↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔獣料理人の異世界紀行 ~食べて、旅して、強くなる~  作者: 町田トモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/8

幻影猫の痕跡

 翌朝。


 ハルは宿の部屋で身支度を整えていた。


 「今日も行くぞ、ポチ」


 ベッドの上で丸くなっていたポチが顔を上げる。


 「ワン!」


 「よし」


 ハルは荷物をまとめる。


 昨日の調査では、幻影猫(げんえいねこ)の姿を一度確認した。


 だが、分かったのは見た目と、姿を消す能力だけだった。


 なぜあの森で目撃情報が相次いでいるのか。

 何のために森に現れているのか。

 まだ分からないことが多い。


 ポチがハルを見る。


 「今日はちゃんと正体を確かめような」


 「ワン!」


 二人は宿を出た。


 * * *


 冒険者ギルドの前。


 ハルとポチが待っていると、リリアがやってきた。


 「おはよう、ハル」


 「おはよう、リリア」


 「準備はできてる?」


 「もちろん!」


 ハルが答える。


 リリアはポチを見る。


 「ポチも元気そうね」


 「ワン!」


 ポチが尻尾を振る。


 「じゃあ、行きましょうか」


 「ああ!」


 ハルが答える。


 三人は街を出て、昨日と同じ森へ向かった。


 * * *


 やがて、昨日幻影猫(げんえいねこ)を見た森へと入っていった。


 「昨日は、この辺りで幻影猫(げんえいねこ)を見たのよね」


 リリアが周囲を見渡す。


 「ああ」


 ハルも辺りを見る。


 「……何の痕跡もないね」


 昨日、幻影猫が姿を消した場所にも、目立った痕跡は残っていない。


 「昨日はポチが見つけてくれたけど……」


 リリアがポチを見る。


 「今日はまだ何も反応がないわね」


 「そうだな」


 ハルもポチを見る。


 「焦らず、少しずつ探していこう」


 「ええ」


 三人は周囲に注意しながら、森の奥へと進んでいく。


 しばらく歩いても、幻影猫の姿は見えない。


 「……いないな」


 ハルが小さく呟く。


 リリアも周囲を見渡す。


 「姿を消せるなら、近くにいても分からないのかもしれないわ」


 「そうだよな……」


 ハルは足元を見る。


 葉の上には新しい足跡もない。


 枝が折れた跡もない。


 何かが通ったような痕跡すら見つからなかった。


 「本当に、何もないな」


 「焦って探しても見落とすだけよ」


 リリアが言う。


 「少しずつ範囲を広げていきましょう」


 「ああ」


 三人はさらに森の奥へ進んだ。


 その時だった。


 ポチが突然、足を止めた。


 「……ポチ?」


 ポチは森の奥を見つめている。


 耳がピンと立っていた。


 「何かいるのか?」


 ハルがポチの視線を追う。


 すると、森の奥で木々がわずかに揺れた。


 「……あっちか?」


 ハルもポチの隣に立ち、森の奥を見る。


 次の瞬間、ポチが森の奥へ駆け出した。


 「待って、ポチ!」


 リリアが声をかける。


 ポチは一度振り返ったが、すぐにまた森の奥へ駆けていく。


 「何か見つけたのかもしれないわ」


 「追いかけよう」


 三人はポチの後を追った。


 しばらく進むと、ポチが何かを見つけたように立ち止まった。


 前方の木々の間で、何かが動いた。


 「……!」


 ハルが目を凝らす。


 一瞬だけ、灰色がかった黒い毛並みが見えた。


 「いた!」


 ハルが声を上げる。


 幻影猫(げんえいねこ)が、こちらを振り返った。


 淡い紫色の瞳。


 だが、次の瞬間。


 その姿が、景色の中へ溶けるように消えた。


 「消えた……!」


 リリアが辺りを見る。


 「《身体強化(フィジカルブースト)》!」


 ハルがスキルを発動する。


 「ハル、右!」


 リリアの声。


 ハルが右を見る。


 そこに、幻影猫(げんえいねこ)の姿が一瞬だけ見えた。


 「……!」


 だが、次の瞬間には消えている。


 「どこだ……!」


 ――その瞬間。


 背後から、風を切る音がした。


 「っ!」


 ハルが振り向く。


 幻影猫の爪が、すぐ目の前まで迫っていた。


 「危ない!」


 リリアが飛び込んできて、剣で爪を弾く。


 キィンッ!


