第119話 国を変えずに一枚へ並べる
三国の書式を、机へ横に並べた。
ラウムの紙は、品名と数量が大きい。東国は産地と税区分。南商国は受取時刻と商会印を重視する。
「どれを共通の書式にしますか」
書記が尋ねた。
一つを選べば、ほかの二国が自分たちの制度を捨てることになる。新しい第四の書式を全項目入りで作れば、今の三枚より厚くなる。
「この交易所で、次の人へ渡す時に必要なことだけ選びましょう」
御者、倉庫員、検問官、受取商人へ別々に聞いた。
最初から全員を同じ会議へ集めると、自分の国の制度を守る話になりやすい。僕たちは、一台の荷車を次へ渡す時に何を見るかだけを、現場ごとに聞いた。
御者は、札の色より道順を気にした。倉庫員は、品名より床へ置ける重さ。検問官は、禁止品と封印。商人は、到着日と数量。書記は、どの原本へ戻れるか。
「税区分は共通札に要りませんか」
東国の書記が尋ねた。
税は大切だが、交易所の倉庫員が箱を渡す時には判断しない。東国の書類へ残り、東国の検問官が見る。共通札へ入れないことは、不要という意味ではなく、見る人を分けることだった。
逆に、御者の体調や馬の餌は荷物札へ入れず、運行記録へ置いた。一枚へ関係する情報を全て載せない。
御者は、どこへ持っていくか。
倉庫員は、何がいくつあるか。
検問官は、危険や禁止品がないか。
商人は、誰から来て、いつ受け取れるか。
意見を並べると、五つにまとまった。
何か。量はいくつか。誰から誰へ。いつまでか。安全や扱いに何が必要か。
五項目を、一台の実物で埋めた。
『冬麦』だけでは、どの冬麦か分からない。封印番号と袋の外観を加える。『百』だけでは単位がない。袋百、重量九千八百と二つ書く。『アーシュ』だけでは送り主か受取人か分からない。左から右へ矢印で結ぶ。
期限も、一つの日付ではなく、希望と必要を並べる。安全欄は、まず自由記述にして、実際にどんな言葉が出るか集めた。
最初の十台で、五項目以外の質問が出るたび控えへ書いた。税、関税支払日、御者の宿、馬の健康、商人の支払方法。その情報が誰の判断に必要かを確認し、元の各国書類や運行札へ戻した。
五項目が少ないのではなく、この受け渡しに必要な情報が五つだった。
品名は各国の言葉を一つに決めず、封印番号と簡単な絵を中央へ置く。冬麦、白穀、粉用穀物という三つの名は、その横へ小さく並べる。
量も、一つの単位へ無理に変えない。袋数と、ラウムの共通重りで量った重量を両方書く。東国の単位は換算欄へ残す。
送り主と受取人は、名前だけでなく、各国の商会印を押す。文字を読めなくても、印と封印番号を合わせられる。
期限には二つあった。
早く着くと価値が高い希望日と、腐敗や契約に関わる必要期限。パン工房の依頼書で分けた欄を、そのまま荷物にも使った。
「この紙だけ持てば、三国の書類はいりませんか」
マルテが聞いた。
「税と法律には、今までの書類が要ります。この一枚は、三枚をなくすためではなく、同じ荷物だと結ぶためです」
三国書類の一番上へ共通受渡札を置き、同じ封印番号で紐を通す。ラウムの窓口で名前が変わっても、束は一つのまま。
試しに、アーシュの香辛料箱で使った。
何か。乾燥香辛料、箱三つ。
誰から誰へ。東国の農園から、ラウムの香辛料屋へ。
期限。希望は明日、必要は三日後。
安全。雨を避け、強い匂いが移る品と離す。
ラウムの書記は、香辛料という名で登録する。東国の書記は、乾燥種として税を記録する。二つの書類は違うままでも、封印番号と三箱は一致した。
一度、共通札の封印番号を書き間違えた箱があった。数字の六と九を逆にしたため、別の荷物へ結ばれそうになる。
書記が元の二国書類と照らし、商会印が違うと気づいた。共通札だけを唯一の正解にせず、元の紙へ戻れる紐を残していたため直せた。
番号は手で写さず、荷車の封印へ押された型を粘土片に取り、その印を札へ付ける方法に替えた。文字を読めない人でも同じ形を比べられる。
粘土片が割れた時のため、番号の文字も残す。形と文字の二つが同じなら受け渡す。一つ違えば黄色い仮置き場へ置く。
次に麦の荷車で試す。
三国の書記が一枚を見ながら、自分の欄へ写す。以前は同じ袋を三度数えたが、今回は共通札の袋数を一度確認し、それぞれの制度へ写した。
「一枚の項目が少なすぎませんか」
東国の検問官が心配した。
彼の書類には、種麦の発芽率、土地の証明、農家の登録番号まである。
「それは東国で必要なので残してください。共通札へは、受け渡しに必要な結果だけ。検査済みか、未検査かを書きます」
細かな証明を捨てず、全員が見る一枚へ全部詰め込まない。
初日の終わり、五台の荷車が共通札で受け渡された。登録の重複はなく、元の三国書類も残っている。
処理時間も測った。
以前は一台平均二刻近く、三国の窓口を往復していた。試験の五台は、最初こそ説明に一刻半かかったが、五台目は一刻を少し超える程度だった。
速くするために確認を減らしたのではない。同じ封印番号を三度数える重複が減り、質問する場所が分かったためだった。
マルテの机へ来た質問も、十五件から六件になった。残り六件のうち四件は税と禁止品で各国検問官へ戻せた。彼女だけが答える質問は二件だった。
その夜、マルテは夜番へ仮置き場を任せ、初めて日付が変わる前に宿へ帰った。
唯一、五つ目の『安全』欄で、三国の担当者が言い争った。
ラウムの倉庫員は、食べても安全かを書く欄だと思った。
東国の御者は、壊れない運び方を書く欄だと思った。
南商国の商人は、期限に間に合うことを安全と呼んだ。
同じ『安全』という言葉の意味から、すでに三つに割れていた。




