第二十三話 『スリーサイズをSNSに載せるな』
「へえ」
「いや、ちょっと待て。反応それだけ?」
「今さら何にいちいち驚いても、もう意味ないでしょ」
「切り替えが早すぎないか?」
「……ここ数日で、だんだん慣れてきたっていうか?」
「まあ、それもそうか」
何日も立て続けに衝撃的な情報を叩き込まれていると、人間というのはどうやら少しずつ感覚が麻痺してくるらしい。
まあ、俺も例外ではなかった。
最初に妹が国会議員になったと知ったときは、あれだけ驚いたというのに。
それから数時間後には、林主任こそがこの国の実質的な指導者だったと知らされた。
それでも、最初ほどの衝撃はなかった。
……慣れって怖いな。
「それに、これはお兄ちゃんが私の秘書として真剣に考えてくれた方法なんでしょ?だったら、私もちゃんと本気でやらなきゃ」
「……いい答えだ」
玲の答えを聞いて、俺は少し嬉しくなった。
難題や困難に対して、前向きに立ち向かおうとするその姿勢は、アイドルというイメージにもよく合っている。
もしかすると、玲が以前テレビ番組で多くの人々から好意を持たれたのも、こういうところが理由の一つだったのかもしれない。
「お兄ちゃん。アイドルって、歌ったり踊ったりするんじゃないの? 私、そういうのあんまり得意じゃないよ」
「まあ……その辺は何とかなるだろ。まずはSNSから始めてみようか。お前も若者なんだし、インスタグ○ムとか使ってるだろ?Face○ookのファンページも作っておこう。あと、Twit○erとPlu○kもだな」
「うん、アカウントはあるよ。でも、ほとんど使ってない。普段使ってるアカウントをそのまま使うの?」
「新しく作ろう。個人用のアカウントと、政治家としてのイメージを発信する公的なアカウントは、分けておいたほうがいい」
そう言うと、玲はまずナプキンで、ピザを食べて油まみれになった指を丁寧に拭いた。
それからスマホを取り出し、俺が説明した通りにプロフィールの入力画面を開く。
「名前、年齢、最終学歴、職業、宗教、好きなもの、嫌いなもの、政治的な立場、身長、体重……スリーサイズ。とりあえず、これを入力すればいいんだよね?」
「そこまで細かく入力しなくてもいいよ」
「そうね、それに実際のスリーサイズも知らないし。そういえば、最近胸が大きくなってきたみたい」
少しだけ膨らんだ自分の胸を見つめながら、玲は感慨深げにつぶやいた。
俺には、特に目立った成長は感じられなかった。
……いや、どう見てもまだまだ子供じゃないか。相変わらず胸がない。
「入力が終わったら、俺に一度見せてくれ。不適切な内容がないか、俺がチェックする」
中学生がSNSで自分の細かな個人情報を公開するなんて、さすがに避けるべきだ。
必要以上に私生活を晒すのも問題がある。
玲の秘書として、そういったところまできちんと管理しておく必要があるだろう。
そのため、プロフィールを完成させたら、公開する前に俺が一度確認することにした。
「できたよ」
「ほら、見せてみろ」
スマホを受け取り、俺はプロフィールを一項目ずつ確認していく。
SNSによって多少の違いはあるものの、基本的なプロフィール欄なんて大体どこも似たようなものだ。
名前:李玲華
年齢:14歳
最終学歴:中学生
職業:革新党所属の国会議員
好きなもの:お菓子、可愛いもの
嫌いなもの:ピーマン、理不尽なお兄ちゃん
身長・体重・スリーサイズ:少女の秘密だよ♡
「まあ、こんなところでいいんじゃないか」
全部確認してみたが、特に問題はなかった。
「……お兄ちゃん、『理不尽なお兄ちゃんが嫌い』って見たら怒るかなって思ってた」
玲は少しおどおどしながら、それでもどこか嬉しそうに俺の顔を覗き込んでいる。
怒らせたくはない。
でも、ちょっとからかってみたい。
そんな気持ちがありありと伝わってくる。
……だったら、最初からそんなこと書かなきゃいいのに。
「いやいや、俺はとても理性的な人間だからな。そういうわけで、明日から俺たちの食事は全部ピーマンにしよう」
「どこが理性的なのよ! それ、どう考えても怒ってるじゃん! 言ってることとやってることが全然違うよ!」
まあ、口ではそう言ってみただけだ。
本気で怒っているわけじゃない。俺だってもう茹でただけのピーマンなんて食べたくない。
味がなさすぎる。これ以上こんな薄味の食事を続けたら、さすがに胃が反乱を起こしそうだ。
そういえば、思春期の女の子が父親を嫌うようになるのって、よくある話だよな。
服を一緒に洗うのすら嫌だ、なんて話も聞いたことがある。
「長兄は父親代わり」なんて言葉もあるし、うちの親父はしょっちゅう家を空けている。
だったら俺がそのうち、玲から嫌われる日が来てもおかしくない。
……いや、理屈では分かるんだけどさ。
実際に嫌われたら、普通に傷つくと思う。
だから兄としては、玲の反抗期には、もうちょっとだけ遠慮してもらいたい。




