第十八話 「女帝の理想」
自分の望んだものを手に入れるために努力をするかと言われれば俺は迷った末に首を横に振る。
俺はなんかこう…望みはあったんだが、自分には身に余るとか適当な言い訳を付けて手放して来た感じだ。
欲望に際限は無いけどもそれ自体は悪いことじゃーない。
求めている結末を見る為に努力する事の尊い事はこの上ないぜ。
ま、そんな事を考える暇を作って溜息を吐いているだけなら俺はやっぱり大した事のない小物なのかもしれないなぁ…
状況が掴めない展開やら出来事に巻き込まれた事がない訳じゃあねーから良いんだけどよ…ちょっと待て、ちょっと待て、俺みたいなジジイに分かる様に説明してくれたまえよ。
何がどうしてどうなってるんだ?
「そうね、この際はっきり言うと貴方がどんな人かを知る為に予め一計講じていたのよ」
ふーん? つまりは色々と今まであったけど、それ全部が君達で考えた罠であったと?
「罠って言い方は良く無いわ、ちゃんとネタバラシだってこうしてしている訳だしね」
さも当たり前みたいに言ってるけどお前これ…どんだけ俺が色々悩んでたか…とかこう…色々と言いたい事はあったんだぞ?
「あら? そうなの? そんな風には見えなかったけど? 」
とレイラがけろっと言うので二の句が継げない。
この女、意外そうな顔しやがってもしかしてこのままいけばお役御免とかになるんじゃ…?
そうだ、それが良い。 契約なんて破棄してしまえば良いんだ。 そしたら俺はただの農家に戻れるんだ。
元の生活に戻れるのならここでこの話は終わるんだぜ?そ」で良いだろ?
「ふぅ…それでアンジュー・レヴィンテ、この男は貴方にどう映ったのかしら?」
ボロ布を深く被っていたから顔が分からなかったが、アンジューなんたらとレイラに呼ばれた男…背は高いし、布を取ればあら不思議。線の細い優男の出現である。
「私から見た彼ですか…人の見る目は自信が無いのであくまでも参考程度にして頂ければ良いのですが」
ままっ、このまま俺の評価を下げてくれるのならなんだって構わないさ。
「この方にはこの方にしか見えない世界があるので私の尺度では如何ともし難い…」
えぇ、そんな事ないと思うけどナー。俺はそこらにいる村人C辺りが身分相応ですよー?
「強いて言えるのなら、可能性を篩にかけて選別出来る人であると思っております」
アンジューなんたらは俺の方を向いて目配せをする、
俺とこいつでレイラを裏切るとか話していた事は黙っておくとでも言いたいのだろうか。
「そう、私は具体的な情報を得たかったのだけれど…その点は頭に入れておくわ」
アンジューは恭しく跪き丁寧にお辞儀までして見せた。
と言うかちょっと待て、
え、これはもしかしなくても保留ですか? 本当にー?俺とかそんな大層な労力を投じる価値なんてありはしませんぜー?
卑屈ではなくて理屈で俺は役に立てるとは思えないんだが…
と言うより、それ以前にレイラとその、アンジューさん?
はどう言う御関係なので?
レイラの話では彼は名のある貴族の分家筋なんだろう? それなら何故に追放されて絶賛指名手配中の女帝様をこんな所に置いているんだい?
「あ、しまったその説明がまだだったわ。
いいタツヤ、私が直々に説明してあげるから感激しながら傾聴しなさい?あれは約半年ほど前に遡るの」
あのー、レイラ様、レイラ様?
その話もしかしなくても長くなります?
「そんなには長く無いわ、話自体は大した内容では無いし…まさか貴方この皇帝の説話を遮るつもりなのかしら?」
残念ながらそのまさかだ、起承転結揃って千文字以内で書けたら読むからよろしく。
「なによそれ、それじゃあ私の素晴らしさがまるで伝わらないじゃない!!」
本気で言ってるのか…あのねぇ、回顧録でもあるまいしこの際素晴らしさとかは二の次でいいんだよ。
問題は話が相手に伝わるかどうかなんだ、お分かり?
