↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔獣料理人の異世界紀行 ~食べて、旅して、強くなる~  作者: 町田トモ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/8

森で出会った冒険者

 ハルとポチは、木々の間から見えた煙を追っていた。


「……人がいるのか?」


 ハルは煙を見上げながら、足を進める。


 少しずつ煙との距離が近づいていく。


 ポチも何かを感じ取ったのか、ハルの前を歩いていく。


「おい、ポチ。勝手に先に行くなよ」


「ワン!」


 木々を抜ける。


 すると――。


 開けた場所に、小さな焚き火があった。


 その前に、一人の女性が座っている。


 腰には剣。


 簡素な防具を身につけ、焚き火で何かの肉を焼いていた。


「……人間だ」


 ハルは思わず呟いた。


 女性が顔を上げる。


「……誰?」


 鋭い視線がハルへ向けられる。


 女性はすぐに立ち上がり、剣に手を添えた。


「そこで止まって!」


「……!」


 ハルも思わず両手を上げる。


「待ってくれ!怪しい者じゃない!」


「こんな森の奥に一人でいて、怪しくない人なんている?」


「……それは……」


 何も言い返せない。


 女性はハルを警戒しながら、隣にいるポチへ視線を向ける。


「……その魔獣は?」


「え?」


「その黒い子。あなたの従魔?」


「魔獣?」


 ハルはポチを見る。


「いや、犬だけど?」


「……犬?」


 女性は眉をひそめる。


「そんな犬、見たことないけど…」


「そうなのか? 犬ってみんなこんな感じじゃないのか?」


「……あなたは何者なの?」


「俺は……料理人」


「料理人?」


「うん」


 女性は少しだけ警戒を緩めた。


「私はリリア。冒険者よ」


「冒険者……?」


「俺はハル。こっちはポチ」


「ワン!」


 ポチが尻尾を振る。


「……ずいぶん人懐っこい魔獣ね」


「犬だって」


「はいはい」


 リリアは苦笑した。


「それにしても、料理人がどうしてこんな森の奥に?」


「それが……俺にもよく分からないんだ」


「よく分からない?」


「気づいたら、この森にいた」


 リリアは怪訝そうな顔をする。


「……一人で?」


「最初はな」


 ハルはポチを見る。


「途中でポチに会って、デカい狼に襲われているところを助けてもらったんだ」


「……この子に?」


「ああ」


 リリアはポチを見る。


 ポチは何事もなかったように尻尾を振っている。


「……まあ、普通の犬じゃなさそうなのは分かったわ」


 リリアがふとポチを見ると、じっと自分が食べていた肉を見つめていることに気づいた。


「……もしかして、食べたいの?」


「ワン!」


 ポチが尻尾を振る。


「ふふっ。お腹空いてるのね」


 リリアは焼いていた肉を少し切り分け、ポチの前に置いた。


「はい、どうぞ」


「ワン!」


 ポチは勢いよく肉にかぶりつく。


「おいおい……」


 ハルは思わず苦笑する。


「さっきも食べたばっかりなのにな……」


「ワン!」


 ポチは夢中で肉を食べ続ける。


「小さいのによく食べるのね」


「本当に。昨日からずっと食べてる気がするな……」


 リリアは笑いながらポチを見つめた。


「……かわいい」


「ワン!」


 ポチは尻尾を振りながら、肉を食べ続けていた。


 リリアはそんなポチを見ながら、少しだけ表情を緩める。


「ポチっていうのね」


「ああ。俺が名前をつけた」


「いい名前じゃない」


「そうか?」


「ええ。覚えやすいし」


「ワン!」


「本人も気に入ってるみたいだな」


 ハルは笑った。


 ハルは焚き火の肉を見る。


「……それ、魔獣の肉?」


「そうよ」


「へえ……」


 ハルの目が変わる。


 料理人としての好奇心が顔を出した。


「……それ、いつもどう食べてるんだ?」


「どうって…焼いて食べるだけだけど?」


「……焼くだけ?」


「他に何かあるの?」


 ハルは肉を見つめる。


「……もったいない」


「え?」


 ハルは周囲を見渡す。


 森の中には、見覚えのある香草がいくつか生えていた。


 そして、昨日見つけた赤い実も。


「……ちょっと、いいか?」


「何するの?」


「料理する」


「今?」


「今」


 ハルは香草を摘み、赤い実を取り出した。


 肉の表面に香草を擦り込み、赤い実を潰してソースを作る。


 焚き火の火加減を調整しながら、肉をゆっくり焼いていく。


 じゅう、と肉から音がする。


 香ばしい匂いが森に広がった。


 ポチの鼻が動く。


「ワン!」


「もう少し待ってくれ」


「ワン……」


 リリアも黙って肉を見つめている。


「……料理人って、いつもこうなの?」


「こう?」


「どこでも料理を始めるの?」


