第十六話 「生殺与奪」
大変遅くなりました、続きます。
新天地を求めて故郷を離れるってのは考えたし、都会に行って自分の才覚だけでやっていくみたいな事を考えた時期が俺にも無かった訳じゃない。
だとしても俺が選んだのは田舎で家業を継ぐ事だった。
後悔する事は正直に言えばない訳じゃない。
だが、選択自体は間違いではないなと思う事もある。
ま、俺の話なぞしたところで面白くないだろうからとっとと話を戻すとしよう。
牢に繋いだ男をレイラの前に引き合わせたところで、彼女はこちらへ見向きもせず、書類に没頭していた。
あー、多分これは…機嫌が悪い奴ですね…さしずめ良いところなのに邪魔が入ったと言った感じでしょうね。
「タツヤ、私にも不可能なことの一つやふたつあるものだけど…この状況を何の説明なしに理解できる程の察知能力はないのよ?」
か、簡単に言えばですね交渉したんですよ。
「ふぅん? それで何を担保にこの男を味方に引き入れようとしたわけ?」
担保にしたのは自分の報酬の金額だ。
自分の報酬のの半分でこの牢人だか、殺人未遂犯を雇う。
こっちの見返りは崩しにかかるお貴族様の情報と人手、あれへの見返りは安定した生活基盤の確保って事でどうだろうか。
「見る限り何もしていない様だけど…タツヤ、貴方まさか本当に何もしていないの?
何も払われていない確証もない情報なんてここにある書類の一文字分の価値にだって怪しいのよ?」
うーん、竜也さんの交渉術の賜物って奴かな?
「ほんと? 貴方何か騙されていない?洗脳の魔術なんて秘匿中の大秘匿だし、罹っている様子は無さそうだけど…」
そりゃねぇ、疑ってかかるのは分からないでも無い、俺だって後ろの奴の話は信じちゃいないさ、俺に取っては四大貴族だー、その中の内部の事なんざ知ったこっちゃないからな。
でも、あんたのさっきの反応を見るにこいつの情報はある程度信用性があると踏んだ訳だ。
「それと引き換えたのはタツヤから私への口利きって訳ね」
その実、途中まで逆の事をしていたなんて事は言えないのである。いやいや、あれだよー省略だよ、省略。
言うに事足りない内容の事は飛ばしてしまえと言う事なんですよ〜?
「…分かったわ。そこの貴方話す事を許可するわ、レイラ・ブランダの名において真実のみを話しなさい」
「…へえー驚いた、まさか今回の仕事がまさかこっちの兄ちゃんが話していた通りの女帝様殺しとはねぇー本当な事はおとぎ話よりも奇怪なもんだ。」
「余計な口を開けとは命じていないわ、縫い合わせるわよ」
怖えよ、洒落にならないから止めてくれ。
「おやおや、(聞き取れない)女帝様は洒落と口説き文句はお好きでないとみましたよータツヤさーん?」
こっちを見るな!巻き込むな!なんだこいつ、急に饒舌多弁になりやがって!
「ねぇねぇタツヤ、こいつ城の脇にある滝から突き落としましょうか?」
聞き取れない部分にどんな事を言ったのかは分からないが、レイラの反応を見るに恐らく碌な事は言ってないなこれ?
「犬にも躾ができていないのは問題よタツヤ、今度貴方にはお友達の作り方を教えてあげなくちゃね」
目にしていた分厚い本を机に置いて、レイラの目線は先程まで牢に繋がれていたに向けられている。
「はぁ….まさかこんな解答が返ってくるとは思いもよらなかったわ、全く…」
溜息を吐き、読んでいた文献を閉じたと思ったらなんか呆れられているっぽいな。
これあれか、仮にも殺意を持ってきた奴には殺意をお返してやれみたいなそんな雰囲気? なんだよそのハンムラビ法典、物騒だわ。
「…いいわ、そしたらタツヤその下男を雇って私達に得があるか私にも説明して頂戴な」
なにその即興のプレゼン、俺その類のやつ苦手なんだよ…
得意だったらわざわざ田舎の農家なんてやって無いわ。
あー、その~なんだ、単純に人手が増えるぞ!
