5話 空の騎士(1)
聖くんによって絵本の読み聞かせが始まる。横になる幼いあたしは絵が見たくてうずうずし始めてしまう。
「『昔々。青空色の髪をした男の人がいました。男の人は騎士でした。騎士は剣で悪い獣や怪物と戦います。皆の笑顔を守るために。』」
そこまで聞いて我慢できずにあたしは起き上がってしまった。聖くんがあたしを見る。
「……」
「……」
お互いに見つめ合って静寂が包む。少しの沈黙の後、聖くんが続けていい? とあたしに訊ねる。
「えっと……絵、が見たいです」
そう言えば、聖くんは……おいで。と言い、右手をあたしに向かって差し出す。あたしが言われた通りに近づくと、聖くんはあたしを自分の前に座らせた。そして絵本を目の前に広げる。
1ページ目は紺碧の髪色をした、白い鎧を着込んだ騎士が笑って子供の頭を撫でている絵だった。2ページ目は魔物や魔獣と戦う騎士の絵。
聖くんが続きを読み始める。
「『騎士のお陰で国は平和でした。しかし、騎士の住む国を、突然夜が包みました。太陽はどこに行ってしまったのでしょうか。太陽がなくなった事で世界は真っ暗になりました。人々は悲しみます。』」
「まっ暗になってしまったんですか?」
そうあたしが訊ねれば聖くんが答える。
「そう。朝も昼もなくなって、ずっと夜」
あたしは3ページ目のお城を夜が包んで真っ黒な絵を見る。4ページ目は真っ暗の中、人々が泣いている絵で。
「ずっと夜なのは……こわいです」
幼いあたしは追っ手から逃げた夜の事を考えて、そう呟いた。
「朝も、昼も夜も、バランス良く来るのが1番良い」
聖くんはそう言うと読み聞かせを続ける。
「『騎士は太陽がなくなったのはどうしてなのか、それを探す旅に出ました。皆、旅を応援してくれました。外で寝ることもあった騎士でしたが、食べ物を分けてもらって頑張ります。』」
あたしは5、6ページ目を見ながら聖くんの声を聞いていた。旅先で食べ物を分けてもらい、食べる騎士の絵。そして──
次のページを聖くんがめくると、大きなドラゴンと戦う騎士の姿が描かれていて。
「ドラゴン……」
聖くんはあたしの呟きを聞きながら読み聞かせを続ける。
「『騎士は途中ドラゴンと出会います。暴れるドラゴンと戦う騎士でしたが、ドラゴンはとても強かったのです。騎士は負けそうなってしまいます。』」
それを聞いてドキドキするあたし。聖くんが次のページをめくって。そして9ページ目に白いマントを羽織った女の人が現れる。黒い髪を1つに束ねる女の人が魔法を使うシーンだった。
「…………。『そこに、とても強い魔法を使う娘がやって来ます』…………」
少しの沈黙が流れて、あたしは聖くんを振り返る。聖くんは眉を寄せて、辛そうな顔をしていた。
「……きよ、くん……?」
聖くんは瞼を閉じて、フゥと軽く息を吐くと、再び目を開く。
「……続けるよ」
聖くんの言葉に、あたしは不思議に思いながら前を向く。そして読み聞かせが再開する。
「……『娘は魔法でドラゴンを眠らせました。そして、騎士は助けてくれた娘にお礼を言います。』」
10ページ目は眠るドラゴンの近くで握手する女の人と騎士の絵。あたしはその展開に安堵した。幼いあたしは騎士がドラゴンにやられてしまうんじゃないかって思ったんだ。
次のページをめくると、騎士と女の人は仲良く焚き火をして、お話をしながらご飯を食べていた。
「『騎士と娘は一緒にご飯を食べながら話しました。仲良くなった2人は暗くなった世界を戻すために旅を続けます。騎士の心はポカポカしていました。独りでの旅は大変でしたが、もう独りではないのです。』
そして、次のページをめくる聖くん。最後のページは、暗い世界で笑顔で歩く騎士と女の人の2人。
「『2人の旅はまだまだ続きます。』──おしまい」
聖くんはそう言って絵本を閉じる。
「……おわりなんですか?」
「……続きもあるけど、今日はここまで。──寝よう」
そう言う聖くんをあたしは見つめる。そんなあたしに、聖くんは口にして。
「続きはまた明日。今日は寝るよ」
そう言った。
「あした、ですか?」
聖くんはそう訊ねるあたしに頷くと、横になって。と口にした。聖くんが立ち上がって絵本を本棚に戻す。あたしはそれを見ながら枕元に移動した。言われた通り横になる。
聖くんは横になったあたしに掛け布団をかけた。
「眠れる?」
聖くんはそう訊く。あたしは少しの間の後、答えようと口を開いた。
「あまり……ねむれないかもです」
「あと30分待って眠くならなかったら、魔法茶でも飲もう」
あたしの言葉にそう提案する聖くん。魔法茶というのは、魔法で作られた薬のような成分の入ったお茶のことだった。
そして聖くんは、幼いあたしが見たことのない機器、近くにある作業机の上のCDプレイヤーにCDをセットして音楽を流し始めた。
それは緩やかなメロディで、眠るのに適した音楽だった。
「聴きながら目、つぶって」
あたしは言われた通り目を瞑る。そして、その音楽を聴いていた。




