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いつか勇者となる君は  作者: Norinα
第一章 娼館暮らしの冒険者
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第1話 目覚めは森の中で

 気が付いて、目を開けた。


「……森?」


 見渡す限り、木、木、木。


 空は見える。


 けれど、家はない。


 道路もない。


 もちろん、妻も娘たちもいない。


「……そうだった」


 神様との会話を思い出す。


 ここは異世界。


 でも、魔王を倒せば――。


「帰れる」


 家族のもとへ。


 右手に力が入り、その手を見る。

 胸の奥が、少しだけ痛くなる。


 右手に持っていたはずの誕生日ケーキは無い。


 会いたいな。

 妻と、娘たちに。


「……よし」


 まずは生き残らないと。


 僕は改めて拳を握り、立ち上がった。


 そして気付くのだ。


「……あれ?」


 身体が軽い。


 というより、軽すぎる。


 試しに近くの木を軽く小突いた。


「手をケガしないようにっと」


 軽くジャブ。


 ドゴォン!


 木が傾いた。


「うそぉん」


 ドォォォン!


 そして木が倒れた。


「…………」


 しばらく、倒れた木を見つめる。


「いやいやいや」


 普通、こんな簡単に木は倒れない。


 そこで、神様が去り際に何か言っていたのを思い出した。


 言葉は思い出せないが、ステータス画面を見せられた記憶が蘇る。


「ステータス……だったっけ?」


 頭の中で念じると、目の前に文字が浮かんだ。


 名前――観月紀臣。


 レベル――1。


 能力値――。


「STR99……」


 もう一度、倒れた木を見た。


「これか……」


 どうやら僕は、とんでもなく力持ちらしい。


 ほかにも能力がいくつかある。


 鑑定や、剣・槍・弓術などの補助・物理スキル。


 そして、各属性魔法や、その属性レベルに応じた魔法スキル。


「多いな……」


 しかもポイントを割り振るタイプ。


 STRは勝手にポイントを振られたのか?


 まぁ、今はこれでいい。


 神様からのサービスが思ったよりあるのは嬉しいのだが、喜んでばかりもいられない。


 僕の腹の虫が鳴ったのだ。


「腹が減っては何とやらだぞ」


 森の中で一人。水も食料もない。

 まずは食材を何とかせねば。


 家族を残して死んだ僕が、こんなところで餓死するわけにはいかない。


「帰るんだから」


 そのためには、生きなければならない。


 森を歩く。


 しばらくすると――。


 ガサッ。


「ん?」


 茂みが揺れた。


 出てきたのは、一匹の兎だった。


「ウサギ……?」


 いや、まんまる綿毛だ。僕の知る兎ではない。


 しかも、額から一本の白い角が生えている。


「……ホーンラビット? って言うのかな?」


 兎がこちらを見るので、僕も兎を見る。


 そして――。


 グゥゥゥ……。


 僕の腹が盛大に鳴った。


「……ごめんな」


 兎が首を傾げる。


「君、食えるだろ?」


 兎が、それこそ脱兎の如く逃げ始めた。


「どこに行こうというのだね!?」


 早歩きでは追いつけないので走る。


「はっやいなぁ! ちょっと待ってよ!」


 僕が叫ぶと、ホーンラビットが急停止し、振り返る。


 次の瞬間、立派な長い角をこちらに向けて地面から発射してきた。


「うおっ!」


 角が目の前を通り過ぎた。


 危ない。


 綿毛で足が見えないから余計危ない。


 まぁ、こいつも生きるために必死だよな。


「なるほど……」


 僕は少し距離を取って理解する。


 狩るか、狩られるか。


 この異世界では、そういうことなんだろう。


 でも――。


「悪いな。僕も、生きなきゃいけないんだ」


 拳を握ると同時、ホーンラビットが再び発射される。


 避ける――同時にカウンターフック。


 まんまる綿毛がポテポテと転がった。


「…………」


 僕はしばらく、その姿を見ていた。


 可哀想だと思う。


 でも、食べなければ僕も死ぬ。


「……いただきます」


 手を合わせて言った。


 食事の直前以外で言ったのは初めてだ。


 そして、僕は肉を確保した。


「これで、火魔法さえ取得すれば飯は食えるな」


 少しだけ安心した。


 生きるために、命をもらう。


 僕はホーンラビットの額を見る。


「……角、使えそうだよな」


 角を掴んで、額を押さえながら抜く。


 グリグリ……ポンッで取れた。


 武器として使えそうだな。


「しばらく持っておくか」


 僕は角を手に持ち、仕留めた兎を担いで、森の奥へ進んだ。


 目的地は分からないし、帰る方法も分からない。


 それでも、目的だけは決まっている。


「家族のところへ帰る」


 そのためには、まず人のいる場所へ行かなければならない。


「町を探そう。方向は、そうだな……日の昇る、東へ」


 こうして、僕の異世界での生活が始まったのだ。

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