ネオ
何も知らなかった時に比べ、死んだ事実を知った今の方が随分と落ち着いている。
そして落ち着いたことで視野が広がったのか、さっきより周囲がよく見える。
床は銀白色の金属板が敷き詰められ、まるでSF映画の宇宙船のようだ。
そして円筒形のガラスケース以外の物は無く、無菌室のように埃一つ見当たらない。
「少しは落ち着いたようですね。士郎さん」
「さっきより幾分マシってだけだ」
「それで十分ですよ。さて、これからが本題なんですからよぉ〜く聞いてくださいね」
本題と言われても死んだ俺に何ができると言うのか。
「士郎さんにはまず異世界に行ってもらいます」
「何言ってんのかよくわからんのだが……」
異世界ってゲームの話なんだろうか、よくわからない単語に困惑する。
「剣と魔法と魔人や魔獣がいる世界。まあ、ゲームみたいなものですよ。理解できないならそれでもいいですけど。では、話し進めますよ」
最後まで聞けってことか……、分かりました。
「そこで魔剣ダインスレイヴを盗んできてほしんです。腕がなるでしょう⁉︎」
「あの……、一つ言っていいか?」
「本当にもうしょうがないですね。いいですよ!」
アーテは困り顔でため息をつく。
「俺って普通の会社員だぞ。そんな俺が盗みなんて出来るわけ無いだろ」
「もうそれくらい分かってますから。大丈夫です、アタシを信用してくださいって!」
彼女は平らな胸に右手をドンっと当て「任せて、任せて!」と言った。
殺した奴を信用する馬鹿がどこにいるというのか……。
こいつはやっぱり頭のネジが少し足りないのかもしれない。
「鈍臭い士郎さんでも出来るように素敵な身体を用意しちゃってますから大丈夫ですよ。ささっと身体を入れ替えちゃいましょう!」
彼女は俺の背中を両手で押してガラスケースがある方へと連れて行く。
ガラスケースの中には老若男女問わず入っていて、どれも容姿が整っている。
容姿が整いすぎて逆に生き物とは思えない不気味さがある。
彼女は一つのガラスケースの前に俺を連れてきた。
「じゃーーん、この子が貴方の新しい身体になります!イケてるでしょ⁉︎」
新しい身体は身長180cm無いくらいで肩まである黒髪に中性的な顔立ちをしている。
瞳の色は瞼を閉じていて不明だ。
「確かに、俺の容姿の数十倍はイケてる……」
「ですよね!どう?気に入りましたか⁉︎」
アーテさんそこはお世辞でも「同じくらいイケてますよ」って言ってくれてもいんじゃないかな……。
軽く落ち込む俺のことなど気にせず、我が子を自慢する親のようにはしゃいでいる。
「いいねコイツ。でも入れ替わって大丈夫なのか?」
「もう何言ってるんですか、士郎さんは死んじゃってるんですよ。これ以上悪いことなんて起きるわけないですよ」
『確かに!』と思ったが、直ぐに『殺したヤツが言うんじゃないよ!』と心内で突っ込む。
「それもそうだな。じゃあやってくれ」
「了解しました〜。それでは、そこの金属のパネルに両手を付けてください」
円筒形のガラスケースの下に金属板が二枚付いている。
俺は屈んで手を開いて両手で各々の金属板に触れる。
「じゃあ、いきますよ!」
アーテは金属板の隣にある禍々しいほど赤色をした丸いボタンを押す。
すると俺の身体が白い粒子に分解され、その金属板を通してガラスケースの中に入って行く。
粒子となった俺が、ガラスケースの中にいる身体に溶け込むように吸い込まれて行く。
俺の意思に従い新しい身体が動いた。
目を開け、酸素を取り込もうと肺が動くが周囲にあるのは水、空気など無い。
『ゴボボボボォォ』
口から漏れる息で大量の泡ができる。
焦燥感から口を閉じるのも忘れ、ひたすらガラスケースを叩いて暴れる。
それを見たアーテが赤色のボタンの隣にある青色のボタンを押す。
ガラスケースが真ん中から左右に開き、中の水が地面に広がって流れる。
俺は浮遊間のある身体に急に重さが加わり軽い落下運動を味わう。
運動神経のいいこの身体は体勢を崩すことなく地面に着地した。
「はぁはぁはぁはぁはぁあぁ」
身体を反り両手を腰に当てて、おもいっきり酸素を肺に取り込む。
危なかった。一日に二度死ぬところだった。
「おかえりなさい。その身体すごいでしょ⁉︎その身体ならどんな物でも盗めるはずです!」
『そうなのか?』と疑問に思いながら、身体を軽く動かす。
「よっとぉ」
地面を軽く蹴り垂直跳びをすると、2mくらい飛んだ。
確かに凄い身体能力だ。他にも試したいがアーテが睨んでるので後にしよう。
「士郎さん。その身体を自慢したいのは分かりますが、女神たるアタシの前でナニを見せつけるのはやめてほしいんですけど!」
頰を桃色に染めひたすら照れるアーテ。
「ガラスケースの中にあった時には散々見てただろ⁉︎ナニを!」
「士郎さんのナニだと思うと照れちゃって……」
彼女はさらに顔を赤らめ、ナニを見ないように手で目を隠しながら俺の前を歩く。
「士郎さん、ついてきてください」
「わ、わかった」
そこまで恥ずかしがられると、今更ながら俺も羞恥心が芽生えてくる。
両手でナニを隠してアーテに付き従った。
あれ⁉︎聞き間違いかな、さっき女神って言ってたような……、でも、そんな訳ないか。




