第七話 『情報セキュリティはとても大切なことだ』
もし、見るからに怪しい人物が何の前触れもなく目の前に現れて、「自分は善人だ」「絶対に犯罪者なんかじゃない」と必死に説明してきたら……君はその人を信じるか?
さすがに、普通は信じないだろ?
それと同じで、このサイトは見た瞬間から犯罪の匂いがするんだ。
フィッシングサイト、ウイルスの拡散、個人情報の収集、不正アクセス。
そんな言葉が次々と俺の頭の中に浮かんできた。
それなのに玲は、何の警戒心もなくそこに個人情報を入力し、さらには自分の写真までアップロードしていたのだ。
「……はぁ、今度時間がある時に、ちゃんと情報セキュリティの常識について教えないとな。まあ、それは一旦置いておくとして……今でもあの人たちは玲に連絡してきているのか?」
「うん。あるよ。これ、二時間前にあの人たちから届いたメッセージ」
玲は俺の隣に座ると、スマホを俺に差し出した。
そして俺の肩に寄りかかりながら、一緒に画面に表示されたメッセージの内容を読み始めた。
内容は以下の通りだった。
『玲華議員様。
我が党では、あなた様のために政治討論番組への出演を手配いたしました。放送時間は明日の夜八時、ゴールデンタイムの予定です。放送局はTテレビとなります。
当日は同時刻頃に専用車を手配し、ご自宅までお迎えに上がります。なお、まだお若いことを考慮し、ご家族の方を一名同伴の上でお越しください。
この度、あなた様と共に活動できることを大変光栄に思っております。我が党は、社会改革の先駆者の一員として、あなた様を心より歓迎いたします。』
「……思った以上に面倒な状況になってきたな」
「なんで? テレビに出られるんだよ? すごいことじゃない! お父さんだって、きっと喜んでくれるよ。」
「お前、考え方がちょっと楽観的すぎるぞ」
「違うの?」
「……玲、ちゃんと聞けよ」
それから俺は、玲がこれから政治の世界に関わっていく上で必要になる知識として、政治討論番組、コメンテーター、政治家という三者の役割と関係性について、時間をかけて説明した。
「つまり、俺たちは番組の中で相手からの厳しい質問に答えなければならないってことだ。いわば、敵地で戦うようなものだな。」
「あんまりよく分からない。つまり、クイズ番組みたいなもの?」
「……まあ、玲がそういうふうに理解したいなら、それでもいい。だけど、賞金が出るわけでもないし、雰囲気だってそんなに和やかなものじゃない。それに、出される質問は全部政治に関するものだ。共演者の中には、俺たちに敵意を抱いている人間だって少なくない。お前が思っているより、ずっと複雑な場所なんだよ」
「ああ、そういうことなんだ」
玲は話を聞いた後、ただ頷きながらそう返事をした。
……どうにも、説明した後でもあまり理解していないような気がする。
俺は目の前にいる、どこか抜けていて呑気なこの子を眺めながら、心の中でこう呟いた。
『これが、我が国の未来の国会議員の姿なのか……』
正直、今でもこの状況が現実の出来事だとは思えない。
「それにしても、玲は少しも緊張しないのか?」
「だって、お兄ちゃんが一緒にいてくれるって言ってくれたもん。だから、なんとなく少し安心してる。えへへ」
俺の疑問に玲は正面から答えることはなかった。
その代わり、少し伸びをした後で俺の肩に頭を預け、甘えるようにそう言った。
……本当に、取り柄といえば可愛いことくらいしかない妹だ。まったく、こいつには敵わないな。
「甘えて褒めてもらおうとしても駄目だからな。明日までに覚えてもらわないといけないことは、まだたくさんあるんだ。だって、玲は政治について何も知らないだろ? ちゃんと覚悟しておけよ。」
「うぅ……どうかお手柔らかにお願いします……」
俺は肩に乗せた玲の小さな頭を優しく撫でた。
そして、玲に我が国の政治に関するあらゆる話を聞かせ始めた。




