ステイタスとスキルと私
晴天の空に2mほどの空間が開く。
そこから排出された黒ずくめの男は地上から4mはあろう高さから落下する。
「うぼぉぉぉぉぉぉ」
口に物が詰まっているので絶叫も何故か滑稽に聞こえる。
身体能力の高い身体は自分の落下速度を計算し体勢を整え見事着地した。
「ぺっ」と口から異物を出し、手に持っていた物を地面に落とす。
『なんて飛ばし方してんだ、アーテめ!』と心で愚痴りながら、異物を拾って広げる。
異物、もといステイタス票には、
【属性耐性】
地属性 (中)
水属性 (中)
火属性 (中)
風属性 (中)
雷属性 (中)
『注意』ただし、完全耐性では無いので慢心せず避ける事をお勧めします。
【暗黒魔法】
アース
ウォータ
ファイア
ウィンド
サンダー
『注意2』殺傷力は多分有りませんので、戦闘で使わないことをおススメします。
ちなみに使用する際は手に魔力を込めて唱えると発動します。貴方は魔力が少ないので使用回数に注意してください。
と、書かれていた。
あまり役に立たなさそうだ。
『せっかく魔法が使える異世界なんだから派手なのを使いたかったな』
「はぁぁぁぁぁぁ」
自然と深いため息が出た。
知らない土地で右も左も分からず、そのうえ使えないスキルと来たもんだ。
その上、無一文だし、依頼をほぼ一日で達成しなきゃいけないとかどんな無理ゲーなんだ。
そうだ……、ゲームだと武器は持ってるだけで装備しないと戦闘で使えなかったな。
まずは、アーテから頂いた物を装備しよう。
いつエンカウントしてもいいように。
地面に落ちてる剣帯とナイフ、そしてアーテから盗んだ全状態異常無効化の腕輪を付ける。
この腕輪は先程アーテに抱きついた時にスリの練習で盗んだ物だ。
『本当は返すつもりだったんだぞ……』と今はいないアーテに言い訳するのだった。
さて、気を取り直して周囲を確認。
まず丘の上には巨木が一本立っている。
そしてこの目印のような巨木のすぐ横にはどす黒く硬い土の街道が南北に伸びている。
俺の現在地は街道から外れた短い草の生えた場所で巨木の近くだ。
ここから奥は背の高い草莽、さらに奥は林なのか森なのか不明だが木々が茂っている。
ここがアーテが言ってた【トロエの丘】なのだろう。
ここは見晴らしのいい丘で、北西には海が見えその近くに港と思われる白一色の綺麗な町がある。遠くからだと町並みは欧州の中世時代のものに見える。
そしてあの綺麗な町にヘグニムという豪商がいるに違いない。
街道は人通りが多く、大きな荷物を背負った商人や剣や鎧を装備した冒険者など様々だ。
そんな街道を眺めている俺を通行人達は怪訝な顔で見ては通り過ぎていく。
街道をずっと観察している俺は目立っているのだろう。
恥ずかしいのでそそくさと場所を移す。
そこは街道とヘグニムがいる港を一望できる高い草が生い茂る場所。
そこに身を潜め通行人を観察する。
何で観察しているかと言うと、盗む対象者を物色するためだ。
ーー何故なら女神がお金を用意しなかったからだ!
『あの自称女神のせいで犯罪者の仲間入りか、悲しくなるぜ……』
『どうせ今回限りだ』と言い聞かせ、少しでも良心が痛まないよう出来るだけ金持ちを狙うことに決めた。
しかしここは街道から離れていて通行人が豆粒のようにしか見えない。
目を細めて見ても見えるわけが……、おおぉ!
ズームするかの様に視界が鮮明になり通行人の顔まで見えるようになった。
『この身体スゲーな……』
十人以上物色し商人の後を歩く三人組の一段に目が止まる。
三人は一列横隊で歩いていて、全員が白い鎧を纏い、腰にはお揃いの剣を吊るしている。
真ん中を歩いているのは青色の長髪を風になびかせている美形の男。
マントも風でなびき腰に下げている大きな皮袋が見えた。
あれほど大きいとなると大金に違いない。
「ゴクリ」と喉が鳴る。
しかし、一番気になったのが左右を歩く騎士達。
両方とも美女なのだ!
許せん!
『コイツから必ず盗んでやる‼︎』
俺は歯ぎしりさせながら拳を強く握り誓うのだった。
作戦はこうだ。
スキル【おっとごめんよ】を使う。
これは対象者の肩にわざとぶつかり、その隙をついて腰の財布を盗むと言う、古から伝わる技術!
そして通り過ぎざまに「おっとごめんよ〜」と少しチャラい感じで言うのが作法らしい。
この技術は女神のところで読んだ【別冊 江戸の仕事人達】に書いていた。
『初めての実践で震えが止まらないが、これは武者震いだろう……、そうに違いない』
気温は低くないのに、心なしか手も冷たくなり寒気もする。
そんな自分を鼓舞するかのように『俺なら出来ると』と心に言い聞かせ、トロエの丘に戻った。
丘に戻ると商人の後ろを例の三騎士が歩いている。
俺は前に迫る商人を交わし、憎き男性騎士目掛け小走りで近く。
男性騎士は商人の影から突然現れた俺に驚き身構えようとするが、それより早く俺と衝突した。
仰け反る騎士の隙をついて皮袋を掴む……、はずが悴んだ手が誤ってベルトを掴んだ。
思った以上の強打に騎士の身体は浮き、「ブチッ」とベルトが切れる音とともに吹っ飛んだ!
「ぐえぇぇ」
男性騎士の口から出たとは思えない声が響く。
男性騎士は優に2mは飛び地面に何度も叩きつけられた。
女性騎士達は目をまん丸に開き、口も半開きで立ち尽くしている。
「ほんとにごめんよ〜〜」
俺は作法とは若干違う台詞を吐いて、全速力でその場から逃げた。




