表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/28

第二十六話「視座する玉座」

人の上に立つって簡単なことじゃ無いんですねぇ…

 手の届かないものを見て自分には要らないものだと考えるのを「酸っぱいぶどう」と言う。

これまでにそうして諦めてしまったものの数を数えたら手のひらに収まる数だ。

目の前の少女は崖っぷちに立たされている。届かないから諦めるなどとは一切言わず、それどころか必ず玉座に返り咲くとまで言ってのけた。

それがどれだけ無謀であるかを少女自身分かっている筈なのだが、届かないと決め込んで拗ねるでもなく行動を取っている。


「はぁ…飽きたわねぇ…タツヤ、あっちの緑表紙の本をこっちに持ってきて頂戴。もう不用意に分類とかし始めるんじゃなかったわ…」

書斎に山積みになっていた摩訶不思議な借り本達を種類ごとに分け始めてから既に一時間ほどが経過しようとしていた。


最初に掴んでしまった雷の正体についての本(レイラが言うにはそんな内容らしい)以外にも、触ったらぶるっと震える本や試しに(ページ)をめくってみたら歌い始める本があった。

どんな理屈で動いているかは女帝サマでも知らないとの事、いよいよ俺の世界とは違った世界らしい部分が垣間見えて少しだけ気分が上がっている。


「まだ良いわよ。これが学説を語る本同士を隣り合わせてみなさい、最悪の事態を招くこともあるんだから」

女帝サマは途中から俺に向けて指示を飛ばすだけになり、簡素な椅子に腰掛けて脚を組んで座っている。


最悪の事態って一体何が起きるんです? 俺は好奇心に駆られてちょろっと聞いてみた。


「え、それはもう大変なのよ。 学説上対立したりする内容の本に書いた本人か、仮想の人格が入っていると酒場いる様な調子で相手を罵り合うのよ」

うわっ…しょーもない個人否定とか始まんの?あーでもないこーでもないって?

「ふっ、聞いて呆れるかもしれないけどそれどころか、本同士で物理的な衝突が始まるの。ばったんばったんやられた日には、その手の本棚が破れたページだらけになってるとかざらなんだから」


わーい、楽しそう。(楽しくない)

「格式ばって値段のたっかい本は気をつけなきゃいけないのにはそんな理由があるのよ。 「語りかけるのは知識のみならず、著者の深淵である」ってね。」

成程ね、それはまた大変だ。

「それでも本は良いわ、下らない人間の中身を考えなくて良いもの。」

なるほど?

「 あのね、そこには読み方に文句を言ってきたり、扱いによっては怒られたりするけれど…利害関係も人間関係も損得勘定も存在しないもの。現実から離れ、それこそもう一つの異なる世界を想像できるわ」

女帝サマは言い過ぎたわと害虫退治の本だと言って俺から預かった中で何かが(うごめ)いている本を身近な本棚に突っ込んだ。


俺はあんまり活字を読んでいると眠くなるから賛同は出来ないが、漫画になってる本だったら好きで読むんだけどなぁ。

俺は学術本やら論文は内容を想像をしていると不思議ともう数分で船を漕いじゃうから…


「あらら、それはまた集中力が足りてないんじゃなくって?」

えー、女帝サマこそ本の整理飽きてるじゃないですかー。

俺にやらせるばっかりで自分は座っちゃってますしー?


「ふふっ違うわタツヤ、これは小休憩を取っているだけよ。今にこの部屋は整理整頓され文句一つない書斎になるのだから!」

はいはい、そーですねー。 あ、それよりこの本ってどの本棚に入れれば良いんですかね?


「それよりって…あっ、タツヤその紫色かかった本は開かないでね、お願いよ? 呪いに関する本なんだけど開くと三回に一回は女の人の声で叫び始めるから五月蝿いのよ」


えぇ…なんでそんな怪しさ満点の本がここにあるのかは聞かないでおこう…

「その本は向こうの青い本をしまった本棚に置いて頂戴」

はいはいと返事をして俺は奥の壁際の本棚へ紫色かかった表紙の本をしまう。


「それにしても、文字が読めないって言うのは厄介よねー、本が読めないからこっちの世界の知識を身に付けられないじゃない?」

俺は別に呪いやら魔法やら妙ちきりんなものを身に付けるつもりはさらさらないがな。

と言うより女帝サマに協力して国を一つひっくり返すなんて事も俺には荷が重すぎるのでその役は降りる気も満々である。


「そうね…レーヴェが魔法使いの一人でも知っていれば話は変わってくるのかもしれないわね」

つまりは「本物の魔法使い」に教えてもらって、色々教えて貰うって事か。

「えぇ、でも一筋縄ではいかないでしょうね」

そりゃまたどうして?

「魔法使いや魔女は基本的に人間離れしてる価値観や倫理観を持っているのよ。 自分の欲を満たす為なら国の一つ滅ぼしても構わない様な人種…って言うのは流石にちょっと偏見ね。

そう、貴族の家で抱えている魔法使いなんてのはこの書庫よりも下手をしたら知識を蓄えているわ。」


そ、そんなにか?! この書斎だって千冊とはいかないまでもその位の本が入る広さだぞ?


