第十七話 「的を得た真」
今でも思うことがあるんだが、自分にはには何が出来るのかとか、何が苦手なのだとか実行する前に予想が出来たら楽なのにと俺は思う時がある。
なんでそんな話するかって言うと、俺みたいな奴が人一人の命を脅かす判断とか、そんなものが出来ないなんて俺自身気づいてなかったからだ。
強いて言うなら人生に対する選択だって誤答を答え合わせしないままに歩いてきている様なものだってのに。
よくよく考えたら平和万歳な現代日本人にゃ無理な計画だったなぁ… 言うは易く行うは難しとかなんとか、使い方合ってるかな….?
頭の片隅にあった小さな迷いがここへ来て大きく膨らみつつあったんだよな…
あんたをここから解放する、その代わりあの王女さんだか女帝さんだかに一杯食わせたい…言葉分かるよな?
自分が縛って入れた牢屋の人間に向かって何を言ってるんだとは思いつつ、俺は当初の目標通りの行動をする事にした。
あのお高くとまっているレイラという少女も暗殺者に再度命を狙われれば少しはこっちの話を聞いてくれるだろう。
俺としてはこの異世界だかから解放してくれれば万々歳なのだ。
あっちやこっちやと向こうの都合で従者だか下僕だか分からないが呼び出されてはたまらないからな。
プライベートなんて有ったもんじゃない。
なんだかよく分からない個人契約はとっとと解消して俺は元のしがない農家としての生活へ戻りたいわけ。
あんな顔されたって、俺の意思は変わらない。
少しはぐらかされそうになったが、俺は俺の都合と論理で動くだけだ。
聖人だって顔に泥をぶち撒けられたら怒鳴り散らすだろう、人間なんてそんなもんさ。
地下牢には俺が持ってきたランタンの灯りだけ…
奥にうづくまっている奴がもし仮にまだ何か獲物を持っていたりしたら…
鍵を開けた瞬間に縛った縄を解き、俺を殺しにきたりして…
最悪の想定はしておかなくてはいけないにしろ、そこまでは考えていなかった。
鍵は取ってきたが俺、この牢屋を果たして開けていいものなのか…?
しかし…
危険な賭けではある…
待て待て、必要な情報は得られたのだし、このまま放っておけばこいつはここで朽ちていくだけ…下手な事をせずに俺が無能プレイを晒し続ければあの少女も見限ったり…
安全にかつ安心だが時間のかかる方法だな。
「なんだ、夜って話だってのに嫌に早く起こしに来るじゃねーか」
あ、寝てたのか通りで奥の方で蹲ってると思ってたわ、寝てたのか。
「あー、そーよ。この中だと昼か夜かも分かんねーから寝ちまってたぜ」
奥で伸びをするのがなんとなくわかる。
「それで? 結構の時間ですかい?」
いや…あー、その話なんだが…
「なんだい、今更になって怖気付いたってのかい? はーっ、裏切るのを躊躇うなんざ勿体無いぜ?乗り換えるのはじょーずに乗り換えなきゃなー」
それなら…それならいっそ、あんたが乗り換えるってはどうなんだ?
「はえ? あんさん…なんだってんで?」
いや…そんな不安定で生死の別れる仕事から足洗って…それこそ俺が雇う、今俺たちには人手が要るんだよ。
ぽっとついて出た台詞はなんとも都合の良い話、金貨の一枚がどれ程価値があるかは分からないが、その半分を分け合わないか。
俺から突然に出たのは相手への勧誘だった。
まぁ…なんと言いますか出来心って奴ですよ。
こいつがどんな奴かは知らないが、最悪あの少女の面倒を押しつけて退散するって言うのも手として思い付いた。
「へー、随分とこれはまた…舐められたもんですなぁ、さっきまであんさんの女殺そうとしてた野郎に牢から外すと言っていたんですかい?」
あぁ、確かに言った。
「それを下につけて飼い慣らそうなんざ…あんた何処の国の坊ちゃんなんで?」
確かに言っているのことは都合の良すぎる話だろうが、このままそこで死ぬよりは良いんじゃないか。
「はぁ…命あってのなんとやらですからね、そりゃあるに越した事はありゃあせんですが…」
そうだろう? 良心が働くとかそんなんで無くていい。
むしろこの先の事を考えて一時的に寝返っておくってのはどうだい?
