……?」


「大丈夫じゃないのだぁ……」


 レイは死んだ顔だった。


「最近、本当に本物ばっかり引くのだぁ……」


「…………」


「普通の偽物スポット行きたいのだぁ……」


 だが。


 編集長はニヤニヤしていた。


「小野田」


「のだぁ?」


「お前、“持ってる”よな」


「のだ?」


「本物呼ぶ体質」


「やめるのだぁぁぁ!!」


 レイは本気で叫んだ。


 しかし。


 編集部は大笑いしていた。


 その頃。


 白衣の女幽霊は静かに思っていた。


「…………」


 この男。


 最初はただの被害者だったのに。


 今では完全に“怪異側に片足突っ込んでる”。

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