「そうね本物って言うのはいるものよ、私は本を齧ってはその知識を繋ぎ合わせた程度の浅さだもの、文献にある奇跡に近いそれこそ世界を変えてしまう様な事はとても…」 

嘲笑する様に空笑いが本棚の向こうから聞こえた。


はい? 何を言ってるんだこの女帝サマは「奇跡」なんてもうとっくに起こしているじゃないか。

「え…タツヤ、何を言っているのかよく分からないのだけど?」


うーんいやいや、だってあれだろ? 女帝サマは立場引き摺り下ろされたんだろ?有る事無い事貼り付けられてさ…

自分見てたの世界から一度は完全に追い出されたわけじゃない?…そこからやり直してもう一回返り咲こうとしてやろうって言うんだから大したもんだって思う訳よ?


「あ、あー、そそ、そうね! 私は栄光ある帝国の皇帝だもの! 元老院のお貴族共の起こした政変の一つや二つかーんたんに乗り切ってやるわよ!!」

おーおーその意気だ、出来るかどうかはさておきな。


「な、何よ〜見てなさい! 今に何十万の軍勢を掻き集めて宮城に雪崩打って占拠してやるんだから!!」

おいおいそんな物騒な方法をしたら、確実に戦争になるでしょ?

「何言ってるのよ、わたしが望むのはクーデターよ。

内戦なんてしていたら諸外国から介入されて草刈場になるわ。 だから有無を言わせない様な力が必要なのよ」

え、何それこわい、レイラさんにはどこまでの事を見越しているのんですかね…?


「そうね…一手先の事を見越して人の感情を排除して行動する事は案外と簡単に出来るのよ。 効率を突き詰めて、費用対効果で物事を判断するってね…だってそれが一番人の為になるって思っちゃったんだもの」


女帝サマはそう言って手にしていた黄色がかった表紙の本をポイっと近くの本の山に放った。

「グェ!?オイ、キヲツケロ!」

本から何故か潰れた男の声がしたが俺も女帝サマもその声には反応することもなく次にかける言葉を探している。


まぁ、なんだ…あんまし急にあれこれこねくり回してやんのはさ、考えについて来れない奴もいるんじゃねーかなって…

俺は女帝サマに言葉を返す。

物事を変えるってのはそんな簡単な事じゃない。 俺一人が習慣を一つ変えるのだって苦労するんだ、国の大きさで物事を変えるのは相当大変だと思う訳よ。


「ええ、そうよ、そしたらいつの間にか私を糾弾する連中が現れて、あれこれ変えるなー!って勢いづいちゃって最終的にはこんな事になっちゃったのよ…」

それで自身の地位と名誉を全て奪われた女帝は古城で一人復讐を誓っているのか…

「そうね、許さないわよ」

…と言う割にはさらっと言ったな。女帝サマ?

「だって、やると決まりきってる事に感情を裂ける程暇じゃないでしょ?」

月並みに背筋が凍る様なと思ってしまったが、それ程までに女帝サマの言葉には感情が込められていた。

急に出てくるからびっくりしたわ…

「やるべき事を見越して計画を立てるの、私はどんな形であってもあの玉座にもう一度座ってみせるわ」


恐ろしい程女帝サマの目が据わっていて、心臓の鼓動はは速くなる…それでも俺は目を逸らさない。

話の途中からちょくちょくと目線を合わせていたのが失敗だった。恐らくこれを放っておくのは相当危ないとそう俺に予感させ、切り返す言葉を少ない語彙力から選ぶ。 


あー、なんだ…女帝サマがお天道様の下歩ける様になるといいな?

今の女帝サマは国を傾けようとして裁かれた大悪女とされている…ならせめて名誉回復してから国外へ脱出するというのも選択肢としては考えておいて欲しい。

遠回しではあるが、俺は女帝サマにそう伝えた。

「…タツヤ、貴方私に誓いなさい。 従者として、そして臣下として私を宮廷、そして玉座の間へと再び連れてゆくと」


こんな書庫の中で言わなくてもいいだろうと俺は内心思う。


誓いはしないが報酬もあるしな…女帝サマにクーリングオフの権利があるかどうかは知らないが俺に拒否権は無いのだろう?


それなら俺達が五体満足で健康なら文句は言わない。女帝サマの目論見には賛成してやるよ。

人を呪えば穴二つ、人を陥れて能書き垂れる連中にはそれなりの報いを受けさせてやりたいしな。

「…ふーん、最低限の臣下としての自覚があるなら良いわ。

主人の為に精々粉骨砕身してみせなさい」

えー、全身複雑骨折するまで危ない事をしろってのはちょっとね…

「ちょっ、言葉の綾よ、おバカ!」

それから一時間程、俺達は小言を言う本達と格闘して本棚に本を並び入れ、書斎をすっかり整頓したのだった…


次回へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