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第三十五話 『求む、優秀な人材!』

「なるほど。こんなに多くの役割があるんだね」


「ああ。できることなら、それぞれの分野に精通した人材を集めたい。まずは玲が各SNSでスタッフ募集を告知する。できるだけ注目を集められる内容にして、幅広い業界から応募者を募るつもりだ。そして明後日、この事務所で面接を行う」


「分かった。じゃあ、私が投稿してみる」


 話がまとまると、玲はスマートフォンを取り出し、募集文を入力し始めた。

 それから三十分ほど経った頃、予想以上の反響があった。

 大量の返信が寄せられ、参加を希望する人まで次々と現れていた。


「お兄ちゃん、言われた通りいろんなSNSに募集を出しておいたよ。なんだかすごく反響がいいみたい。こんなに応募してくれる人がいるなら、きっと素敵なスタッフが見つかるよ」


「へえ、意外と仕事が早いじゃないか。どれ、俺にも見せてくれ」


 スマホを受け取り、玲の投稿を開いて内容を確認する。

 うん、悪くない。

 日時と場所もちゃんと書かれているし、俺たちが本気で人材を探していることや、一緒に働いてくれる仲間を求めていることもしっかり伝わる。


 ……ただし、一点だけ納得できないところがある。

 添付画像が、なぜか玲の水着写真なのだ。


「えー!これじゃダメだよ、またニュースに取り上げられて、他の政党に批判されちゃうよ!」


 それは、彼女が部屋にある全身鏡で撮った自撮り写真だった。水着姿で顔を手で隠し、カメラに向かってキスを飛ばしている写真で、ハートのエフェクトとキスマークのエフェクトが施され、「チュッ~みんな大好き」という文字が添えられていた。


「だって、お兄ちゃんが目立つ文章にしろって言ったじゃん! だから、とっておきの切り札を使ったんだよ! これぞ最強のファンサービス!」


「だからって、お前は議員だろ! アイドルじゃないんだぞ! ファンサービスなんてしなくていい!」


「でも、最初にアイドルっぽく売り出そうって言ったの、お兄ちゃんじゃん!」


「言ったけど、それはあくまでイメージ戦略だ! 仕事なんだから、そこはちゃんと考えろ!」


「私はちゃんとアイドルの仕事をしてるつもりだけど!」


「だから俺が言ってるのは議員としての仕事だ! 議員だよ! 玲、お前はただの議員なんだ!」


 そんな調子で、俺たちはその一枚の写真を巡って激しい議論を繰り広げることになった。

 言い争いが続く中、ふと『トイ・ストーリー』のウッディがバズ・ライトイヤーに言った台詞が頭をよぎった。

 それに似たような言葉を口にした

 ――お前はただの議員だ。


 俺たちが激しい口論を繰り広げていた、まさにそのとき。俺のスマホにSMSの通知が入った。

 どうやら、林主任からSMSが届いたようだ。

 ……なんで林主任、俺の電話番号知ってるんだ?


『急いでテレビをつけて、ニュース番組にして』


 何かあったらしい。

 俺はそのメッセージを玲にも見せる。さすがにこれを無視して喧嘩を続けるわけにもいかず、俺たちはすぐに口論をやめた。

 二人で隣り合ったビーズクッションに横になり、テレビをつける。

 そして、ニュース番組へとチャンネルを切り替えた。


「うわぁ……やっぱりテレビに出ちゃった。どうしよう、お兄ちゃん……」


「……だから俺に聞くなって」


 そして案の定。

 玲が投稿した募集文と、あの写真は、あっという間に昼のニュースで取り上げられてしまった。


「玲華議員、めちゃくちゃ可愛いです! 僕たちファンは、これからもずっと応援していきます!」


「水着姿も可愛すぎる……俺、もう恋しちゃったよ」


「俺はこの写真を神棚に飾って、毎日ありがたく拝むことにする!」


「なるほど。つまりこれは、革新党の新人議員がスタッフを募集するために投稿したものなんですね。水着姿ですか……まあ、発想としてはなかなか面白いと思いますが、政治家としては少々問題があるんじゃないでしょうか?」


「ほら、やっぱりそうでしょう。あなた方、革新党の政治家はいつも奇をてらったことばかりする。国民は政治を子供のお遊びにしてほしいわけではありません。公共の問題にはもっと真剣に向き合っていただきたい。私たち青草党は、野党として厳しく監視していきますよ」


「長年コメンテーターをやってきましたが、ここまでぶっ飛んだものを見るのは初めてですね。中学生が水着姿で腰を振りながら皆さんに媚びる。しかも、それが一人の議員なんですからね。いやあ、長生きはしてみるものです」


 俺たちはテレビに映し出された街頭インタビューや熱狂的なファンへの取材、さらにはコメンテーターたちによる討論をまとめた映像を、黙って眺めていた。


「まあ……前向きに捉えるなら、今回の件で俺たちは既存メディアによる無料の宣伝効果を得られたとも言える。決して悪いことばかりではない。ただ、その代わりにしばらくは世論からの批判や疑念に晒されることになるだろう。他党によるネガティブキャンペーンと今回の報道が結びつけば、玲華議員は政治家として相応しくないと考える人も出てくるかもしれない」


 ニュースを見終えたところで、俺は一度頭を冷やし、今の状況を冷静に整理してから玲に話した。


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