「…あんた、自分が庇って助けたお人がどんな人間か知ってるんで?」
隅から隅まで知っている訳じゃないし、むしろ知らないことの方が多いね。
「そうかい…なら自分がどこに立っているのか分からないままのおひとって訳だ」
なんか…嫌に引っかかる物言いをする奴だな。
まぁ、あの元女帝様の言い分を信じるんなら相当な悪評が立っていたという話だし、牢人が悪評を信じたままに正義感で殺そうとしたのなら納得の仕様はあるか…
人の命を奪うのに理由がある方が恐ろしいがな…
「それで、あんさんはあのお方を見てどう思ったんで?」
どうって…俺は別にあんたと世間話をしに来たってわけじゃあ無いんだが?
牢人は力無くへへっと笑って少しランタンの光の近くへ這ってきた。
「そりゃあ、そうでしょうね。 さっきまで謀反を考えていたのが何を理由にかは知りやせんが、心変わりしてんですから」
心変わり…元々の関係性が全くないからそんな掌返しになっているんだろう。
あの元女帝様がこの先の人生どう転んで転がって行こうが知った事ではないしな…
だがな…契約として縛られている以上、俺は目的を持って活動をするしかないのだ。
「目的? なんかあるので?」
…それは俺個人の問題だ、それにあんたが協力するのにこれは関係がない。
「そりゃあ藪から蛇ですかね」
それで、ここで人知れずに朽ちていくだけの人生と何かしらの意味を見出していくのとどっちが良いんだ?
合理的に考えたら普通に命乞いの一つもしてきそうなものなんだがなぁ…なんか会話に付き合わされて妙な気分だ。
「ふぅ…確かに、人から言われた事に命を賭けちゃいけないですな、自分の信念のためならともかく…しゃーない、受け入れさせていただきましょう」
そうか、なら隠している獲物をこっちに放ってくるんだな、口の中やらそのボロボロの服の中にナイフの一本位有るんだろう?
「なんとも用心深いですなー旦那、あっしが持っているのは精々針と釘くらいなもんですぜ?」
使い方次第じゃじゅーぶんに凶器になり得るからそこらへんに捨ててから牢を出てくれ。
石の床にがらがらと金属音がしたのを聞いて、この世界の文明レベルは以外としっかりしているのだと思った。
「旦那ぁ、これで全部だから牢屋開けておくれな」
約束は約束だからな、大分怪しい感じはあるが牢から出してレイラの元へ突き出して最終的な判断を仰ぐ事しよう。
手足縛ってあるし、多分大丈夫なはず。
「ま、あっしもこんな稼業からはいい加減潮時だーなんて思ってたもんで…いい頃合いですわな」
俺が石畳の上にぶん投げた時はばたばた暴れていたのが嘘の様に大人しくなって牢から素直に出てきた。
あんた、俺は信用してないからそのつもりでな。
「おやおや、大人しく連れてかれるこの状態だけじゃ信じてもらえないと?」
あー、というかこれからさっきの話を俺の雇用主にしたとして上手くいくかは正直読めんのだ。
というかその場で首を刎ねたりとか普通にしそうなんだよなぁ、あの元女帝様。
「成程、そりゃまた難儀なもんで互いに苦労しますわなぁ…」
物乞いみたいな服装なのになんでか堂々として俺の後に続いて歩く。
奪ったナイフ以外に獲物となる刀剣の類は無かったし、こいつは人先ず安全な筈だ。
少しの不安はあったが、俺は仮の執務室として使っている書庫にいるレイラの前にこいつを連れて来た。
直ぐにでも話の本題を切り出すつもりでいたが、机に分厚い読み物に目を通しているレイラになかなか声を掛けられない。
「やれやれどうして難儀なもんですなぁ…」
後ろで牢人が小さく呟く。
部屋に入る時にはちゃんとドアを叩いて合図はしたのでこっちに気付いている筈なのだが…
「…それで、なぜ私を狙って来た奴が五体満足でなんの拷問の後もなく、私の城の中を闊歩しているのかしら…? 不思議なこともあるものね、タツヤ」
書類を読みながらこちらに目線をやらずに、少女は言葉に棘のある言い方と加減で言葉を掛けてきた。
さて、問題はここからだ。レイラを丸め込むか説得させるのに俺は有効な手立てを考えている訳じゃない。
ぶっつけ本番で交渉はが上手くいくは分からないがやるだけ駄目で元々だし当たって砕けろ、やってみるさ…!
次回へ続く




