第十九話「魔法と律法」
お久しぶりです。
連載ぼちぼち再開します。
誰かに望まれる人間なんてのはロクなもんじゃない。
俺個人の体験談とかそーゆーもんじゃなくてさ、遠くから見ている分には小奇麗かもしれない。
でもそれが間近にいたらどう思うかって言えばよ…良くも悪くも自分のすらーっと伸びた影と汚い顔が拝めてそりゃもう堪らないんだぜ?
小奇麗な格好の人間と初対面から笑顔を浮かべる人間にはロクな奴がいない、これは俺の持論さ。
取り繕うという事は、何かやましい事でも腹の中に隠し持っている証拠だろ、違うかい?
それで糸目の美丈夫さんは爽やかに笑顔を浮かべ、去っていった。
俺の印象としては胡散臭くて信用ならないってのが感想な訳なんだけれど、女帝サマはあれを頼っておられるのでしょうかね?
「勿論…信用している訳ないじゃない、論外よ」
あらら、それはまた手厳しい。
「はぁ、あのね…アレを信用してたら、翌日には私が保証人になった見覚えのない借款が幾つこさえられるか分かったもんじゃないわ」
なるほどなるほど、まぁそのお気持ちはお察しします。
「…それでも、宮廷外を取り囲まれた時からの唯一の協力者よ。 強力な勢力を持ってるとは言えないけど、あの時は生きるか死ぬかだったから…」
そんな目に遭ってたのか、大変だったな。
「宮廷にいる時は暗殺未遂は五回は受けてきたわ、その度に助けられたし、自分の身は自分で守るしかないとも思ったわね。」
俺の世界でもそんな目に遭うのは一部の地域の連中位だなーそれは。
レイラは俺がこっちに来てからずっと資料の整理をし続けている。
暇さえあれば資料を漁り、あーでもないこーでもないと一人で呟く。
「あなたに声を掛ける前に当たりを見させて貰っていたけれど、何処にも争いのあの字もないじゃない…私からすれば羨ましい事この上ないわ」
まー、隣の芝は青いと言うやつなのかね、それなりにこっちも苦労だったりはしているんだが…
「そうね不用意に、そして不必要に人の命が奪われる世界よりは自由意志で自分の命を使える世の中の方が良いと私は思っているわ」
それはそうか…それとだな。 一つ確認しておきたい事があるんだが、聞いてくれるか?
「ええ、いいわ。 私の答えられる範囲で良ければ何でも聞いてちょうだい」
レイラはご丁寧にめくっていた本の頁を戻して俺に顔を向ける。
燃え上がるような赤い髪を後頭部で結び束ね、前髪を左右に分けて流している、こちらに向けた瞳が金色に見えた。
言い回しと表情からキツイ印象が俺の中で形成されつつあるものの目鼻立ちは整っているし、この子とっても綺麗な子なのでは…?
「ちょっと? 私が質問を受け付けるなんて滅多にないのだから、気が変わらない内に早急にしなさい」
あぁ、すまない。 ちょっと内容を考えてまして…あの〜今君と俺がしている契約があるじゃないですか
「そうね、対価も支払っているからこれはれっきとした契約になるわね」
そう、その契約の話をしたくてだな…これもし俺がイデア(こっちの世界)で死んだらどうなるんだ?
「ちょっと、何を言うかと思ったら…勿論終わりよ、神話の世界でも無い限りは復活だなんてできる訳ないじゃない」
机の上で広げた羊皮紙の出っぱった本を戻しながらレイラは当然のように言ってのけた。
そうか…権謀術の飛び交うこの世界を俺は生き延びなければいけないのか…キッツイな。
「そうね、最も神様なんてこの世の何処にも存在していないのでしょうけど。神様でもいてくれはは私のこの顛末に落ち着いてなんかいないはずよ」
言っておくがな、俺は苦笑いしか返せない自虐風な話をされても頷く位しか出来ないぞ。
「あのねぇ~そこは貴方、私の手でも握って私がついていますとか気障な台詞でも吐いたらどうなの?」
俺みたいなのにそういうのはさすがに気持ち悪くない?
それと俺が言いたかったことはな、俺と君との契約ってどうなったら終わりになるのかを教えてほしいって話なんだけど…
「そうね…終わりはちゃんと決めておかないといけないわ」
レイラの表情が少し強張って直ぐに元へ戻る、まさか考えていなかったとか言い出すんじゃないよな。
「ふふっ、それならピッタリの目標があるわ! 私を再び宮廷の玉座の間に連れて行くのよ。勿論簒奪者としてではなく、戴冠者としてよ!!」
な、なるほどね~そりゃまた途方もない夢だこと、いっその事新しい国でも立ち上げちゃったほうが早いんじゃないのかね…
「そんな訳にはいかないわ、私は正当なる帝国の継承者にあって、臣下の盾であり鉾なのよ。悪辣な術によって奪われた冠は取り戻せばならないもの」
そうは言ってもなぁ…この苔むした廃城には追われる身の皇帝サマと家臣(契約社員)がいるだけだし、この先の展望も考えられていないんじゃそれこそ先が思いやられるってモンじゃね?