「食材があれば、料理したくなるだろ?」


「……ならないけど」


「そうか?」


 リリアは呆れたように笑う。


「変な人ね」


 やがて、肉が焼き上がった。


「……最後にソースをかけて完成と!」


 ハルは肉を切り分ける。


「食べてみて」


「……私が?」


「ああ、君の肉だし」


 リリアは少し迷ったが一切れを手に取る。


「……いただきます」


 口に入れる。


「……!」


 リリアの目が見開かれた。


 肉の旨味。


 香草の香り。


 そして、赤い実のほのかな酸味。


「……おいしい!!」


「本当?」


「うん。おいしい」


 ハルは少し嬉しそうに笑った。


「よかった」


 料理人として、人に料理を食べてもらう。


 それだけで、ハルは少しだけ安心した。


「……あなた、本当に料理人なのね」


「一応、元の世界ではずっと料理をしてた」


「元の世界?」


「……」


 ハルは言葉を止める。


 自分が異世界から来たことを話していいのか。


 まだ分からない。


「……まあ、いろいろあって」


「そう」


 リリアはそれ以上聞かなかった。


 ただ、ハルが料理をしている姿をしばらく眺めていた。


「冒険者って、誰でもなれるのか?」


「基本的にはね」


「冒険者は、魔獣を討伐したり、護衛をしたり、街の依頼を受けたりするの」


「なるほど」


「強い魔獣を倒せる人ほど、報酬も高くなるわ」


「……魔獣を倒して、お金を稼ぐのか」


「そう」


 ハルは少し考える。


「倒した魔獣って、売ったりできるのか?」


「もちろん。食べられる魔獣なら、肉が売れるわ」


 リリアは続ける。


「他にも毛皮や牙なんかは、武器や防具を作るための素材として使われるの。魔獣によって、売れるものは色々あるわ」


「……!」


 ハルの目が輝く。


「なるほど……」


 ハルは少し考える。


「……料理だけじゃなくて、魔獣のことも色々と学んでいかないとな」


 リリアは少し呆れたように笑った。


「それより、ハル」


「ん?」


「あなた、ここがどこか分かってる?」


「……全然」


「街は?」


「分からない」


「この森の名前は?」


「分からない」


「魔獣についても詳しくなさそうね」


「……食べられるってことは分かった!」


「そこじゃない」


 リリアは呆れたようにため息をつく。


「……あなた、本当に何も知らないのね」


「うん」


 ハルは素直に答えた。


 リリアは少し考える。


「この森を抜けた先に、街があるわ」


「街……!」


 ハルの顔が明るくなる。


「人がいる?」


「もちろん」


「食材は?」


「……そこ?」


「大事だろ」


「ふふっ」


 リリアが笑う。


「街には市場もあるし、宿もある。冒険者ギルドもあるわ」


「冒険者ギルドか……」


 ハルは聞き慣れた言葉に少し驚く。


「本当に異世界なんだな……」


「何か言った?」


「いや、なんでもない」


 ハルはポチを見る。


「どうする?」


「ワン!」


「だよな!」


 ハルはリリアへ向き直る。


「街まで一緒に行ってもいいか?」


「ええ。この森を一人で抜けるのは危険だから」


「ありがとう!」


「ただし――」


 リリアはポチを見る。


「その子にはちゃんと気をつけてね」


「ポチ?」


「……何か普通じゃない気がする」


 ハルはポチを見る。


 ポチは何も気にせず、残った肉を食べている。


「……まあ、確かに食欲は普通じゃないけど」


「ワン!」


 二人は顔を見合わせて笑った。


 焚き火を消し、リリアは荷物をまとめる。


 腰に剣を差し直し、背負っていた荷物を確認する。


「準備できたわ」


「じゃあ、行こう」


「ええ」


 ハルとポチ、そしてリリアは森の中を歩き始めた。


 しばらく歩くと、リリアがふと口を開いた。


「ハル」


「ん?」


「街に着いたら、まず冒険者ギルドに行くといいわ」


「なんで?」


「この世界で何も知らないなら、まず情報を集めた方がいいから」


「なるほど」


「それに、身分証がないと街で困ることもあるわ」


「身分証……」


 ハルは少し不安になる。


「俺、何も持ってないぞ」


「でしょうね」


「どうすればいい?」


「ギルドで相談すればいいわ。私も一緒にいるから」


「助かるよ」


「その代わり――」


「ん?」


「街に着いたら、またあの料理を作ってくれない?」


 リリアが少し照れたように笑う。


「……もちろん」


 ハルも笑った。


 こうしてハルは、この世界で初めて出会った人間――リリアと共に、初めての街へ向かうことになった。


 森の木々の向こう。


 まだ見えない街を目指して、三人は歩き続ける。


 ハルにとって、この世界での旅が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。