異世界へ
「ちょっとこれ壊れてるんじゃないんですか!」
彼女は手に持っていた二本の金属製の棒を床に叩きつける。
「やっぱり出来ないじゃないか」
俺は床に落ちた棒を拾いあげる。
「今日はちょっと調子が悪かっただけですよ。次は士郎さんがやってみてください。アタシの勇姿を見ていたからできるはずです!」
「はいはい」と軽く返事をして、扉の前に屈み、鍵穴に金属の棒を二本入れる。
本の通りだと確かここからこうして……、こうだった。
『ガチャッ』
軽快な音を立てて扉が開く。
思ったより簡単に出来た。
『赤猿先生ありがとう!』
ついでに今度は扉を施錠してみる。
『ガチャッ』
扉を簡単に閉めることができた。
「すぐ覚えるなんて、さすが士郎さん。アタシの見事な実演のおかげですね」
「そうだな……」
そんなことは微塵も思っていないが円滑に進めるため素直に頷く。
「さて、そろそろ異世界に言ってもらいますよ。準備はいいですよね!」
「いやいやいや、ちょっと待て!異世界のお金や武器とか貰わないと生きていけないだろ⁉︎」
アーテは『しまった!』という顔になり目が泳ぎだす。
「め、女神のアタシが異世界の通貨なんて持ってるわけないでしょ!それに泥棒なら人から盗んで手に入れるものです!あと泥棒に武器は必要ないはずです⁉︎」
人様から金を盗めって推奨する女神ってどうなんだ⁉︎
絶対コイツは女神じゃないな……。
「泥棒ならお金を盗めと言うならしょうがない。しかし武器は必要だ。赤猿先生だって愛用の武器があっただろ!無いとは言わせないぞ‼︎」
「はぁぁ〜〜、しょうがないですね。ちょっと待っててください」
アーテは部屋の隅にあるロッカーの中を漁る。
彼女は俺の前に戻ってくると刃渡り50cm弱のナイフを持ってきた。
「これ貸してあげる。あくまで貸すだけですから!大事に扱ってくださいね」
「ありがとう、これで魔獣にあってもどうにかできそうだ」
アーテは柄の黒いナイフと一緒に黒い剣帯も渡した。
「このナイフは【リジル】って言うんです。魔法を刀身に移すことができる特別製ですよ」
「ありがとう、アーテ」
彼女の肩を掴み引き寄せ、そしてソッと抱く。
「ちょっといきなり何するんですか。こういうのはもう少し段階を踏んでからですね……」
ドキマギしている彼女の耳に優しく感謝の言葉を投げかけ、身体を離す。
そしてアーテの肩から手先までなぞるように俺は手を動かす。
アーテは真っ赤な顔で俺をみつめ、そして徐に瞳を閉じた。
そこまで本気にされると罪悪感がわく。
ちょっとある事を試してみただけなのに。
「そうだ、俺って何か魔法覚えてるのか?」
一瞬何を聞かれたのか分からないといった表情になるアーテ。
「お、お、覚えてますよ。それに……」
ーードンドンドンドン
アーテの言葉を遮るように扉を忙しく叩く音。
「ちょっと!アーテ。中にいるんでしょ⁉︎早く出てきなさい!」
「ヤバイですよ!早く異世界に放り投げないと!」
扉を叩く女の声に彼女は急に焦り出し、なにやら唱え始めた。
すると俺の足元に魔法陣が現れる。
魔法陣はしだいに赤みを帯び輝きが増す。
そして魔法陣が赤一色に染まると、俺の身体が魔法陣の中に沈み飲み込まれる。
「アーテ、何をしたんだ⁉︎助けてくれ!」
「大丈夫ですよ。その魔法陣を抜けた先が異世界です。
今、落ちる場所はトロエの丘と言うところです。
そこから北西に進むとヘグニムという豪商の邸宅があるので、
その方から魔剣を盗んでください。
魔剣を持って明日の朝七時にトロエの丘にまた来てください」
アーテは肩まで埋まっている俺に早口で言う。
「それとこれが貴方のステイタスになります!受け取ってください」
両手が塞がっている俺にどうやって受け取れというのか!
彼女はステイタスが書かれた紙を丸め、大きく振りかぶって俺目掛けて投げた。
「アーテ、腕をもう出せな……」
ナイスコントロールで俺の口にジャストイン。
神妙な顔の自称女神を眺め、口の中の物を噛み締めながら俺は魔法陣の中に飲み込まれた。




