第20話 スズと一緒に娼館暮らし
スズとボスラビットこと、ラビについて話をしながらウェスタリアに帰還。
採った薬草はスズのポーチへ。
入り切らないものは僕のアイテムボックスへ。
そして娼館アーニィ・マリィルートへと帰ってくる。
スズと共に。
「ただいまー」
「ただいま〜」
いつも通り裏口から、いつも通りの口調で挨拶する。
オババとカノンさんが始業前の勘定をやっていた。
「おかえりさね、ノリ、スズ」
「おかえりなさい、ノリ様、スズ」
僕とスズを見てニッコリ声を掛けてくれる。
さぁ、上に行くか。
と、2階への階段を半分上がったところだった。
目の前には目以外笑顔のカノンさん。そして後ろにはオババ。
挟まれてしまった。
「危うく見過ごすところでした! ノリ様、これはどういうことでしょうか? 事と次第によっては……」
おーっと、カノンさんの犬歯がチラリと見えるぅ! しかも段々伸びていくぅ!
「ノリ、まさか、最初からそのつもりさね?」
後ろのオババからも鬼の声だ。
僕は降参と言わんばかりに手を挙げる。
他のお嬢達も、何事かと言わんばかりに出てきて、そぉっとこちらを覗いている。
「僕がスズを雇った。住み込みでね。それだけだよ。と、言いたいところなんだけど、せっかくみんながいるから真面目に話そう。今後のアーニィ・マリィルート、その問題と解決策についてだ」
そして僕の言葉に、カノンさんは怒りを鎮め、オババは仕事の顔になる。
隠れて見に来たみんなにも聞こえるように、僕は切り出した。
「もうすぐ【魔王の檻】が始まる。それはみんな知ってるよね?」
みんな頷く。
「そうなると僕も当然駆り出される。そうなった時、僕が今揃えている備品はどうする? 水はまぁ水魔法を使える者を雇えば良いとしよう」
みんな僕の言葉を待つ。
僕は簡潔に伝えることにした。
「だから、僕がいなくなっても大丈夫なように、あと1年少しで、スズを立派な冒険者に育て上げ、備品製造の素材を確保できるようにする。そしてカノンさんが、その素材を使って備品を作れるようにする。もちろん、アーニィ・マリィルートが2人を雇う形としてね」
僕は言い放つ。
誰からも文句は出てこない。
いや、オババやカノンさんは何か言いたげだが、現時点では言い返せない。
僕がいなくなれば、今のようなサービスは提供できないことが分かっているからだ。
冒険者を雇うとしても、当然経費が掛かる。それに信用問題もある。力で上の冒険者が、娼館の言う事をどこまで聞いてくれるかだ。
自前で用意できるに越したことはない。
しかも、1年は僕が付いている。
1年経って判断すべきと、頭の良い2人なら考えるはずだ。
現に今も、額を抑えて考えている。
「製作所兼住まいは僕の部屋の隣で良いでしょ。寝食だって今ですら実質一緒なんだし。少なくとも1年は、娼館にとってデメリットすら無いと思うなぁ?」
僕は上からオババを見下ろした。
オババやカノンさんの気持ちも分かる。
スズを冒険者にはさせたくないだろう。
でも、こればかりは――。
「カノン……1年さね」
「オババ!?」
「1年、それで様子を見るさね! ただし、スズに何かあったらタダじゃおかないさね!」
初めてオババに敵意を向けられた気がする。
怖い怖い。
でも、すぐにその敵意は鎮まった。
「ママ、ごめんなさぃ……」
スズがしょんぼりしているからだ。
僕はスズの後ろに回り、押すようにして一段、また一段と階段を上がらせる。
涙目のスズが、カノンさんを見上げた。
「……もぉっ、ノリ様は、卑怯です! スズ、おかえりなさい!」
僕を一言罵ったカノンさんは、スズに抱き着いた。カノンさんの目には涙が輝いていたのは言うまでもない。
「えへへ、ママ、ただいま!」
そして、スズに笑顔が咲いたのは言うまでもない。
僕はオババの横に立つ。
オババの目にも涙。
でも、これは大事な事だから言っておかねばならない。
「これ、ニーアが雇い直すって話をしたから思い付いたんだからね」
「……そうさね。ニーアさね……ニーア……ひぃーっひっひっ」
オババの鋭い目が、ニーアに突き刺さる。
「なんでニァがああぁああ! んにゃあえああ!」
その日、屋上で罰を受けるニーアの叫び声が夜通し続いたとかいないとか。
僕やスズ?
僕は一人で。スズはカノンさんと、心地良い夜を過ごしたってよ。




