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第十三話 『年齢だけでは、人は成熟しない』

「与党のやり方が正しいとも、その根拠が十分だとも思いません。ですが、王さん。その賭け……まさか後になって撤回するつもりではありませんよね?最高のビルから飛び降りると言いましたが、あなたに本当にその覚悟があるのですか?」


 海党の鄧さんは、政策そのものについて賛成や反対を述べることはせず、まず王さんの賭けが本当に実行されるものなのか、その真偽を問いただした。


 そもそも、この二つの政党の関係は、まるで犬猿の仲と言ってもいい。

 相手側が政権を握っている時には、互いに全力で足を引っ張り合う。それが彼らのいつものやり方だった。

 今はどちらも野党という立場にいるとはいえ、その関係性が変わる理由にはならないらしい。

 結局のところ、彼らは今も変わらず、互いに噛み付き合うような真似を続けている。


「海党の人間はいつもそうです。何の根拠もなく、立場の異なる相手を批判する。反対すること自体が目的になっているようにしか見えません。その程度の姿勢だからこそ、前回の選挙であれほど大敗したのでしょうね」


「記憶が正しければ、あなた方の草党も似たようなものではありませんか?大選での壊滅的な敗北という点について言えば、決して他党に引けを取らないと思いますが」


「ふん……それでも、我が党の得票数はあなた方の海党を大きく上回っていますがね」


「『大きく上回る』ですか?申し訳ありません。私の国語の勉強不足でした。数千万人規模の選挙で、たった数千票の差を『大きい』と表現できるとは知りませんでしたよ。どうやら、国語だけではなく数学のほうも苦手でいらっしゃるようですね」


「はぁ? 何言ってんだ、あんた?」


「数学だけではなく、どうやら人の話を聞く力と国語力にも問題がおありのようですね」


 こうして、どんどん加熱していったはずの議論は、気付けばただの街角の喧嘩に成り下がっていた。

 国を動かす立場にいるはずの政治家たちは、二人とも「来いよ、相手になってやる。ぶっ飛ばしてやるからな」とでも言いたげな顔をしている。

 ……いや、本当に大人なのか疑いたくなる光景だった。


 なんというか。

 改めて思った。

 スーツを着て、ネクタイを締めているだけで、人間が立派になるわけではないらしい。

 少なくとも、目の前で子供みたいな喧嘩をしているこの人たちを見れば、それは明らかだった。


 ……本当に皮肉な話だ。

 この二つの政党が近年の選挙で苦戦を強いられるようになった理由は、おそらく何十年も続けてきたこの幼稚な争いそのものなのだから。

 大人の姿をした人間たちが、いつまでも子供のような喧嘩を続けてきた結果というわけだ。


 俺みたいな一般人は、確かに政治に詳しいわけでもなければ、賢いわけでもない。

 それでも、毎日のように繰り広げられる同じ罵り合いを、何十年も見せられ続ければ――流石に馬鹿ではいられない。


 両陣営の支持者たちも、さすがに気付かないわけにはいかなかったのだろう。

 掲げる主張こそ違っていても、権力や利益を守るためならば、結局は同じように醜い姿をさらし、同じような汚い手段に手を染めている。

 その本質は、どちらも大して変わらないのだと。



 政権側は、支配の拡大に奔走する。

 在野側は、批判と攻撃に奔走する。


 では、いったい誰が国民のために働く余裕を残しているというのだろう。

 誰が社会福祉や国の発展について真剣に考えることができるというのだろう。

 表向きには、政権は何度も入れ替わってきた。

 しかし、そのたびに変わったように見えても、結局その内側にあるものは、いつも同じように醜かった。


 考えてみれば、こうした腐敗した環境こそが、時代の変化を求める声を生み出したのかもしれない。

 政党としての利益だけを追求するのではなく、従来の政党とは異なる価値観を掲げた「革新党」が政権を担うことになった背景には、まさにこの状況があったのだろう。


「それでは、革新党広報主任の林さんにご意見を伺いたいと思います」


 司会者は、またしても両党による恒例の批判合戦が始まりそうになったことを感じ取り、素早く話題を変更した。

 同時に、番組のカメラも小玲の隣に座る女性へと向けられる。


 彼女は、政治家という立場で見るには少し若すぎる女性だった。

 見たところ、年齢は二十三歳前後といったところだろうか。

 整った顔立ちに、すらりと伸びた手足。そして、肩を越えるほど長い黒髪は、艶やかで柔らかく流れるように揺れている。

 もし目の前の名札がなければ、この人をモデルだと言われても、俺はきっと信じていただろう。


 しかし、そんな若い美女から感じられる雰囲気は、小玲のような初々しさとは違っていた。

 かといって、先ほど言い争っていた二人の男性のような荒々しさもない。

 彼女から漂ってくるのは、落ち着きと控えめな自信を感じさせる、どこか大人びた空気だった。


 ……これが、本当の意味での「大人」なのかもしれない。

 冷静さを失わず、自分の立場を理解し、感情ではなく言葉で向き合う。

 それに比べれば、先ほどまで子供のように罵り合っていた二人の中年政治家など、ただの道化師にしか見えなかった。

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