第131話 封書より先に数えるもの
王都の封書は、領主印よりさらに重そうに見えた。
白い封蝋には、ラウム王国の穂と冠。横には緑札があり、『返答期限は二十日後。急ぎではない』と書かれている。
僕はその場で開けなかった。
封筒箱には、受領したマルテ、運ぶルカ、会社で開ける僕の三欄を付けた。王都印があるから特別に僕が抱えて帰るのではなく、ほかの重要書類と同じ受け渡しをする。
ルカは箱の封を確認し、通常便の貴重品棚へ置いた。途中の宿で一度、受領札を交換する。紛失した時の連絡先も王都連絡局と会社の二つを記す。
重要な物ほど一人が肌身離さず守る方法もあるが、その人が眠れなくなる。受け渡すたび状態を確認できるほうが、長い道では安心だった。
受領印だけ押し、会社へ持ち帰る封筒箱へ入れる。リゼ、バルド社長、今回の仲間と一緒に読む時間を決めた。
「王都からですよ?」
マルテが驚いた。
「二十日あります。帰る馬車は明朝です」
交易所で開けば、今夜から考え始める。家へ戻り、今の仕事の完了を確認してからでよい。
封書を預けた後、マルテがもう一つの話をした。
交易所と管理道の間に、小さな中継地がある。古い検問小屋と、荷車三台分の土地。三国の制度変更で使われなくなり、今は領主府と交易所の共同管理になっている。
「灯り木魔道具社へ、報酬の一部として譲りたいのです」
土地の評価額も出してもらった。
建物は古く修理が必要だが、井戸と街道の立地に価値がある。現金報酬へ換算すると、会社の数か月分の利益に近い。
「高すぎませんか」
マルテは、交易所が今後使う講習と保管の権利を差し引けば妥当だと説明した。会社が全部自由に使える土地ではなく、共同利用の負担も引き受ける。
領主府の記録係、税担当、土地の隣人にも確認した。隣の牧草地へ荷車を広げない。井戸は渇水時に近隣優先。古い検問小屋に残る国章は撤去せず、歴史記録として保管する。
見えない義務まで含めて、報酬の価値だった。
国境案件の契約報酬はすでに支払われている。それとは別に、共通札の講習、管理道の道具保管、各地から来る弟子の滞在場所として使ってほしいという。
僕たちは、すぐ受け取らず現地を見た。
建物は小さいが、屋根は無事。井戸は使える。街道と管理道の分岐にあり、どちらの荷車も寄れる。生活する家には遠いが、中継地には向いている。
土地の境界、井戸の権利、税、修理責任を確認した。
会社が所有し、交易所は緊急時に無料で使える。水番は管理道の道具棚を一列使う。宿として常時営業せず、講習や一時待機は事前予約。売却する時は、交易所へ先に相談する。
修理費は、譲渡前に交易所が屋根の穴と井戸の安全だけ直す。その後の日常修理は会社。緊急利用で壊れた部分は三国の救援費。講習で使った消耗品は参加費から出す。
鍵は三本。会社、交易所、水番。どの鍵で開けても入口の小板が裏返り、使用中と分かる。予約なしの緊急利用では、後から理由札を入れる。
利用権を増やしても、誰が入ったか分からない家にしない。
リゼは、生活用の寝室を作らない条件を入れた。便利な場所だからと、僕たちが国境へ長く住み込み始めないようにする。寝る必要がある日は近くの宿へ払い、地域の仕事も残す。
「また土地が増えますね」
僕が言うと、リゼは笑った。
「今回は、何に使うか決めてから受け取ってる」
中継地には、『道の継ぎ目』という名前を付けた。
三国の書式を一つへ変える場所ではなく、違うままの荷物を次へ渡す場所。会社の新しい支店ではなく、講習と保管の拠点。
ルカが月に一度、運送札の講習をする。フィンは受付機の予備部品を置く。ミナは低温薬の保冷石を点検する。僕とリゼが毎回来なくても使える予定を作った。
管理人を一人置く案はやめた。月の予定板へ、講習、点検、水路利用を置き、使う日の担当者が開閉する。月末に交易所の書記が利用札を数える。
誰も使わなかった月にも、井戸と屋根だけは水番の巡回時に見る。使われない建物ほど傷みに気づきにくい。
最初の講習では、三国の新人書記が共通札を作り、管理道の御者が止める条件を教えた。僕は参加せず、ルカの報告だけを読んだ。
『道の継ぎ目』は、会社の名前を広げる看板ではなく、仲間が自分の仕事を教える場所として動き始めた。
国境案件の最後の報酬は、僕個人の金ではなく、仲間が次の仕事を持てる土地になった。
翌日、家へ戻った。
相談室の机へ王都の封書を置き、バルド社長、リゼ、ミナ、ルカ、フィンを呼ぶ。生活側の居間へは持ち込まない。
封を切る前に、僕は予定板を開いた。
今月の休日は四日。来月は五日。学校の調整役が三回。会社の保守契約が二件。リゼと約束した二人の日が一日。家の雪囲いを外す日もある。
休日九日のうち、動かせる日と動かさない日も分けた。
リゼとの一日は動かさない。何もしない日を各月一日ずつ。学校と保守の翌日は遠方移動を入れない。残る五日は、相談して代替日を先に置けるなら動かせる。
会社側でも、バルド社長が人員を数えた。僕とリゼが王都へ行く場合、ミナ、ルカ、フィンの誰が同行し、誰が今の顧客を守るか。全員を連れていけば会社が空になる。
「招待だから、全員行く必要も、すぐ行く必要もない」
社長は、王都という言葉に浮かれず言った。
リゼは、家の生活板から二人の日を外さず、相談室の板へ王都の未決定札を置いた。
内容を読む前の条件が、すでに僕一人のものではなくなっていた。
王都へ行けば、往復だけで四日以上。全国の仕事なら、一月で終わらない。
「まだ内容を読んでいませんよ」
ミナが言う。
「だから、先に今あるものを数えています。手紙を読んだ後だと、全部動かせる気がしてしまうので」
失ってよい日ではなく、すでに守ると決めた日を数える。
休日九日。学校三回。保守二件。二人の日一日。
その数字を紙へ書き、封書の横へ置いた。
ようやく封を切る。
王都からの手紙には、『全国食料連携会議への招待』と記されていた。
僕は招待状より先に、失うかもしれない休日の数を知っていた。