 鋭い音が森に響いた。


 幻影猫は空中で身を翻し、地面へ着地する。


 「ハル、大丈夫?」


 「ああ。リリア、ありがとう!」


 「油断せずにいくわよ!」


 「ああ!」


 幻影猫は低い姿勢になり、二人をじっと見ている。


 リリアが剣先を幻影猫へ向ける。


 幻影猫は再び姿を消した。


 幻影猫は木々の間を駆け抜けていく。


 狭い木々の間を、まるで地面の形をすべて理解しているかのように駆け抜ける。


 「速すぎる……!」


 リリアも必死に追っている。


 「ハル! あっちよ!」


 「分かった!」


 ハルはリリアの声がした方向へ目を向ける。


 木々の隙間から、幻影猫(げんえいねこ)の姿が一瞬だけ見えた。


 「いた!」


 ハルが地面を蹴る。


 《身体強化(フィジカルブースト)》によって強化された脚力で、一気に距離を詰める。


 「ポチ、追えるか!」


 「ワン!」


 ポチがさらに速度を上げる。


 幻影猫が木々の間を抜け、右へ逃げていく。


 ハルもその後を追う。


 だが、幻影猫はすぐに方向を変えた。


 「……っ!」


 ハルが追おうとした、その時。


 「ハル、こっち!」


 リリアが別の方向から声をかける。


 ハルが振り向く。


 リリアは幻影猫の動きを先回りしていた。


 「そっちに逃げるわ!」


 「分かった!」


 ハルが向きを変える。


 幻影猫はリリアの姿を見て、さらに方向を変えた。


 その瞬間、ポチが横から飛び出す。


 「ワン!」


 幻影猫は急停止し、反対方向へ逃げた。


 「逃がさない!」


 ハルが追う。


 幻影猫は木々の間をすり抜けていく。


 ハルも後を追い、リリアは少し離れた場所から幻影猫の動きを見ていた。


 「……また右」


 リリアが呟く。


 幻影猫が右へ向きを変える。


 リリアも走り出す。


 だが、幻影猫が次に向かった先には、ポチが回り込んでいた。


 「……!」


 幻影猫が足を止める。


 その隙に、ハルが距離を詰めた。


 「今だ!」


 幻影猫は身を翻し、木々の間へ逃げ込む。


 三人もすぐに追う。


 幻影猫は必死に逃げ続ける。


 だが、逃げるたびに三人との距離が少しずつ縮まっていく。


 木々の密集した場所を抜けた先で、視界が少し開けた。


 幻影猫が一瞬だけ足を緩める。


 「……あそこだ!」


 ハルが叫ぶ。


 幻影猫が再び走り出す。


 三人も一気に追う。


 木々の間を抜けた先には――


 開けた場所が広がっていた。


 幻影猫が森の中から飛び出す。


 「止まれ!」


 ハルが叫ぶ。


 幻影猫が足を止める。


 ハルたち三人が、それぞれ距離を取りながら幻影猫を囲んでいた。


 「……囲めた」


 ハルが息を整える。


 幻影猫は低い姿勢になり、三人を順番に見ている。


 「今度は逃がさないわよ」


 リリアが剣を構える。


 幻影猫が一歩後ろへ下がった。


 「……動いた!」


 ハルが前へ出る。


 幻影猫はすぐに横へ飛び、森へ戻ろうとする。


 「ポチ!」


 ハルが叫ぶ。


 ポチが一気に走り出した。


 幻影猫の前へ回り込み、逃げ道を塞ぐ。


 「……!」


 幻影猫が急停止する。


 すぐに反対側へ向きを変える。


 「行かせない!」


 ハルがその方向へ回り込む。


 幻影猫はさらに向きを変えた。


 だが、その先にはリリアがいる。


 「こっちもダメよ」


 リリアが剣を構える。


 幻影猫が足を止める。


 三人に囲まれ、逃げ道を失った幻影猫が、低く身を構えた。


 「来るわよ!」


