1話 運命の邂逅(2)
「!! 何者だ貴様!! 」
あたしに恨みはないけど、王命を果たすと言った追っ手が振り返って叫ぶ。
「……」
青年は何も言わずに前を見ていた。あたしたちの周りを追っ手が囲む。
「貴様、自分が何をしているのか解っているのか」
「理解してないのはお前じゃないの」
「何?」
青年の言葉に苛立ちを含んで追っ手が訊き返す。
「……に、逃げてください……」
幼いあたしは青年を見上げながら、声を絞り出してそう言う。青年があたしに目を丸くして視線を向ける。
「殺れ!!!」
「!! やめて!!」
あたしの叫ぶ声に止まる事もなく、周りを囲んでいた追っ手が具現化した闇を纏った武器を持って襲い掛かる。
(――え……?)
目を見開く。襲い掛かる追っ手の姿が消えたからだった。
「!! 貴様、何をした!?」
「……安心しろ。殺してない。瞬間移動させただけだ」
「何!? ふざけるな!! 瞬間移動、そんな高度な魔法使えるはずがない!!」
「……」
青年は答えない。激昂して闇を纏った剣を振りかざす追っ手。その刃を、あたしを片腕で抱えたまま軽々避けて――そのまま追っ手を蹴り飛ばした。
「主に伝えろ。俺たちを追うなって」
青年は口にする。さもなくば、お前の国は災害に見舞われるであろう、と。
刹那、追っ手の姿はそこにはなかった。
追っ手がいなくなった事に安堵したものの、疑問が浮かんだ。
「……どうして、助けてくれたんですか……」
青年が眉を顰めて、その顔を幼いあたしに向ける。
「もしかして、覚えてないの?」
(――え?)
何を言われているのか、あたしには解らなかった。
「あんた、名前は――?」
「アメリアです」
「香花じゃなくて?」
「こうか? どなたのことですか?」
「……佐倉聖、この名に聞き覚えは?」
「さくらきよ……さん?」
幼いあたしはその名を口にして腑に落ちない顔をした。
「……ホントに覚えてないんだ」
「……えっと、どこかでお会いしましたか?」
そう言えば、その眉を更に顰める。
「……思い出せなくてすみません……」
申し訳なさそうに言うと、青年が口にする。
「少しずつ、思い出してくれれば良い」
歩けないよね。隈も酷い。寝てないの? 寝たほうがいい。と、青年が続ける。
「大丈夫。安心していい。あんたは俺が護るから」
「……私を知っているから、助けてくれたんですか……?」
青年は少し間を置くと頷いた。その頷きと言葉に、幼いあたしは疑問が解け、そして緊張が薄まる。
青年が歩き始める。そしてあたしに問う。
「行く場所ないんだよね」
あたしはその言葉に辛そうに頷く。
「とりあえず俺の家連れてくから、寝てていいよ」
その言葉に、あの、と言葉を漏らす。青年が顔を向けて見下ろす。歩く足を止めずに。
「お名前は、なんて言うんでしょうか……」
幼いあたしの言葉を聞くと、青年は前を向いて言葉を零す。
「……――佐倉。佐倉聖」
その名前に、さっき聞き覚えが無いか訊いたのは青年自身の名前だったのだと思った。
「さくらさま――」
「様じゃなくてせめてさんにして。あと聖でいい」
「……きよ……さん……。……あの」
「何?」
「重くないですか」
「別に重くない。あんたはそれよりも早く魔力が回復するように寝て」
その言葉は正しい。その時の幼いあたしは、魔力も無ければ身体も限界を迎えていた。眠気だって半端ない。空腹もあった。
「……すみません、少し休みます」
青年の事を思い出せないあたしは、目を瞑るだけ瞑って少し休もうと思った。
助けて貰ったとはいえ、数分前に殺されそうになった幼いあたしは、警戒心を完全に無くせなかったからだ。
目を瞑ったあたしは、青年が悲しそうで辛そうな顔をしていたなんて知らなかった。
目を開ける。
木製の天井が映る。ハッとして飛び起きた。
「……」
すぐ側には青年がいて。椅子に腰を下ろしてあたしを見つめていた。
「……身体は?」
「ここは――」
「……俺の家」
目を瞑るだけじゃなくて、いつの間にか寝てしまったのだと理解する。
寝てしまったのに、その間に青年は何もしなかったのだと判明して安堵する。
「……それで身体はどうなの?」
「あ、はい、だいぶ楽になりました。……あの、ありがとうございます」
「ならいい」
青年は立ち上がる。
「お腹も空いてるんじゃない? 起きれるなら食べる物用意するけど」
「え……いいんですか?」
「倒れられたら困るからな」
「……ありがとうございます」
幼いあたしは起き上がって、ベッドの側の下に置いてあった靴を履いた。
そして、あたしはしばらく青年の家に身を寄せる事になるんだ。




