その名は
女は容姿が整っていて愛嬌のある顔で微笑みを浮かべている。
歳も二十歳前後で肌艶が良く健康的に見える。
そんな彼女は黒いスーツを着てタイトスカートを履いて如何にも社会人と言った風だ。
しかし、社会人では無いだろう。なぜなら髪の色が薄桃色だからだ!
地毛でそんな髪の色をしている人なんて聞いたこともないし、スーツを着用するようなお堅い会社でその髪を許すとは思えない。
そのうえ仕事ができるタイプの人間には失礼だが全く見えない!
「あ、あのどちら様ですか……」
俺は身体を小刻み震わせながら問う。
「ちょっと覚えてないんですか⁉︎アタシ泣いちゃいますよ……」
彼女は今にも瞳から涙を流さんばかりの顔で答えた。
「でも、貴方とは小さい時にあったので忘れてしまったのかもしれませんね」
「どれくらい前の話ですか?」
この気の抜けた話し方をする女性を前にして、少し落ち着きを取り戻した俺は四つん這いをやめ立ち上がる。
「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜とですね」
彼女は「う〜〜〜〜〜〜〜ん」と頭に指を当てて思い出そうとしている。
「あっ!そうそうあれは26年前ですね!」
「ちょっと待てぇぇい!それだと俺は1歳なんだけど」
「そうそう、そんな感じに小さかったですよ」
「悪いんだけど、全く記憶にないんだ」
俺の発言で彼女の顔が曇る。
「けど、アタシはあの時貴方に手を振ってもらってから、
貴方にときめいちゃってずっと観察してたんだよ!」
『なにこの女、重いわ……、正直怖いんですけど』
「俺があんたに手を振ったんですか⁉︎どこでですか?」
「アタシが空を飛んでいた時に、ちょうど横になっている貴方と目が会っちゃって」
彼女は朱に染まった顔に手を当てて何度も横に首を振って照れている。
「何を言ってるのか全く理解できないんだけど」
「だからベビーカーに乗っていた貴方がアタシに手を振ったんですよ!」
百歩譲って彼女に手を振ったとしても全く記憶に残せない年齢だ。
一般常識わかる大人なら気づいていいはずだが……。
「すいません、本当に覚えてなくて。話変えるようで悪いんだけど何個か聞いていいですか?」
「仕方ないですね。いいですよ、なんでも聞いてください」
「でも」と彼女は続けて言う。
「最初の質問はわかってますよ。この可愛い女性の名前を聞きたいんでしょ!
アタシはアーテ。しっかり覚えてくださいね」
「はいはいアーテさんですね」
おざなりな合図地を打ちつつ質問をする。
「それでここってどこなんですか?たしか俺はアパートで寝てたはずなんだけど?」
「それ聞いちゃうんですか!少し長い話になりますけど覚悟してくださいね」
真剣な顔になるアーテ。
そして彼女は語り出した。
「士郎さんがアパートのベッドで寝ているのを見計らって、一階の士郎さんの部屋だけに直下型地震をチョチョイと発生させたんです」
「ちょっとまてぇぇぇ、殺す気か⁉︎」
ちゃぶ台が有ったらひっくり返すところだった。




