第五十話 『妹が俺の友達に興味津々』
「えっと……どれくらい仲がいい、と言われても……」
瑤曦は困ったように視線を泳がせると、少しだけ頬を赤らめた。
「普通に仲のいい友達……だと思います」
「普通に?」
「う、うん……」
なぜそこで言葉に詰まるんだ。
俺たちは確かに、普通に仲のいい友達だよな……。
まさか、それ以上の――?
冷静になれ、俺……。
勝手に「今より一歩先に進めるかも」なんて勘違いして、せっかくの関係を台無しにするようなキモい男になるな。
玲はそんな瑤曦の反応を見逃さなかったらしい。手元の履歴書から顔を上げると、興味津々といった様子で身を乗り出した。
「じゃあ、普段は二人で何してるの?」
「普段……? 本の話をしたり……おすすめの本を教えてもらったり……」
「ああ、そういえばこの前、俺が勧めた本も読んでくれたよな」
「うん。すごく面白かったよ」
瑤曦が嬉しそうに微笑む。
自分が勧めた本を気に入ってもらえるというのは、やっぱり嬉しいものだ。
「ふーん……」
玲がまた意味ありげな声を出した。
「それだけ?」
「え?」
「他には? 二人きりで遊びに行ったこととかないの?」
「二人きりで……?」
瑤曦は少し頬を赤らめた。
「まだ、ないけど……」
「まだ?」
玲が即座に食いついた。
……そこ拾うのか。
「まだってことは、これから行く予定はあるの?」
「えっ!? そ、そういう意味じゃ……」
「玲、あんまり瑤曦を困らせるなよ」
「じゃあ、お兄ちゃんは?」
「俺?」
今度は俺のほうか。
玲は瑤曦から俺へと視線を移した。
「瑤曦さんと二人で遊びに行きたい?」
「そりゃ、誘われたら普通に行くけど」
「……へえ」
「なんだよ、その顔」
「べつに?」
絶対に何かある顔だった。
その一方で、瑤曦はというと、俺の言葉を聞いて少しだけ嬉しそうに頬を緩めていた。
「……じゃあ、今度誘ってもいい?」
「もちろん」
「そっか……えへへ」
「…………」
なぜか玲が無言になった。
「玲?」
「なに?」
「いや、なんでもない」
「……?」
今度はこっちが首を傾げる番だった。
玲はどこか不満そうだった。
面接そのものに何か引っかかるところでもあったのだろうか。
けれど、それとも少し違うような気がする。
……なんだ?
そう見えたのも、ほんの一瞬だった。
次に瞬きをしたときには、玲はもういつものように笑っていた。
気のせいだったか?
「お兄ちゃん、ちょっと外で待っててくれる?」
「俺?」
「うん。瑤曦さんと二人で話したいことがあるから」
「何を話すんだ?」
「女の子同士の話」
そう言われてしまえば、俺がここに残る理由もない。
「……分かったよ」
俺は素直に席を立ち、事務所を後にした。
こうして事務所を追い出された俺は、暇を持て余してスマホでSNSを眺めていた。
すると、今日の面接についての投稿がちらほら目に入る。
どうやら、先に帰った面接参加者たちがいろいろ書き込んでいるらしい。
特に目立ったのは、玲に変態を見るような冷たい目を向けられた連中の投稿だった。
普通なら多少は落ち込むところだと思うのだが、当人たちはむしろ大喜び。
『玲華ちゃんにゴミを見るような目で見てもらえた! 最高のご褒美!』
……ダメだこいつら。
やっぱり変態だった。
他には――。
『あの若い秘書、態度でかくね? 何様だよ』
『事務所ピンクすぎて草。どこのメルヘンランドだよw』
『序盤にめちゃくちゃデカい音してたけど、問題ある応募者を叱り飛ばして追い出したってマジ?』
『玲華議員尊い。今日から一生推します』
だいたい、こんな感じだった。
というか、俺のどこが偉そうだったんだ。
自分ではかなりテキパキと仕事をこなしていたつもりなんだけど……。
……ちょっと傷つく。
まあ、全員に満足してもらうなんて無理な話だけど。
こういう意見が出た以上は、俺も自分が周りにどう見えているのか、少し見直したほうがいいのかもしれない。
そんな独り言を漏らしながら、スマホでゲームの日課をこなして時間を潰す。
これまでの面接では、ほとんど俺が話を進めていた。
それなのに今回は、玲自ら俺を追い出してまで瑤曦と話し込んでいる。
……よほど瑤曦のことが気になるらしい。
二人は今日が初対面だ。そもそも、そこまで話すことがあるとも思えない。
……面接自体も、もうある程度は済んでいる。
まさか、玲がさらに細かいところまで掘り下げて、瑤曦を試しているのか?
いや、それもないか。
直感で人を見るタイプの玲が、そんな回りくどいことをするとも思えない。
二人に共通の話題なんてあっただろうか。
一人は俺の妹で……
もう一人は俺のクラスメイト……
つまり――俺?
……あっ!
まさかあいつら、二人でこっそり俺の悪口を言ってるんじゃないだろうな!?
ひどい!!
……いや、待て。
瑤曦はいい子だ。そんなことをするような子じゃない。
となると、悪いのは玲だな。
あの不肖の妹め。きっと瑤曦を巻き込んで、あることないこと俺の噂を吹き込んでいるに違いない。
ひどい!!




