第二十五話「バーバーヤーガー」
バーバーヤーガーで検索、検索ぅ!
蔦の伸びるこじんまりとした古城、石を組み上げて作られ、今は野放しになったこの場所がまた陽の目を浴びる事になるとは城自体も驚いているかもしれない。
かつて帝国が南側への領土拡張を行う際の前哨基地との役割を担っていたそうで、この城には当時貴重であったぎょうかい石が用いられているらしい…ギョウカイセキってどんな石だ?
この世界の固有名詞+石か?灰色味を帯びた石で建築資材に使われる石? ダメだ、そっちはさっぱり知らん。
こーゆー時に携帯があればな、 調べたいものがあるときにいつでもどこでも辞書が開けるというのは実に便利だ。
「そうね、まさか帝国の皇帝自らが拠点を移してここから帝国を始まるなんて思わないわよね、それも地位を巡っての争いを始めるだなんて…」
皇位継承権…つまりはレイラは兄弟がいるって事か。
「そう、ややこしい決まりと風習が絡み合っているのがあの世界の恐ろしいところよ。 だから新しいものをあれこれ引き入れるのはとても苦労したわ…」
兄弟ね…何処の世界にでもあるんだなそう言う話、なんか少し安心したわ。
「そういう話ってどんな話よ?」
いいや、どーこの世界でも兄弟姉妹っていうのは苦労がついて来るもんなんだなぁってな…しかも御家騒動にまで発展するのかよ…時代劇か何かかな?
「ジダイゲキは分からないけど、四代も続くと国の基盤と欠陥が露呈してくるから何かと大変なのよ。 血縁はいっぱいいるし、何かにつけて名誉だ栄誉だって実益の伴わない話ばっかりするんだから」
…それはなんかご愁傷様だな。
「ごしゅ? いいわ、一先ずあの貴族家のの実権を握らない事には始まらないし、私は表立って動けないから貴方が主な行動を起こすのよ。分かったかしら?」
俺? いやいやご冗談を、女帝サマ。 何度もお話しさせて頂きましたがね、俺はしがないただの農家なわけ。
そりゃあ、死んだ筈の女帝サマがこの国をうろうろしてたら大混乱になるだろうけどもさ。
「そうよ、だから貴方は影から帝国を崩して束ね直す舞台の主役なの」
…はぁ、主役ではなく端役なら仰せ使っても良いんですがね。 あれだよ、舞台袖の木の役とか。
「ダメよ、私はこの世界に貴方位しか信用出来る人間がいないもの、私が作る舞台なら、貴方しか主役にしかならないわ」
真剣な目をしちゃって…そう期待されてもネー、俺本当何にも出来ないよ?
「そう? 何も出来ないなら出来ないなりに使い様はあるわよ」
あっハイ、そうですか…どうにも女帝サマは俺を仲間の数に加えたいらしい。 あっちの世界に俺より優秀な人間いっぱいいるでしょうが、なんだって俺なんだ。
「そうね…不思議だってわたしも思っているのだけれど、貴方は元の世界に帰りたいだとか泣き言は言わないのよね…何故かしら?」
それは一度試そうとした、だけどな…少なくとも「勇者」の役で世界を救えだの、この世界で何も受け付けない無敵状態で神様に雑に呼ばれたわけでもないからな。
「普通の人間」でいられるのならまぁ、多少は話し相手位にはなってやろうとそう思ったまでの事よ。
決してレイラが赤髪吊り目の美少女だったからだとか、、この世界で現代の農作物を売ったら儲けられるかなだとか、
そんな事は理由には入っていない…そう、俺は変な期待はしない。
「そ、そうなのね…でもねー私が求めているのは茶飲み話が出来る様な呑気な相手ではないのよ…?」
なら俺は正直に言わせてもらえれば役不足感は否めないと思うんだが、それでいいのか?
「ダメよ、むしろ貴方しかいないわ。 私はこの世界で独り法師になってしまった哀れな皇帝様なのよ。
白亜の城も、讃える臣下も無く古城でヒトリ、世の中を呪って過ごすだなんて耐えきれないもの」
あぁ、もう絶対この女帝サマ失敗しない男の引っ掛け方とか、教育上良くないものも読んでるよ…誰だよやんごとなき身分の人間が使う本棚にそんなタイトルの本入れ込んだのは…!
