第21話 しつけ
翌朝、早速スズと依頼を受ける。
師匠には許可を取って、しばらく僕との同行は無しにしてもらった。
「今後の娼館のことならしゃあねぇな。1週間だけだ。その後は、また奥で狩るぞ?」
と言う訳で、1週間はスズと一緒である。
「薬草採取依頼が結構あるね。スズちゃん、どれにする?」
スズ専属受付嬢のリリカちゃんがオススメ依頼を出してくる。
「あ、これ昨日採ったね。ノリくん出して」
そして僕は言われた通り出す。
「昨日あれから行かれてたんですね。じゃあこの依頼書の中にある薬草あればどんどん出してね」
そして依頼書に合う薬草がドンドン並べられていく。
依頼書が二十枚分片付いてしまった。
「ありがとうございます! 最近薬草採取依頼が増えていたので助かりました」
「どういたしましてだよ!」
リリカちゃんとスズの笑顔がぶつかりそうになる。
まさにビッグバン。新たな宇宙が誕生するぞ。
「じゃあスズちゃん、ステータス出してね」
「はーい。ステータスオープン」
スズのステータスが表示され、そこにリリカちゃんの職員カードが当てられると、経験値がモリモリ増えて……レベルが上がる。
冒険者は依頼書を片付けると報酬金だけじゃなく経験値も貰える。
こういうところはゲームみたいで大好きだ。
だから最悪、スズが魔物を倒せなくても、レベルが上がれば逃げることができる。
カノンさんもレベルを上げてもらわないとな。
そして、1つ事実を知ったのだが……。
僕は転生特典でステータスポイントを100もらったが、普通はそんなの無いらしい。
レベルが上がると2ポイント。それだけである。
しかもだ。レベルの上限は人によって違うときた。
師匠の上限は80で、70を超えればAランクとして生きていけるらしい。
たいていは50そこらで限界を迎える冒険者が多い。
50でも、ステータスの振り方ではBランク冒険者になれるようだ。
つまり……僕はチートである。
存在がインチキである。
僕がレベル1の頃にはもうすでに、レベル50相当のステータスを得ていたのだから。
そりゃウサランスで突付いたらモンスターも一撃ですわな。
そしてスズはあっという間にレベル5。
ステータスはAGIに極振りさせる。
AGI30もあれば、ホーンフォレストのモンスター如きに遅れを取ることも無いからね。
まずはそこが目標だ。
討伐依頼や薬草採取の依頼をいくつか見繕って、僕とスズは出発……の前に、新鮮な野菜……ニンジンにしか見えないヤツやら果物やらを買い込む。
そして西門を出て、ラビのいる洞穴へ向かった。
「ラビちゃーん、出ておいでー」
スズの声に反応したラビは、もそぉっと穴から出てきてぴょんこぴょんこ跳ねる。
心なしか毛色も良くなっており、嬉しそうなのも何となく分かる。
「えっとね、『おかえりご主人、スズ様』だって」
「違うぞ。ご主人はスズだぞ。今日からラビはスズのペットなんだから」
ラビは体を傾けて疑問をアピールする。
なんか可愛いなコイツ。
「今日はラビの引っ越しと仲良くなろうツアーだ! ラビ、覚悟しとけよ?」
プルプルしているが、僕とスズが走り出すと後ろをちゃんと付いてきた。
途中休憩を挟みながら、北西へ真っ直ぐ3時間。
日が天辺に昇ったところで、ようやくその場所に着いた。
「わぁ! 綺麗!」
そこは、一面花が咲き誇り、小さいけれど澄んだ池もある穴場スポットだ。
しかし、ラビが不満そうな顔をしている。
それはそうだろう。
「ここには魔物が嫌う臭いの植物がたくさんある。ラビには辛い環境かもしれないが、頭の良いラビなら分かるな?」
ラビは耳を自分に叩きつけるように頷く。
そう、魔物が寄って来ないということは、ラビにとってもスズにとっても安全な場所である。
「もちろん、絶対に安全とは言えない。何かイレギュラーな事態が発生すれば強いモンスターが来るだろう。あくまで他より安全な場所、としての認識でいてくれ」
スズもラビも頷く。
「スズ、ここにはたくさんの薬草がある。薬の材料になる木の実や果実も落ちている。ゴムの木も近くにある」
「私は、1人でここに来て、採取できるようになれば良いんだよね! がんばるよ!」
そしてスズはラビと一緒に薬草採取を始めた。
僕はラビの小屋でも作ってやるとしよう。
いや、小屋は目立つな。
スズから離れすぎないように付近を見回る。
あった……。
縄文杉かと思うくらい太い幹の木だ。
高さは5メートルもない。折れている。
それがいくつかある。
丁度よいので、その1つをラビの住処にしてやろう。
僕は木に手を当てて錬金術を発動する。触れた部分が、おが屑になる。
こうしてラビが余裕で寝られる場所を作った。
隣の木はスズのセーフハウスにする。
残りの木は倉庫だ。
保存食、水、薬、ポーション、救急用の医療キットを錬金術で作って設置しておく。
人間10人が1か月は滞在できるぞ。
瓶詰めのビタミン剤も置いておこう。
なぜ?
念のためだ。
スズとラビにも説明しておく。
ラビの食糧庫も用意したのだが、この辺りでなら食っていけるようだ。
さすが元ボス。生存の術は理解しているようだ。
そしてここからが本番だ。
「さぁラビ! スズを守るためには特訓が必要だ。僕から一本取ってみろ。そうすれば……」
僕はアイテムボックスから高級な人参を取り出した。
ラビの目の色が変わる。
その目は、人参になっていた。
「ハンデでウサランスと魔法は無しだ。掛かってこい!」
「ブッブッブッブッ! ブブブブ!」
そして僕のラビに対する『しつけ』が始まった。
しかし、食い物に対する執着ってスゴイんですね。
だって、初戦は負けるし、10戦してやっと勝ち越せたんだもの。
危うく僕が躾けられるところだった。
僕、もうレベル80なのにね。




