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第90話 上手な子の場所、迷う子の場所

二日目も、僕は教材を作らなかった。


エメリク校長は、新しい教本の見本を何冊も用意していた。絵の多い本、呪文を韻で覚える本、魔石の構造を細かく説明する本。どれもよく考えられている。


「どれを使うのがよいでしょう」


「選ぶ前に、もう一日だけ授業を見せてください」


道具を入れれば、今ある教え方との違いが見えにくくなる。まず、子どもがどこで分かり、どこで止まるかを知りたかった。


僕は三種類の小札を作った。


緑は、自分でできた。黄は、聞いたらできた。白は、分からなくて止まった。


子ども本人に付けさせると、できなかったことを皆の前で示すのが恥ずかしい。そこで僕とミナが後ろから見て、動作ごとに札を置いた。名前ではなく座席番号だけにする。


札の意味も、できる、できない、の二つにはしなかった。聞けばできた黄色は、大切な途中だった。最初から一人でできなくても、どんな助けがあれば進めるか分かれば、教え方を作れる。


教師が直接手を取った時は、黄色の横へ小さな丸を置いた。言葉だけで進めた時は線。隣の子の動きを見て進めた時は三角。助け方まで細かく数えすぎると授業が止まるので、この三つだけにした。


「これは子どもの成績に使いますか」


エメリク校長が尋ねた。


「今日は使いません。教え方を見るための記録です。成績にすると、子どもが白札を隠したくなります」


白が多いことは、悪い子がいる印ではなく、説明を変える場所がある印だった。


授業の最初は、魔石の傷を見る。


ほとんどの子に緑札が置かれた。次に周囲を片づける。ここも緑が多い。


魔力の輪を感じるところで、黄と白が増えた。灯りがついた後、止める時にも白が増える。つけることへ集中し、消し方を聞いていない子がいた。


上手な子にも、白札はあった。


早く灯りをつけられる子は、傷を見る前に手を置く。答えが合っているので教師は先へ進ませるが、安全確認を飛ばしていた。別の子は大きな光を出せても、片づけをテオへ任せている。


その子へ理由を聞くと、『灯りがつけば終わりだと思った』と答えた。教師が評価していたのも、主に光の大きさだった。見せた成果と、教師が褒めた成果が一致している。


「片づけまでが授業だと、私たちが伝えていなかったのですね」


教師は、次の授業から最後の五分を片づけ時間として先に確保すると決めた。鐘が鳴って余った時間で片づけるのではなく、最初から授業の中に置く。


一方、光が小さい子の中にも、魔力不足ではない子がいた。怖くて力を止めている。傷を見る理由を聞いた後、壊れるのではないかと心配になったらしい。


リゼが安全な練習箱を分解して見せると、その子は少しだけ明るくできた。『怖がらず強く』と言うより、何が安全かを見せるほうが合っていた。


「上手な子は、全部分かっていると思っていました」


教師が小声で言った。


「結果が早いと、途中が見えにくいですね」


反対に、テオの列では、最初と最後が緑だった。傷を見る、周りを片づける、魔石を外す、棚へ戻す。真ん中の魔力操作だけが白い。


苦手な子ではなく、一つの場所で困る子だった。


休み時間に、僕はテオへ札を見せた。


「白が多いですね」


「真ん中に三枚です。でも、前と後ろは全部緑です」


「それは、できているってことですか」


「はい。安全に始めて、安全に終わるのは誰より上手でした」


彼はすぐには笑わなかった。何度か札を数え、本当に自分の列か確認してから、小さく口元を上げた。


午後は教師ごとの違いも記録した。


一人は、必ず理由から話す。理解した子には強いが、説明が長くなり、手を動かす時間が減る。


もう一人は、まず真似をさせる。体で覚える子には分かりやすいが、別の道具へ変わると迷う。


エメリク校長は、どちらも教えようとする。一回の授業へ目的が増え、終わる前に鐘が鳴る。


「誰が正しいですか」


ミナが僕へ聞いた。


「得意な教え方が違います。順番と、今日どこまでやるかが共有されていないんだと思います」


違いをなくす必要はない。理由を教える人、手を動かさせる人、全体を考える人。それぞれを活かすには、同じ授業の入口と出口だけそろえればよい。


教師二人に、同じ七つの動作を自分の順番で並べてもらった。最初の三つと最後の二つは同じだった。違うのは、魔力を感じる説明を灯りの前にするか、後にするかだけだった。


「全部違うと思っていました」


「紙へ並べると、違いは二か所ですね」


その二か所は、どちらかを正解に決めるのではなく、初級では前、慣れた子には後、と使い分ける案が出た。対立していた教え方が、段階の違いに変わった。


子どもへも、どちらが分かりやすかったか手を挙げてもらった。低学年は真似から、高学年は理由からを好む子が多い。全員を一つへ合わせるより、基本の安全順だけ共通にし、中の説明は二種類残すことにした。


僕は観察した札を、教室の壁へ横に並べた。


開始前の安全確認。魔石を置く。少し魔力を入れる。明るさを保つ。止める。魔石を外す。片づける。


教師たちは、自分がどこを多く説明していたか初めて見た。『明るさを保つ』へ時間を使いすぎ、最後の片づけが鐘の後へ押し出されている。


「新しい教材より、まず一時間に入れる量を減らしたほうがよさそうです」


僕が言うと、校長は深くうなずいた。


「実は、私も同じことを考えていました」


彼は校長室へ走り、大きな巻紙を抱えて戻った。


机二つをつないでも、端が床へ垂れる。


『全児童生活魔法完全教育計画』と題された巻紙には、教えるべき内容が百項目、細かな順番付きで並んでいた。

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