「貴方しかいないわ」なんて皇帝サマに使わせていい台詞じゃねぇ! これでにじり寄ってでも来られたらアウトだった。 危ねぇ…
「あら、貴方しかいないのは本当よ。 さっきの貴族分家の当主だって、物資的支援だけで本当は担ぎあげる気なんて無いでしょうし…ただの危ない橋でしょ?
それに…わたしのかつての臣下達だって、もう離散してそれぞれの生活があるもの、今更になって協力して欲しいだなんて言えないわよ。」
で、そこから考えた末の結末ができるかどうかも分からない異世界人の召喚だったと…大分突拍子も無いところに着地したな。
「困った時は「そんなにして欲しいことがあるのならバーバ・ヤーガーに頼りなさい」なんて駄々をこねると昔言われたものだったけど遂には私がそう言われる様になっちゃったわね…」
バー…なんだって?
「バーバ・ヤーガーよ、そっちの世界にない単語はこっちと同じ発音の仕方になるのね、不思議。 言い方を変えると老いた魔女の事なの、古い話に出てくる典型的な悪い子供を攫って食べたりする怖い存在ね。」
老いた魔女って…女帝サマは俺より年下だろ? 枯れただなんだと発言が出来るうちはまだまだ体が若い証拠だよ。
俺なんて笑えなくなるくらいだからな…中腰の作業が多いとどうしてもキツくなるんだよなぁ。
「あら、そうなの? それはまた困ったわね、古書を仕舞ってもらおうにも一苦労なのかしら?」
日常生活には問題ないんだが、いかんせんぎっくり腰が怖くてな。
学生の時の要領で動き回るのは少し控えている。
ぎっくり腰は親も経験しているし、一度なると再発すると言う…まさか異世界に来て自分の体の心配を説明する事になろうとは思わなかった。
「そう、ならいいわ。臣下であるタツヤに二つ目のお願いなのだけれど、書斎にしている部屋の片付けを手伝ってくれるかしら?」
あの羊皮紙とインクの匂いのする部屋をか?
普段女帝サマが読物をしている部屋とは別に締め切られた暗い本棚しかない部屋の事で、本人曰く「国立の図書庫より色々と借りてきたのよ」とコメントを頂いた。
俺がいやそれは「借りてきた」ではなくて盗んできたなのではと返すと「近いうちに必ず返すから問題ないわ」と言われて言葉を返せなかった。
「ふぅ…そんなに締め切っているつもりは無いけど、やっぱり日を決めて虫干しした方がいいわね」
本棚のみならず俺の身長ほどにうず高く積まれた本の山たるや、これ全部持ち出し禁止の魔法に関しての本なのだと思うと確かに「魔女」であると吹聴させるのもおかしくはない気がする。
「タツヤ、どうかしたかしら?」
いやー、部屋一面に本棚があってうず高く積まれたこの書籍達を読み終わるのはいつまでかかるんだろうなとちょっと気が遠くなっただけだ。
「まーそーねー、取り敢えず禁書を洗いざらい持ってきただけだから中身をチラッと読むの、それで関係無い本が有れば本棚から出して積んでるって感じかしらね。」
いわいや、さらっと言ってのけたが、床に積んである本の塔だけでも相当数あるぞ…?!
「仕方ないじゃない、そのぐらいしか出来ることが無かったんだもの」
本棚ある本の背表紙を撫でながらレイラはそんな言葉を口にした。
俺と話している時はほぼ本を読みながら片手間に話をしてる。
どのくらいの知識欲があったら飽きる事なく本を読み続けられるんだ…?
「あー、その本には触らない方がいいわよ、ビリっとするから」
女帝サマの忠告は数秒遅く、それは積み上げられた本の一番上にある紫色の本へ丁度手をつけた時だった。
鋭い感覚が腕から頭に流れ、俺は変な声を上げる。たぶんウェッ!?とかそんな感じでのけぞって。
な、なんだ一体何が
「ごめんなさいね、その本には問題があるのよーなんでもイナヅマに関する研究らしいのだけど最初に背表紙を触らないと防御機能が働く様になっているんですって」
そーゆーのはさぁー、早めに言ってくれないと困るんですけどねぇ?
「はいはい、注意しなくちゃいけないものは教えるから手伝ってちょーだいな!!」
…まぁ別に良いけど整理しようとして模様替えになるのだけは勘弁してくれよ…?
俺がよく自分の部屋の掃除で同じことをしてしまうからなのだけれど果たして無事に部屋の整理は終わるのだろうか…
次回へ続く




