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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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14 雪代館編

 一九八一年、冬。


 雪混じりの風が吹く山道を、古びたワゴン車がガタガタ揺れながら走っていた。


 車内には煙草の匂いとカセットテープの昭和歌謡。


 そして後部座席には、毛布に包まりながら完全にだらけ切った小野田レイが転がっていた。


「のだっ♡旅行なのだぁ!うむ!着いたら起こしてなのだぁ!」


「仕事だよ馬鹿」


 運転席の編集者が即座に切り捨てた。


「のだぁ?温泉旅館って聞いたのだぁ。つまり実質旅行なのだぁ」


「幽霊旅館特集だろうが」


「温泉あるのだぁ?」


「ある」


「なら旅行なのだっ♡」


 レイは満足そうに丸まった。


 なお今回の取材先は、最近オカルト雑誌界隈で密かに有名になっていた山奥の温泉旅館――“雪代館”。


 古い木造旅館で、夜中になると廊下を女が歩くとか、閉鎖された別館から三味線の音が聞こえるとか、窓の外に女中が立っているとか、そういう昭和怪談全部乗せみたいな場所だった。


 当然、編集部は喜んだ。


『小野田行け』


『本物引いてこい』


『写真も頼む』


 酷かった。


「のだぁ……」


 レイは毛布の中で呻いた。


「最近、吾輩の扱いが犬なのだぁ……」


「稼ぎ頭だからな」


「のだっ♡」


 その瞬間だけレイは嬉しそうだった。


 現金だった。


 隣には、いつものように白衣の女幽霊が座っていた。


 当然、編集者には見えていない。


「……雪すごい……」


「山だからなのだぁ」


「……寒くない……?」


「寒いのだぁ!」


 レイは半泣きだった。


「吾輩、南国育ちじゃないのに寒さに弱いのだぁ!」


「意味分かんない」


 編集者が呆れていた。


 車はさらに山奥へ入っていく。


 外は吹雪。


 ガードレールの向こうは真っ暗な崖。


「のだぁ……落ちたら死ぬのだぁ……」


「静かにして寝てろ」


「うむっ♡」


 レイは素直に横になった。


 数分後。


「ぐごぉ〜〜〜……のだぁ……」


 即寝た。


 しかも口を開けていた。


 編集者はバックミラー越しに見て呆れていた。


「こいつ本当に危機感ないな……」


 白衣の女幽霊は静かに寝顔を見ていた。


「…………」


 最初に出会った時は、この男、自分を見ただけで失神していた。


 今では心霊スポットへ向かう車内で爆睡している。


 適応力が異常だった。


 一時間後。


 ワゴン車が雪道を抜けた先に、巨大な木造旅館が見えてきた。


 山の斜面に建つ三階建て。


 赤い提灯。


 薄暗い玄関。


 積もった雪。


 そして。


 妙に静かだった。


「……着いたぞ」


「のだぁ?」


 レイは寝ぼけながら起き上がった。


 窓の外を見る。


「おおお……」


 少し感動していた。


「旅館なのだぁ……」


「だから仕事だって」


「立派なのだっ♡」


 レイは車から降りた。


 瞬間。


「のだぁぁぁ!!寒いのだぁぁぁ!!」


 雪に滑って転倒した。


「痛いのだぁ!!」


「先行き不安だな……」


 旅館の女将が玄関から出てきた。


 和服姿。


 四十代くらい。


 妙に顔色が白い。


「ようこそ雪代館へ」


「のだっ♡お世話になるのだぁ♡」


 レイは即座に営業スマイルになった。


「吾輩、文化人なのだっ♡」


「ただの大学生だろ」


 女将は微笑んでいたが、目の下には隈があった。


「本当に取材なさるんですか……?」


「のだぁ?」


「最近、お客様が減ってまして……」


「安心するのだっ♡」


 レイは親指を立てた。


「吾輩、売れっ子なのだっ♡」


 なお、旅館側からすると若干不安になるタイプの自信だった。


 館内は古かった。


 長い廊下。


 軋む床。


 薄暗い照明。


 掛け軸。


 古時計。


 完全に“出る”雰囲気である。


「のだぁ……」


 レイは急に編集者の後ろへ隠れた。


「怖いのだぁ……」


「お前さっきまで調子乗ってただろ」


「昼と夜では話が違うのだぁ!」


 その時。


 廊下の奥。


 スゥ……っと白い影が横切った。


「のだ」


 レイだけが反応した。


「…………」


 白衣の女幽霊も静かにそちらを見る。


「……いる……」


「いるのだぁ!?」


 レイの顔色が変わる。


「もういるのだぁ!?」


 編集者は気づかない。


「どうした?」


「な、なんでもないのだぁ!」


 レイは引きつった笑顔を浮かべた。


 だが内心では完全に泣いていた。


(早すぎるのだぁぁぁ!!)


 女将は案内を続ける。


「二階のお部屋になります」


 ギシ……ギシ……


 階段が鳴る。


 レイは震えていた。


「のだぁ……」


 すると白衣の女幽霊が小声で言った。


「……ここ、いっぱい居る……」


「のだぁあああああ!!」


 レイは小声で絶叫した。


「やめるのだぁ!!」


「……ごめん……」


「謝るななのだぁ!!余計怖いのだぁ!!」


 部屋へ通される。


 広い和室。


 炬燵。


 障子。


 温泉饅頭。


 窓の外は雪景色。


「おおお……」


 レイは一瞬テンションが戻った。


「旅館っぽいのだっ♡」


「旅館だからな」


「温泉あるのだぁ?」


「あるよ」


「勝ったのだっ♡」


 レイは即座に炬燵へダイブした。


「極楽なのだぁ〜〜〜♡」


 その瞬間。


 部屋の押し入れから。


 コン……コン……


「…………」


「…………」


 レイの動きが止まる。


 白衣の女幽霊が静かに押し入れを見る。


「……居る……」


「のだぁあああああああ!!!!」

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