第二十一話 『葛欣姉が全部答えてあげるね♡(下)』
「それで、あなたの計画の中で、俺たちにはどんな役割を期待していたんですか?」
俺は単刀直入に尋ねた。
考えてみれば当然だが、何の目的もなく俺たちを党へ誘ったはずがない。
彼女の立場からすれば、俺たちにやってほしいこと、そして俺たちだからこそ任せられる何かがあるはずだ。
お互いに腹の内を探り合うより、最初から率直に話したほうがいい。
俺は、玲と一緒にいる以上、相手の考えも分からないまま同じ側に立つことなんてできない。
もし彼女の答えが、俺たちの考えと相容れないものだったなら。
林主任は味方ではなく、俺たちにとっての敵になる可能性もある。
「……正直に言うと、全くないよ」
その答えに備えて身構えていた俺だったが、返ってきたのは、少し申し訳なさそうな表情と、両手を広げる彼女の姿だった。
「え? あ?」
「え? ないの?」
俺と玲は、揃って呆然とした表情を浮かべた。
「というより、最初から選挙に勝つつもりなんてなかったんだ。まさか本当に勝つとは、私自身も予想していなかったよ」
「……話が繋がりません。勝つと思っていなかったのなら、なぜ玲を立候補させたんですか?」
「私は、この国が長年積み重ねてきた政治的対立と腐敗によって、今まさに危機に瀕していると考えている。外交においても、看過できない問題は少なくない。国内にも、多くの制度的な欠陥が存在している。だからこそ、既存の政治とは異なる、新しい価値観を持った政治家が必要だった。『革新』という名の風を、この国に吹かせるためにね」
「そこで私たちは、ネット上から様々な意見を集めたんだ。そして、その条件に合う人物を探し、国民が求める存在を見つけ出そうとした。その結果、全ての条件に当てはまったのが玲華ちゃんだった。……まあ、どこからどう見ても無茶苦茶な話ではあるけどね。それでも私は、本気で思っているよ。玲華ちゃんとお兄ちゃんさんなら、この古い価値観に縛られた国に変化をもたらせるって」
まあ……破天荒という意味では間違いない。
これほど分かりやすい変革もないだろう。
……もっとも、それが良い方向への変革なのかどうかは、別の話だ。
「……じゃあ、これからどう動くかは、私たち自身で決めていいんですか?」
「うん。むしろ、私はそうしてほしいと思っているよ」
……ひとまず安心した。
玲を利用して、自分の思い通りに動かそうとしているわけではなさそうだ。
今の段階なら、林主任を俺たちの仲間として考えてもいいだろう。
「……あの、聞いてもいいですか?」
今まで俺の隣で大人しく話を聞いていた玲華ちゃんが、遠慮がちに声を上げた。
「もちろん。何でも聞いていいよ」
「私の資料って、どれくらいの人数の中から選ばれたんですか?」
「届いた資料はね、二千件以上あったんだ」
林主任は指を二本立て、得意満面に語った。
えええぇぇ? まさか、あんな怪しげな粗末なサイトだけで?
……いや、待て。
正直、俺はこの国の次世代が少し心配になってきた。
もしあれが悪意のあるサイトだったらどうするんだ。
個人情報が丸ごと漏れているんだぞ?しかも対象は未成年。危険すぎるだろ。
「お兄ちゃん、聞いた?私、二千人以上の中から選ばれたんだよ。だったら『この国で一番最強中学生』って名乗っても、あながち間違いじゃないよね」
「……その最強って、何の最強なんだよ」
「最強かどうかは知らないけど、可愛さなら確実に一番かな。ネットで『女の子の可愛さを見抜く自信がある』っていう人を百人集めて投票してもらったの。その結果、玲華ちゃんが一位だったんだよ」
いやいやいや! 『女の子を見る目に自信がある』って、どういう意味だよ!?
それってただ、ネット上から百人のロリコンを探してきただけじゃないのか?
F○I! 彼らを早急に取り締まってくれ!
「私って可愛いでしょ? 聞いた? お兄ちゃんは本当に幸運だよね。こんなに可愛い妹がいるんだから」
「どこが幸運なんだよ。むしろ面倒ごとばかりじゃないか。毎回お前が問題を起こすたびに、俺が尻拭いしてるだけじゃないか」
「……うわ。尻拭いなんで……あれセクハラだよ、お兄ちゃんさん」
「……お兄ちゃん、最低。」
「いや、意味が違うだろ!」
ちなみに、この一連のやり取りには、普段ずっと笑顔を崩さない総理のおじさんでさえ、珍しく眉をピクリと動かしていた。
その後の話し合いは、もはや会談と呼べるようなものではなかった。
二人の女の子が楽しそうに雑談し、その合間に俺を弄って遊ぶ。
そんな空気のまま、時間だけがどんどん過ぎていった。
「じゃあ、大体こんなところかな。お兄ちゃんさん、玲華ちゃん。これからもよろしくね」
「はい、林主任」
「またね、葛欣姉さん」
その呼び方と距離感を見るに、二人はすでにかなり仲良くなっているようだった。
まあ、仲良くできる相手が増えるのは悪いことではない。
中央党本部を出ると、帰りもケビンが車で送ってくれた。
林主任がわざわざ手配してくれたらしい。