わざと挑発じみた話し方をしてみたのだが、レイラは声を上げて怒ったりするだろうか?
「そうね、今は話に尾鰭を付けている場合じゃ無かったわ」
おい、尾鰭をつけるってそれ脚色して話を盛る気満々じゃねぇか。
「とにかく、私には多少の後ろ盾がいるのは分かってくれたかしら?」
レイラはアンジューなんたらの方へ視線を向ける。
本当にそれは信用できる話なんだろうか…正直なところ俺には不安しかない。
俺と女帝サマにただ微笑みを向けるこの男の真意を未だ俺には分からないでいる。
いきなりなんか仲間だか敵なんだかよーわかんない立場の人間を紹介されても俺は何を感じれば良いんだよ。喜べばいいのか?
「いいかしらタツヤ、先ずは栄えある皇帝のの直属の臣下となっていることに喜びなさい?」
皇帝の直属の臣下って言ったって君はもう皇帝ではないんだから別に光栄だとは思わないね。
それはそうとして、レイラは子供に親がむけるような目をして俺に続ける。
「ちょっとタツヤ、貴方正直に言えば何でも美徳にされると思ったら大間違いなんだから、たとえそれがまるで思っていないことだとしても形だけでも人柄良く振舞っておくべきよ?」
いやいや…いやいやいや! 俺はそういうのご免ですわ。忠告は凄く痛み入るんですけどね。
俺より年下のしかも女の子に諭すように言われては何とも居心地が悪い、何度か同じ様な事を言われてきたことを思い出して少しだけ気分が悪くなった。
そんなに簡単に自分の性格とか矯正出来たら苦労はないんだよなー、別にそれを言われて腹が立つとかじゃぁないんだけど。
「ともかく、タツヤさん私はここら一帯を任されておりますアンジュー家が末席におりますレヴェンテと申します 」
自己紹介ついでにレイラが読み終えたであろう本を棚に戻していく優男、これあれだ俺より背高いわ、ひょろ長いって感じ。
「ここでの物資などのある程度は面倒を見ますので何か必要なものが御座いましたらお申し付けください」
えっとレヴェンテさんだっけ?
「はい、レヴェンテです」
そのアンジュー家ってのは女帝さんがここにいるっていうのを認知しているのか俺に教えてほしいんですけど。
俺の頭の中ににあったのは「懸念」だ。
自分の達の共通の敵となった人間を世話して匿うところが俺には理解ができていないポイントだった。
というよりもどんな意図でこの爆弾ともいえるような人を保護するのかを俺は知りたい。
「そうです。 我々は皇帝陛下に忠誠を誓っている身ですから御身に何かあればお助けし、お支えするのが当然ではありませんか?」
当然の忠誠心だってさ。 絶対に心から思っていないのはいいとして、本当の所はこの場で言うつもりは無いか…
「私は一度失敗して身を滅ぼしかけているの、二度目は許されないわ。 今度こそ、帝国を理想の形にしてみせるわ」
経緯はその内聞かせてもらうとして、レイラの理想って何?
「理想」という事は現状から常にかけ離れているのだろう。
俺が住む世界とは違った形をしている世界か…この城跡から先にはどんな世界が待ってるんだろうなぁ
「私の理想の世界は単純明快よ、でもそれを達成する為には私だけがそれを叶えるだけでは駄目なの」
個人的な目標ではない…と?
「その通りよ、あの立場だったら私自身が満足するだけの生活は保障されているもの」
そりゃぁねぇ…皇帝サマだもん、大なり小なりわがままでも許されるでしょ。
レイラは木格子の窓の外を眺めながら
「…私の理想の果てはどうせ私一人では完遂出来ないでしょうから、この理念と土台だけでも作っておきたいのよ」
と溜息を吐く。
え、何その末永く宜しくお願いしますみたいな物言い…嫌だぞー俺の世界じゃー今時終身雇用なんてお呼びで無いんだ。
傭われるだけなら俺にだって断るだけの自由意志がある筈なのだが、俺はこれから一体何をやればいいんだろうか…
次回へ続く




