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第二十話 『葛欣姉が全部答えてあげるね♡(上)』

「うへへへ……この子、本当に可愛いね。資料を見た瞬間、この子だって決めたんだよ。実はね、私、ずっと弟や妹に憧れてたんだ。こんな可愛い子だったら、なおさら最高だよね」


 玲が戸惑っているのとは対照的に、林主任は席から立ち上がると、少しばかり残念なオタクっぽい笑い声を漏らしながら玲華ちゃんの顔を両手でむにむにと揉み、頬を軽くつまみ始めた。

 さらには顔まで近づけ、その頬に自分の顔をすり寄せる始末。

 まるで玲を人間ではなく、愛でるためのフィギュアか何かだと思っているようだった。


 これで、番組で初めて会ったときの格好いい印象は、完全に消滅した。

 それどころか、「資料を見た瞬間、この子だって決めた」って何なんだよ。

 完全に、これから戦わせるポケ○ンを選んでいる人の台詞じゃないか。


 そういえば、やっぱり玲の送った資料を採用すると決めたのも、彼女だったらしい。

 まあ、そうだよな。

 政界ではかなり若い彼女が、自分よりさらに若い子を抜擢したと考えれば、その話もまだ納得できる。

 何しろ、上の世代の価値観からすれば、こんなことは到底受け入れられないだろう。


 何しろ、俺たちの国には何事においても年功序列を重んじる企業文化が根強く残っている。

 その人にどれだけ能力があろうとなかろうと、こんな機会を与えて、若者をいきなり高い地位へ引き上げるなんてことは、まずあり得ない。


「どうしたの? お兄ちゃんさんもすりすりされたいの?さっきからずっと見てるよね」


「……いや、俺は遠慮します。それより、話を進めましょう」


 美人と頬を寄せ合う。

 言葉だけ聞けば、かなり魅力的な提案ではある。

 だが、問題は状況だ。

 隣には妹。そして、名目上とはいえこの国の大統領。

 ……こんな場所でできるわけがないだろ。


「うーん、意外だったな。お兄ちゃんさんがそんなに真面目な人だとは思わなかったよ。私じゃ魅力不足だった? それとも、年上のお姉さんタイプは好きじゃないの?」

 そう言いながら、林主任は少し残念そうに笑い。玲華ちゃんを解放する。

 そして、そのまま自分の席へ戻って腰を下ろした。


 隣を見ると、玲は明らかに「助かった」という顔をしていた。

 そして林主任の後ろに立つ大統領さんは、いつものように笑顔のまま。

 ……この人だけは、本当に考えていることが分からない。


「いや、普通に顔だけ見たら俺と同年代くらいにしか見えませんよ」

「……もう。この子ったら、本当にお世辞が上手なんだから。そんなに褒めても何も出ないよ?」


 俺としては本当に思ったことを言っただけだ。

 なのに、林主任は予想外にも頬を赤く染めた。

 ……いや、待ってほしい。

 一つの政党を裏で動かしている人物が、そんな反応をするのは反則じゃないだろうか。

 あまりにも可愛らしすぎて、こっちまで調子が狂ってしまう。

 年上のお姉さんっていうのも……結構いいかもしれない。

 なるほど……お姉さん系って、ちょっとエッチだね。こういうのも、悪くないな、

 フヒヒヒ……


「お兄ちゃん!」

「……おうっ!痛ぇ!何で殴るんだよ!」

「さっきの顔、すっごくいやらしかったよ」

「いやらしいって何なんだよ……」


 そのとき、玲が横から俺の脇腹に肘打ちを食らわせてきた。

 二人の身長差のせいで、その肘はちょうど俺の腰に直撃する。


「……それはさておき。玲華が議員として、そして俺がその秘書として、具体的に何をすればいいのか聞かせてもらえますか。それと、党として何か具体的な方針はあるんですか?」

 痛む腰を押さえながら、俺は話を本題へと戻した。


 渡されたのは、『政治家になるために、葛欣が教えてくれない秘密』というタイトルの指南書だった。

 ……たぶん、本人が作ったものだろう。


 というか、このタイトル。

 教えてくれない秘密なのか?

 それとも、実は教えてくれる秘密なのか?

 林主任という人は、本当にやることなすこと自由すぎる。


「この本があれば、二人とも自分たちの役割についてもっと分かりやすくなると思うよ。じゃあ、まずは簡単なところから説明しようか。名目上、この国の国会議員のお仕事は、法律を作ったり改正したりすること。それから、議会で各部門の責任者に今の政策や仕事ぶりについて質問することだね」


「名目上、ですか……。じゃあ、実際のところは?」


「実際はね、町内会長さんみたいなことをしている議員も多いんだ。選挙区のみんなの相談を聞いたり、困りごとを解決するために動いたり。政治家にとって票は本当に大事だから、日頃から国民に好きになってもらうことも仕事の一つなんだよ。あとは、テレビやネットみたいなメディアで自分の考えを発信して、国民と繋がる場所を作っていく人もいるね」


 つまり、こういうことか。

 この職務の本質は、本来なら法律を制定・改正し、政策の方向性を導いていくこと。

 しかし実際には、多くの人が町内会長のような役割を担ったり、メディアで発言するコメンテーターやインフルエンサーのような存在になったりしているわけだ。


 党のためなのか。

 自分の利益のためなのか。

 次の選挙に勝つためなのか。

 それとも、本当に民意を聞くためなのか。


 理由は人それぞれ。


 だからこそ、議員にも様々なタイプが存在する。

 ……ただ、一つだけ共通していることがある。

 選挙で勝つための票を得ることだ。

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