「ふーん、それで私達の計画については?」
え? 話してないけどそこはまぁー、あれだよ…追々で良いじゃないか。
「計画性という言葉を一度辞書で引いて欲しいわ…」
レイラが溜息を漏らして呆れ顔をする。お、俺だって本当ならば全く違う展開にしようとしてたよ。
人の感情は全く予想外の方向に転がっていくから困りものだよな。
「この男が本物の殺し屋とかその手の技術に長けているとかなら別だけど、貴方に捕まってしまう様じゃたかが知れているわよ」
たかがって…そうは言っても貴方様も魔術ばかりにかまけて、腕っぷしなんてヘロヘロなんじゃあないんですかね?
減らず口を叩くよりレイラを納得させたほうが良いのだが、年下の女に鼻で笑われるのはさすがに癪に感じた。
「はっ、国の長ともあろうものが戦いに備えない訳がないでしょう? これでも宮廷内ではバランタの腕においては右に出るものは無いわよ」
バラ…? とにかくこれから仲間だか臣下を増やしていくんだから、選り好みが出来る様な立場じゃぁ無いだろう?
「あら、タツヤは私の話を聞いて協力してくれるのかしら?」
そんなの直ぐに信用が出来る話じゃ… 俺が言葉に詰まると小さくレイラはつぶやいて、椅子にゆっくりと座り込んだ。
「そう…少なくともこの国に私に協力してくれる様な人は居ないのよ。今現在私は絶賛悪の女帝様で故人になっているんだから」
それで縋り付いた先が俺だって? 流石に与太話にしか聞こえないんですけどね。
「貴方ね…私が持ち逃げ出来た金貨だって無限に増やせるとかじゃ無いの、貴方に賭けているよ?」
賭けてるって、頭おかしいんじゃ無いのか…素直に思った言葉が口をついて出てきた。
クーデターやらで殺されるところだった話やら、魔法でどうのこうのと並べられたところでな…
「ははっ、全くですわな事実は小説は奇なりとは良く言ったものでさぁ、旦那」
口を開いたのは連れて来た牢人だった。
「残念ながら、この女性の方の言ってる事は本当の事でさ。この方が元皇帝さんなのかどうかはあっしは知りはしませんがね」
そうだとしたって…レイラはクーデターからやっとなことで命を繋いだんだから、田舎でも行ってのんびり余生にしちゃえば良いんじゃ無いのか?
「はぁ…私だって諦めたいわよ」
レイラは吐き捨てる様に言った。
「私の積み上げて来たものを全部ぶち壊しにして回って、効率も技術もあったもんじゃ無い世界に逆戻り」
それはそうだとしても、なっちまったものはそんな簡単にひっくり返らないぞ。
「だって、反動的な足掻きをされて…国の中の問題を闇に葬った私のせいに全部させられて、それで黙っていられる程私はお人好しにはならないのよ。大人になれないわ。美しくて儚く花みたいには…なれないのよ?」
睨んでくる彼女の顔は怒りや、悔しいとはまた別物で助けてほしいではない
…もっと複雑なものなのかもしれないが、俺には分かる訳がない。
だとしても見ず知らずの人間しか頼れる人間が居ないのか…そりゃあきついわな。
「それで〜あっしの処遇はどうなるんで?」
牢人が俺の顔とレイラの顔を窺いながら、きょろきょろと様子を伺っている。
「はぁ…まさかこんなに色々話をあれこれするなんて思わなかったからもうこの際良いわよ。 お遊戯はおしまいにしましょ、アンジュー・レヴィンテ」
ん? なんかおかしくない?レイラさん…今この男の名前を呼んだのか? あんじゅーってなんか聞いたことある名前だと思うんだけども?
「皇帝陛下、異世界の方とは言え、疑念が消えないと言うのは仕方のないことではありませんか?」
今まで猫背で俺より低かった身長がすくっと伸びている…
「それにしても踏ん切りが付かなすぎではない?」
えっとー?これはどう言ったお話しなんですかね?
展開が突然変わった様に思えるんですがこれは俺の気のせいでは無いんですか?
「あぁタツヤ、実はねこの男は貴族の当主から私を殺す様に言われた下人では無くてね、話をしていた当主本人なのよ」
話が飲み込めないままなんだが、今回はこの辺で話を区切らせてもらう事にしよう。
次回へ続く