「そ、それは…」
まぁまぁ、一番先の目標は決まっているんだからそっちに至る道筋が立てられればいいんじゃねぇの、知らないけど。
「…貴方って話し方と言葉選びで相当損をしていると思うのだけれどそう言われた事は無い?
?」
さてな、そんなに人と関わるのは得意じゃぁないもんで。
「ふぅん、いいけど今貴方が言った当面の目標ってのを考えなくちゃいけなくなったわ」
ちょ、ホントに目標とか無かったのかい。大丈夫か本当に頼むぜ?
「まかせなさい!!」
得意げに胸を張るんじゃない、口には出せないがあんまり張れるだけのもの持っていないだろうがとも適当なことを考えつつ、レイラと俺で色々な情報のすり合わせを行う事にした。
「簡単な趣向品くらいならアンジュー家の糸目が揃えてくれるわ、とは言っても宮廷仕込みの私の舌に合うものとは言えないけどね、ちょっと待ってて持ってきてあげるから」
砂糖が生産出来るだけの環境がこの世界にはあるのだろうか…亜熱帯か、亜寒帯かどちらかの気候で甜菜かサトウキビがあるのかもしれない。
レイラはほかの部屋から小さな皿に菓子にみえるものを乗せてやって来た。
「それで、私が貴方を呼ぶまでにしていたことを大まかに話すと…そうね、研究しかしてないわね」
研究って俺を呼ぶための研究か?
「そう言う事、 理由と経緯をあげると二つね。
二つ目 過去の実験と実績が一番類似例が多い点。
三つ目 一人の魔力でも数か月間かかければ既定の量まで捻出が出来る点。
固定の式とか魔法陣が要らないとかいろいろ考慮した結果が召喚の魔法なのよ」
成程成程…召喚の魔法って言われてもねぇ…俺たちの世界だと空想上のものとしての「魔法」っていうのはあるが、例えば誰でも使える技術で普及しているんだろ?
「それが万人に使えるようにはなっていないのよ」
それまたどうしてさ?
「答えはいたって単純でね、そんな便利なものを他人に教えたくないもしくは危険なので周りからいい目では見られないって感じ」
でも便利なんだろう? 使い方だってわかってれば「ちちんぷいぷい」で誰でも簡単に…あっ
「そう、お分かり頂けたかしら? 」
レイラの目がキラリと光る…あぁ、俺にも分かったわ。
つまりは「それを秘匿していれば周囲から特別視される」そして「周辺の問題が解決出来ないと吊るされる」って事が原因でその連中が持っている知識ってのは全貌が分からないって事か。
「ええ、そうよ。 タツヤ物分かりがいいのね」
お褒めに預かり光栄でございますわ皇帝陛下、こんだけヒントくれれば誰だってその答えを導き出せますわ。
「ふふ、そうかしら? 私が人を褒めることなんて滅多に無いのだから、ありがたく受け取っておくべきだと思うのだけれど?」
レイラの持ってきた焼き菓子を一つ手に取って口に入れてみた…見たのだが…これなんだ、口の中の水分を無限に吸収する殆ど味のしない薄い平べったいのは…!?
俺が菓子を食べて難しい顔をすると菓子にも似た表情で溜息を吐いてみせたレイラ。
「これ? 私が宮廷と同じものを作れる立場には無いのよ。嗜好品の類を与えて、貢がれる存在であったって言うのに….今はこんな物を慰みにしているのよ、たまったものじゃないわ…」
贅沢な生活が壊されたのを取り戻したい…
これがレイラの本音なのだとしたら好感は持てない、だが人間らしいといえばその通りかもしれないな。
「あのね…何が面白いのよ、美味しいものを食べたいってのは誰にでもある感情でしょ? 私はね、飢えが怖いのよ」
…飢えが怖いって言われてもな、宮廷の中にいて飢えることはまず無かったんだろう。 それなら「飢える」って感覚は知らないんじゃ無いのか?
「えぇタツヤ、その通りよ。 こんな世捨て人みたいになっても元の身分が身分なだけに食べるものに困るという事はないわ」
そりゃまた随分と歓迎されていますなぁ…と言葉を溢すとレイラはそれを遮って続ける。
「あのね、人間って自暴自棄になってる時が一番力が出るのよ。 それは後先考えなくていいからなんだけどね、正常な思考を放棄して何から構わず一つの目的に向かって行動するの」
…それが「飢え」で起こるとレイラは念を押したいのだ。
「この世全てに恨みを持った様な澱み切った目をしている子供や、無気力に空を仰ぎ、支離滅裂な言葉を吐く大人…
あんな光景は二度と御免なの、だから私は誰も飢えない国家を作るわ」
レイラの核心はそこにあるのか…目の前の少女が抱くにしては大きすぎるんじゃない?
「ふっ何を言ってるのよタツヤ、大きな夢だからこそ叶える為に血反吐を吐いても努力をするんじゃない?」
…知らん、だけどもその夢を叶えるしろ俺には協力できる事は多分無いぞ?
取り繕っては見たものの、すっげードキッとしたのは絶対に口にしてはならないし、ましてや可愛いとかは考えてはいけない…
次回へ続く!




