第二十七話 『条件に合う物件を探して』
「次の仕事は?」
「次は仕事じゃない。これから不動産業者に会いに行く」
「お兄ちゃん、家でも買うの? 前に不動産の投機取引はよくないって言ってたじゃん」
別に不動産投資をしに行くわけではない。
まあ、俺だって儲かる話には少しばかり興味がある。金になることなら、誰だってやってみたいと思うだろう。
しかし、議員という立場でそんなことをしていると知られたら、世間から批判を浴びる可能性が高い。
何しろ、住宅問題は俺たちの国ではすでに政治レベルの重要な内政問題になっている。何の準備もない今の俺が、わざわざそんな危険な地雷を踏みに行くつもりはない。
「違う違う。俺たちが探すのは事務所だ」
つまり、玲が議員として活動するための議員事務所を探しに行く。
こういう場所は、普通なら地元の有力者や後援者が用意してくれることもあるらしい。ただ、そうなると話は簡単ではない。その代わりに、どこかの派閥へ加入することを求められる可能性があるからだ。
派閥に入れば、人脈も資金も情報も手に入りやすくなる。
その反面、派閥同士の争いに巻き込まれれば、それだけ敵も増える。
今の俺たちは、そんな面倒な争いに首を突っ込むつもりはない。
やることは今までと変わらない。
まずは自分たちの勢力を育てる。
ゲームで言えば、今の俺の作戦は――ひたすらレベル上げ。
戦えるようになるまでは、なるべく無駄な戦闘を避ける。
要するに、「多く育てて、少なく戦う」だ。
だからこそ、俺はよく分からない勢力からの支援を受けるよりも、自分たちの活動費で事務所を借りるつもりだった。
無償で提供してもらえるものほど、後々面倒なものはない。
今は何も求められていなくても、将来になって「昔、事務所を提供してやっただろう」と恩を着せられ、一体どんな要求を突きつけられるか分かったものではない。
そんな借りを作るくらいなら、最初から自分たちの金で払っておいたほうが、よほど気が楽だ。
「おお、いいじゃん。カラフルで女の子っぽい感じはどう? せっかくなんだから、可愛いところにしようよ」
事務所を探しに行くと聞いた玲は、さっそく自分の希望を口にした。
「……安くて、便利で、コスパのいいところでいい」
玲の好みくらい、兄である俺には分かっている。
でもな。
ここはお前の部屋じゃない。
議員として外部の人間と会うための事務所を、そこら中ピンク色の少女趣味な空間にされてたまるか。
せめて仕事場らしい場所にしてほしい。
ちょっと想像してみてほしい。
政財界で何十年も揉まれてきたような中高年の大物たちと、俺たちが少女趣味全開の部屋で真顔になって政治の話をしている姿を。
しかも、お互いに一歩も引かず、腹の探り合いまでしている。
……絶対におかしい。
というか、そんな光景を見たら、俺なら政治の話より先に「なんでこの部屋なんだ」と突っ込む。
それに、金銭面でも少女趣味の内装にするメリットはない。
今のところ手持ちの資金には多少余裕があるし、使える予算もある。
でも、事務所を持てば人を雇う必要も出てくる。
人件費、備品、通信費、その他諸々――これから金がかかる場所なんて、いくらでも増えていくはずだ。
なら、削れるところは最初から削っておく。
少なくとも、事務所を可愛くするために余計な金を使う理由はない。
「いらっしゃいませ。今日はどのような物件をお探しでしょうか? えっと……ご両親はご一緒ではないんですか?」
「いません。俺たち二人で物件を探しに来ました。お金ならあります」
店に入った途端、担当者は明らかに戸惑った様子を見せた。
何しろ、未成年が二人だけで不動産屋にやって来たのだ。
そこで俺は、いかにも金ならいくらでもあると言わんばかりの態度を取ってみせる。
――俺たちは金持ちだ。金ならある。
……いや、もちろん冗談だ。
俺の頭の中なんて、今でも「ここはもう少し安くできないか」「こっちは削れないか」と、細かいところで節約のことばかり考えている庶民そのものだった。
俺が俺たち二人の身分や、こんな子供二人だけで不動産屋に来ている理由をどう説明したものかと悩んでいると、担当者が玲のことに気づいた。
「……あっ! どうりで見覚えがあると思った。こちら、最近話題の玲華議員ですよね? こんにちは! 実は私も息子もファンなんです。よかったら、息子にサインをいただけませんか?」
俺がそう言った直後、担当者は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、それから玲の顔をじっと見つめた。
どうやら、ようやく俺たちの正体に気づいたらしい。
次の瞬間には、すっかりテンションが上がった様子で挨拶をし、どこからともなく紙とペンを取り出して玲に差し出した。
「いいですよ。私も嬉しいです」
「それじゃあ……こちらに、あの決め台詞の『みんなの笑顔を守ります』って書いてもらえますか?」
「いいよー」
「ありがとうございます!」
サインを書き終えると、担当者は大喜びでそれを受け取り、何度も俺たちに礼を言った。
まさか玲の人気がここまでとは思わなかった。事務所を借りに来ただけなのに、まさかファンにまで出会うとは。




