第九話 『情報収集、いざ番組へ』
「……ここから先は、俺も玲のためにできることを、もっと考えないとな」
何と言っても、番組の場で言葉を発するのは玲自身だ。俺が代わりに前へ出ることはできない。
だからこそ、俺にできるのは裏方として彼女を支えることだけ。今もこうして、今夜の番組で相対する相手について情報を集め、可能な限り分析を進めている。
俺はパソコンに向かい、この番組の常連出演者について情報を集め始めた。
まず最初に挙げるべきは、過激な発言で知られる周さんだ。
その言葉遣いはかなり強く、議論では一切引かないタイプの女性である。
彼女の特徴は、相手の発言を平然と遮り、時には場をかき乱すような強引な議論展開をすることだ。
中でも有名なのは、過去に過激な発言が問題となり、我が国の元大統領から訴えを起こされた一件である。
それ以外にも大小さまざまな騒動を引き起こしており、間違いなく今回の番組で警戒すべき、手強い相手の一人だ。
次に挙げるのは、海外の有名なファンタジー小説の翻訳を手掛けた経歴を持つ朱さんだ。
彼はかつて「オタク」という肩書きを前面に押し出し、そのサブカルチャーを利用することで自身の知名度を高め、政界へと進出した人物だ。
ここ数年は、毎日のように様々な政治討論番組へ顔を出しては持論を語り、「社会観察者」などという何とも曖昧な肩書きを掲げて活動している。
そして、メディアの場で何かと賭けを持ち出すことで有名な王さんだ。
その風貌は一度見たら忘れられないほど特徴的で、映画『チャイルド・プレイ』のチャッキーを彷彿とさせるような中年男性だ。
青草党を背景に持ち、かつて議員を務めた経歴のある彼が日頃から好んで行うのは、時事問題を斬りながら大衆の前で賭けを宣言することだ。
その賭けの内容は『海へ飛び込む』『バンジージャンプ』『頭を丸める』など、聞いているだけでも頭を抱えたくなるようなものばかりである。
正直なところ、時々この人が政治家なのか、それともお笑い番組の芸人なのか疑いたくなる。
ともあれ、独特すぎるスタイルと、次に何を言い出すのか分からない予測不能な言動。その二つの要素によって、彼は常に賛否や騒動の中心にいる人物だ。
「はぁ……政治評論の世界って、まともな奴は一体どれだけいるんだよ……」
俺はパソコンの画面と、ネットで集めた資料を眺めながら、そう呆れ気味に評価した。
少し有名な人物を何人か調べただけで、この業界における「普通の人間」の少なさが嫌でも理解できる。
なるほど、だからこそ瑤曦は以前「政治家というのは、変わっているほど人気が出るものだ」と言っていたのだろう。
こうして一通り目を通してみると、あの時の彼女の言葉も、あながち間違いではなかったのだと深く実感した。
ひょっとしたら玲は、何も知らずに飛び込んだこの世界で、案外すんなり馴染んでしまうのかもしれない。
考えてみれば、予測不能な行動や突拍子もない発想という分野に関して言えば、玲も決して負けてはいない。むしろ、その方面では相当な才能を発揮するタイプだ。
ともあれ、この時間で俺が徹底して行っていたのは、玲のための対策資料作りだった。
対戦相手となる出演者それぞれの立場、経歴、過去の騒動や問題点まで、可能な限り細かく書き出していく。
知己知彼、百戦危うからず。相手を知ることは、きっと玲の大きな支えになるはずだ。
それ以外の部分は、あとは彼女の本番での対応に任せるしかない。
俺は、能天気な人間にはそれなりの幸運があるものだと思っている。きっと神様も彼女を助けてくれるはずだ。
「……もうこんな時間か?」
我に返ると、時刻はすでに午後六時になっていた。そろそろ玲を起こしに行く時間だと思い、俺は彼女の部屋へ向かった。
そこで目にしたのは、相変わらず気持ちよさそうに眠り続ける玲の姿だった。
俺はさらに近づき、ベッドの傍まで行くと、彼女の肩を軽く揺すった。
「……んぅ……お兄ちゃん……?」
「起きる時間だぞ、玲」
「……んぅ……あと二分だけ……」
玲はもぞもぞと少しだけ寝返りを打ち、今にも目を覚ましそうになったかと思えば、そのまま再び夢の中へ戻っていった。
まあ、二分くらいなら構わない。少しくらい玲を寝かせておいてやるのも悪くないだろう。
そう考えた俺は、スマホの画面に表示された時刻を眺めながら、きっかり二分後――再び彼女の肩を優しく揺らした。
「……ふぁ……起きたよ、起きたってば……えっと、今何時だっけ?」
眠気の残る瞳をなんとか開き、玲はゆっくりと上半身を起こす。そして大きく伸びをした後、こちらを見ながら尋ねてきた。
「もう六時だぞ。ずいぶん気持ちよさそうに寝てたな」
「だって仕方ないじゃん。私みたいな年頃の子は、いっぱい寝てこそ大きくなるんだから」
「自分がまだ子供だって分かってるなら、議員なんかに立候補するな」
「……お兄ちゃんって、本当にうるさいんだから。私、先に歯を磨いて顔でも洗ってくるね」
俺のツッコミに対して、玲が残した評価は「うるさい」の一言だけだった。
その後、彼女はベッドから眠そうによろよろと起き上がり、ふらふらしながら俺の横を通り過ぎていった。




