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ビビリなのに幽霊が寄ってくるんだが!?〜昭和オカルト作家・小野田レイの怪異取材録〜  作者: 雪だるま


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12/41

12 トンネル

 一九八一年、秋。


 深夜十一時四十分。


 山奥。


 冷たい風。


 虫の声。


 そして。


 ボロい軽トラックの前で、小野田レイは死んだ魚みたいな目をしていた。


「……のだぁ」


 疲れていた。


 非常に。


「なんでこうなるのだぁ……」


 レイは空を見上げた。


「吾輩、まだぴちぴちの二十歳なのだぁ……夜は寝ないといけないのだぁ……」


 しかし。


 現実は非情である。


 最近、レイの“実録心霊シリーズ”が売れ始めたせいで、編集部から普通に現地取材を押し付けられるようになっていた。


『次はトンネル特集な』


『最近噂になってる場所がある』


『行ってこい』


『若いんだから平気だろ』


 酷かった。


「のだぁ……ブラック企業なのだぁ……」


 レイは懐中電灯を持ちながらブツブツ文句を言っていた。


 目の前。


 山道の先。


 古びたトンネルが口を開けている。


 通称――“泣き女トンネル”。


 数年前に事故があったとか。


 夜中に女の泣き声が聞こえるとか。


 トンネルの中でバックミラーを見ると後部座席に女がいるとか。


 昭和オカルトテンプレ全部盛りみたいな場所だった。


「……のだ」


 レイは真顔になった。


「普通に嫌なのだぁ」


 すると。


 隣に白衣の女幽霊がスゥ……と現れた。


「…………」


「のだぁっ!!」


 レイは飛び上がった。


「お主ぃ!!最近出現タイミングが悪いのだぁ!!」


「……ついてきた……」


「なんでなのだぁ!!」


「……心配……」


「のだ?」


 レイは少し黙った。


 女幽霊はトンネルを見ていた。


「……ここ……あんまり良くない……」


「のだぁ!?」


 レイの顔色が変わる。


「やっぱり本当にいるのだぁ!?」


「……たぶん……」


「たぶんなのだぁ!?」


 レイは頭を抱えた。


「のだぁぁぁ……編集長ぉぉぉ……吾輩を殺す気なのだぁ……」


 だが。


 帰れない。


 なぜなら。


 最近ちょっと売れているからである。


 編集部で「小野田なら本物引く」と期待され始めていた。


「……のだ」


 レイは深呼吸した。


「うむ……仕事なのだぁ……」


「…………」


「大人はお金のために危険もやるのだぁ……」


「……二十歳……」


「ぴちぴちなのだぁ!!」


 レイは半泣きだった。


 だが。


 結局。


 懐中電灯を持って歩き始めた。


「のだぁ……」


 トンネルの入口。


 コンクリートは黒ずみ、壁には落書き。


 内部は異様に暗い。


 冷気が流れていた。


「……寒いのだぁ」


「…………」


 女幽霊は静かに隣を浮いていた。


 最近、完全に同行者である。


 レイは恐る恐る中へ入る。


 足音が響く。


 カツ。


 カツ。


 カツ。


「のだぁ……」


 トンネルは長かった。


 思ったより長い。


 しかも。


 静かすぎる。


「……うむ。怖い時は喋るのが大事なのだぁ」


 レイは無理やり口を開いた。


「お主、映画好きだったのだぁ?」


「……うん……」


「次は何見るのだぁ?」


「……コメディ……」


「うむっ♡」


 レイは少し安心した。


 だが。


 その時。


 奥。


 トンネルの向こう側から。


 女の泣き声が聞こえた。


「…………うぅ……」


「のだ」


 レイが止まる。


「…………」


「…………」


 再び。


「……うぅぅ……」


「のだぁあああああ!!!!」


 レイは女幽霊にしがみつこうとしてすり抜け、壁に激突した。


「痛いのだぁ!!」


「…………」


「聞こえたのだぁ!!」


「……聞こえた……」


「本物なのだぁ!?」


「……たぶん……」


「たぶんやめろなのだぁ!!」


 レイは完全に涙目だった。


 だが。


 ここで逃げると記事にならない。


 編集長に怒鳴られる。


 原稿料も減る。


「……のだぁ」


 レイは震えながらメモ帳を出した。


「仕事なのだぁ……」


「…………」


「怖くても金のためなのだぁ……」


 女幽霊は少し引いていた。


 すると。


 泣き声が近づいてきた。


「……うぅ……」


「のだぁぁぁ……」


 レイは懐中電灯を向けた。


 そして。


 見えた。


 トンネルの奥。


 白い女。


 長い髪。


 俯いている。


「のだぁあああああああ!!!!」


 レイ絶叫。


「また女なのだぁあああ!!」


 すると。


 隣の白衣の女幽霊が少し不機嫌そうになった。


「…………」


「のだ?」


「……なんか嫌……」


「何がなのだぁ!?」


「……女ばっかり見てる……」


「違うのだぁ!!」


 レイは半泣きで叫んだ。


「怖いだけなのだぁ!!」


 その間にも。


 白い女は近づいてくる。


 ズル……ズル……


「のだぁぁぁ!!」


 レイは完全にパニックだった。


「どうするのだぁ!?どうするのだぁ!?」


「…………」


 白衣の女幽霊はじっと前を見ていた。


 そして。


 スゥ……と前へ出る。


「…………?」


 泣き女の前に立った。


 数秒。


 沈黙。


 すると。


 泣き女がピタリと止まった。


「…………」


「…………」


 なんか。


 幽霊同士で空気があった。


 レイだけ置いてけぼりだった。


「のだぁ?」


 泣き女は白衣の女幽霊を見る。


 白衣の女幽霊も無言。


 数秒後。


 泣き女はスゥ……っと壁の中へ消えていった。


「…………」


「…………」


 静寂。


「のだぁ?」


 レイはポカンとしていた。


「……終わった……?」


「……帰った……」


「帰るのだぁ!?」


「……たぶん……」


「幽霊社会どうなってるのだぁ!?」


 レイは混乱していた。


 だが。


 白衣の女幽霊は少し得意げだった。


「……追い払った……」


「のだぁ?」


「……えらい……?」


「…………」


 レイは少し黙った。


 そして。


「……えらいのだっ♡」


「…………」


 女幽霊は少し嬉しそうだった。


 一方。


 レイは震えながらメモを書いていた。


『トンネルには本当に女がいた』


『しかも幽霊同士にも縄張り意識っぽいものがある』


「のだっ♡」


 恐怖の中。


 レイの商魂だけは死んでいなかった。


「新連載なのだっ♡」

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