 リリアが叫ぶ。


 幻影猫が地面を蹴った。


 ハルへ向かって、一気に距離を詰めてくる。


 「っ!」


 ハルは身体を横へずらし、爪をかわす。


 幻影猫はそのまま駆け抜けると、すぐに向きを変えた。


 「逃げる気だ!」


 ハルが叫ぶ。


 「ポチ!」


 「ワン!」


 ポチが幻影猫の進行方向へ駆け出す。


 幻影猫はポチを見て、急停止した。


 そして、すぐに反対方向へ走り出す。


 「こっちもダメよ!」


 リリアが回り込む。


 幻影猫はさらに向きを変えた。


 だが、その先にはハルがいる。


 「こっちも逃がさない!」


 ハルが距離を詰める。


 幻影猫は後ろへ下がった。


 右を見る。


 左を見る。


 逃げ道を探すように、何度も周囲を見回している。


 「……?」


 ハルは動きを止めた。


 幻影猫の様子がおかしい。


 こちらを警戒しながら、低く唸っている。


 その瞳には、怯えたような色が浮かんでいた。


 「……こいつ、戦う意志はないのか?」


 ハルが呟く。


 幻影猫はハルたちを睨みながら、さらに後ろへ下がる。


 近づけば、威嚇する。


 だが、自分から攻撃を仕掛けようとはしない。


 「確かに……」


 リリアも剣を構えたまま、幻影猫を見る。


 「私たちを警戒しているけど、戦おうとはしていないわね」


 幻影猫が一歩下がる。


 そして、森の奥へ視線を向けた。


 「……?」


 ハルもそちらを見る。


 何もない。


 幻影猫はもう一度、森の奥を見る。


 その表情が、さらに不安そうになる。


 「……何を気にしてるんだ?」


 ハルが呟く。


 幻影猫は三人から離れようと、ゆっくり後ろへ下がる。


 「待って」


 リリアが声をかける。


 幻影猫がびくっと身体を震わせた。


 そして、再び低く唸る。


 「……やっぱり、人間を怖がってるのかもしれないわね」


 リリアが呟く。


 ハルは幻影猫を見つめる。


 「でも……」


 幻影猫の視線は、また森の奥へ向いている。


 「何かを気にしてる」


 「あっちに何かあるのかもしれないわ」


 リリアが言う。


 ハルは少し考える。


 「……一旦、下がろう」


 「ええ」


 二人がゆっくりと後ろへ下がる。


 ポチもハルの隣へ戻った。


 幻影猫はしばらく三人を警戒していたが、少しずつ身体の力を抜いていく。


 そして、森の奥へ向き直った。


 「……やっぱり、あっちが気になるみたいだな」


 ハルが呟く。


 「刺激しないように、少し時間を置きましょう」


 リリアが言う。


 「ああ」


 ハルは幻影猫から目を離さない。


 幻影猫は森の奥へ向かって歩き出した。


 そして、木々の間へ姿を消していく。


 「……行ったわね」


 「ああ」


 ハルは幻影猫が消えた方向を見る。


 「じゃあ、俺たちは少し離れたところから、あいつが気にしていた方を調べてみよう」


 「そうね」


 二人は幻影猫を追いかけず、少し距離を取って森の奥へ進み始めた。


 ポチも二人の後をついていく。


 しばらく進んだところで、ハルが足を止めた。


 「……ここからなら、さっきの場所も見えないな」


 「ええ。これなら幻影猫を刺激することもなさそう」


 リリアが周囲を見渡す。


 ハルも森の奥へ視線を向けた。


 幻影猫が気にしていた方向。


 そこには、まだ何も見えない。


 「行こう」


 「ああ」


 三人は、幻影猫が気にしていた森の奥へと進んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。