第十七話 『クラスメイトからの気遣い』
「……洛洛、もう寝てる?大丈夫?」
「まだ起きてるよ。どうしたの、曦ちゃん?」
「よかった……。今日学校に来てなかったから、ずっと気になってたの。玲華議員のこともあったし、記者さんたちに家の前で囲まれたりしてるんじゃないかなって、少し心配だった。」
俺のことを心配してくれる人がいた。
……なんだ、ちょっと嬉しいじゃないか。
これなら、一人で家の中で野垂れ死んでも、何日も放置されるような人生ではなさそうだ。
曦ちゃんは本当に、他人のことを大切にできる優しい女の子だ。
そんな彼女が俺なんかの友達でいてくれるというのは、正直言って分不相応なくらい贅沢なことだと思う。
「心配しなくても大丈夫。俺が学校に行けなくなる理由なんて、徹夜して寝坊するか、今日みたいに妹の仕事に付き合わされる時くらいだよ」
「でもさ、『学校へ向かう途中で子猫を助けてトラックに轢かれて、そのまま異世界転生』なんてラノベ展開、洛洛には絶対起きないって言える?」
「……いや、俺の足じゃ子猫を救えるほど速く動けないと思う。ていうか曦ちゃん、最近俺が貸したラノベに影響されすぎじゃない?」
「だって、洛洛がおすすめしてくれたものだもん。せっかくだから、一冊一冊大事に読ませてもらったよ。最近は、少しずつだけどラノベの楽しさも分かってきたかなって思う。」
我ながら情けないことに、曦ちゃんが勧めてくれた小説はまだ全て読み切れていない。
それなのに彼女は、俺が勧めたものを全部読んでくれた。
比べてしまうと、俺はなんとも酷い友達だ。
「曦ちゃんが楽しんでくれたなら、それだけで俺は嬉しいよ。あと、学校についてなんだけど、たぶんしばらくの間は通えなくなると思う。」
「そうなんだ。今日も玲の番組出演に付き添うために学校を休んだし、これからもきっと似たようなことは増えていくと思う。曦ちゃんも知ってるだろ?玲は昔から無茶ばかりするから。俺だって一応あいつの兄だから、守ってやらないといけない。だから決めたんだ。これからは玲の秘書として、あいつを支えることにした。」
「無茶するところなら、洛洛だって負けてないと思うよ。そういうところ、本当に兄妹そっくりだね。」
曦ちゃんの指摘は正しい。『中学生議員』という常識外れの存在と比べれば、『高校生秘書』なんて些細なものに思えてしまう。
だが、それは比較対象のほうが異常すぎるだけだ。
普通の価値観で考えれば、これも十分にありえない話である。
「へへ……悪かった。」
否定することもできず、俺はただ苦笑するしかなかった。
「気にしないで。休んでる間のノートは私が取っておくね。じゃあ、おやすみ。同い年の友達に言うのも変だけど、洛洛と玲の政治活動、応援してるよ。」
「ありがとう、曦ちゃん。おやすみ。」
「……もし何かあったり、話したいことができたら、いつでも連絡してね。」
曦ちゃんは、本当に人の気持ちを考えられる子だ。
俺が長期で学校を休むことについて、理由を深く聞くことも、余計な心配を口にすることもなかった。
ただ、彼女にできる形で静かに支えてくれていた。
しかも、いつか誰かと話したくなった時には、いつでも自分を頼っていいとまで言ってくれた。
……いや、本当に天使なのでは?
世の中に、こんなにできた女の子が存在していいものなのだろうか。
ただの友達という関係なのに、彼女はここまで俺のことを気遣ってくれる。
それだけでも十分なのに、容姿まで優れている。
どうしてこんなにも完璧な人がいるのだろう。
結婚するなら、こういう子がいいな。
違う!!こんな子を嫁にできないなら、俺は死なない!!
まあ、所詮はただの妄想だ。
そんな都合のいい話が、俺なんかに訪れるわけがない。
もしさっきの発言が本当に成立するなら……俺、これからアンデッドになるのでは?
ようやく玲の入浴時間が終わった。
ふわふわの寝間着に着替えた玲は、タオルで髪を拭きながら戻ってきて、当然のように次は俺の番だと伝えてくる。
「お兄ちゃん、風呂空いたよ。……ていうかさ、なんでそんなニヤニヤした顔でスマホ見てるの?もしかして、変なもの見てる?本当にスケベなんだから……」
「違うから!!男子高校生だって、エッチなもの以外を見ることくらいあるんだぞ。」
俺はそう弁明した。
……というか、俺はさっきスマホを見ながらニヤニヤしていたのか?
「じゃあさ、結局スマホで何見てたの?」
「クラスメイトの女の子と話してただけだよ。」
「はぁ……お兄ちゃんにそんな青春イベントが発生するわけないでしょ。変に取り繕わないで、素直にエッチなもの見てましたって言えばいいのに。私は温かい目で見守ってあげるから。」
まあ、俺自身も玲の疑いはもっともだと思っている。
俺みたいなオタクが、夜遅くに女の子と連絡を取り合っているなんて、確かに現実味のない話に聞こえる。
「違うって言いたかったけど……もういい。はいはい、そうですよ。お兄ちゃんはエッチなもの見てました。満足したか?」
「妹の前でそんなこと堂々と言えるなんて……。お兄ちゃん、本当にキモいね。最低だ!!」
言いたいことだけ言った玲は、最後に俺の肩へ軽い一撃を残していった。
そして何事もなかったかのように、自分の部屋へ帰って寝る。
……本当に自由な妹である。
この兄妹のドタバタ劇を書いていると、自分でも思わず笑ってしまうくらい楽しい。




