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第十八話 『ピーマンは栄養満点なんだよ』

 政論番組に出演したあの日から、五日が経った。

 学校を休ませてもらっている俺たちは、家で休息を取りながらも、テレビやネットを活用して、これから向き合うことになる政治について必死に勉強していた。


 唯一の問題といえば、買い物に行く時くらいだった。

 サングラスと帽子で顔を隠し、まるで何か悪いことでもしているかのようにパパラッチを避けながら外出する。

 それ以外は、意外にも平穏な日々が続いていた。


 そして、俺が愛してやまないゲームにも、ようやくじっくり時間を使えるようになった。

 総合的に見れば、この数日間の生活に不満らしい不満はなかった。


 ……いや、正確にはひとつだけ例外がある。

 それは、あの日玲に約束してしまったご褒美についてだ。

 ――ここからは回想だ。


「前に約束しただろ。番組での演説が上手くいったお祝いに、夕飯は玲が決めていいって。何が食べたい?」

「唐揚げ! ステーキ! アイス! ピザ! お寿司! パスタ!」

「……いや、一つだけ選べよ。そんなに食えるわけないだろ。というか、カロリー高すぎ。」

「お兄ちゃんが自分で決めていいって言ったんでしょ?だから私はこれ全部食べたいの!」

「……わがまま言うなよ。」

「嫌だ嫌だ嫌だ!私、別に約束破ってないでしょ?だから全部食べるの!」


 なんという強欲な発言だろう。

 俺の妹はきっと、三つの願いを叶えてくれるランプの精に出会ったとしても、「じゃあ願いをあと百個増やして」と平然と言い出すタイプに違いない。


「……頼むから、少しくらい妥協してくれ。」

「やだやだやだ! お兄ちゃんが自分で約束したんでしょ!」


 玲の強情さは相変わらずだった。

 ならば、神灯の精霊として……いや、兄として。

 俺は自らの無限の力を取り戻すことにした。

 ……もちろん、魔法の話じゃない。

 俺が言っているのは、玲に約束したご褒美のことだ。ご褒美の権利を剥奪する。


「分かった。じゃあ、しばらくの間、毎食は茹でピーマンに決定だな。」

「えっ、なんで!? 私がちゃんとやったからご褒美って話だったよね!? それなのに、嫌いなものを食べさせるのはおかしくない!?」

「自業自得だろ。玲がいつも調子に乗るからだ。」


 こうして、最近の夕食は俺自身ですら飽きるほど味気ない健康食ばかりになった。

 食べ物を無駄にするわけにもいかず、玲は毎回涙目になりながら、皿の上の料理をすべて平らげることになった。


 ――回想終了。


「お兄ちゃん、何してるの? テレビ相手に魂でも抜かれたみたいな顔してるけど。」

「何でもない。ちなみに今日は、どのピーマン料理をご希望で?」

「……うぅぅ……もうピーマン料理はやめてよ……。お願いだから、あいつらを私から遠ざけて……。最近なんて、夢の中で大量のピーマンに囲まれて、ピーマン王国の議員にされる夢まで見るんだよ……。」


 ピーマンという単語を聞いただけで、玲は頭を抱えて丸くなり、涙を流し始めた。

 どうやら本当に、ピーマンがトラウマになってしまったらしい。


 というか、ピーマン王国の議員って何その展開。

 意味が分からないくらいぶっ飛んでるんだけど。

 まるで風邪で熱でも出した時に見るような、支離滅裂な夢じゃないか。


「……正直、俺もそろそろ耐えられなくなってきた。今日はピザにしよう。」


 玲がこのままピーマンによる精神的ダメージを受け続けるのはさすがに問題だ。

 そう考えた俺は、今日だけは外食に頼ることにした。


「うわぁぁん……お兄ちゃん大好き!」


 ピーマンという地獄から解放されると分かった瞬間、玲は普段の遠慮など完全に吹き飛ばし、勢いよく俺に抱きついてきた。


「おい、離れろ! 汚い! 鼻水と涙で俺まで汚染されてるんだけど! 大人しく座れ! さもないとピーマン味のピザに変更する!」

「承知しました、兄上。」


 ピザまでピーマン味になる可能性を聞いた瞬間、玲は涙目になりながら慌てて俺の体から飛び退き、正座した。

 完全に自業自得ではあるのだが、そのあまりにも怯えた姿を見ていると、さすがに少し胸が痛む。


 ここまで来ると、もはや精神崩壊の一歩手前である。

 俺は同情の視線を向けながら、ピーマンによって心を折られかけている妹にティッシュを手渡した。


「そういえば、あとで出かけるぞ。」

 ここ数日のピーマンとナスによる精神攻撃から、ようやく立ち直りつつあった玲に、俺はそう告げた。


「出かける? どこに?」

「党本部だ。さっき電話があって呼ばれた。中央党本部に行って、うちのトップに会うらしい。……つまり、大統領に」


 実は、少し前のことだが、林主任から電話がかかってきた。

 林主任がどうやって俺たちの家の電話番号を手に入れたのかは知らない。

 まあ、おそらく玲がネットで何かに登録した際に入力したのだろう。今はそこを気にしても仕方ない。

 重要なのは、電話越しに「今日、党本部まで来てほしい」と言われたことだ。

 理由は、党首による正式な招集があるかららしい。


 ちなみに、その党首というのは現在の大統領でもある。

 テレビで何度も見たことがある人物だ。

 言い換えれば、俺たちはこれから、この国の最高責任者と初めて会うことになる。

 その意味の重大さは明白だった。


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