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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

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第97話 残されたもの

エルム村を出て、半刻。

誰も、口を開かなかった。


足音だけが、乾いた道に響く。



最初に喋ったのは、ライラだった。


「……生き残りは?」


「近隣の農家に避難していた」

ガイウスが答える。


「村長に確認した。死者は出ていない」


「……間に合ったのね」

メイラが、小さく息を吐く。


「今回は」


その一言に、全員が沈黙した。


「今回は」——という言葉の重さを、

誰もが分かっていた。



道の脇に、朽ちた石碑があった。

王国の古い紋章が刻まれている。


ライラが足を止め、それを一瞥した。


「この辺、昔は栄えてたのかしらね」


「そうだな」

ガイウスが、前を向いたまま答える。


「帝国が来る前は」


「……そう」


ライラは、それ以上何も言わなかった。



しばらく歩いて、一行は小高い丘の上に出た。


眼下に、エルム村が見える。

煙は上がっていない。


家々は、そのままそこにある。


ただ——静かだった。


「……ガイウス」

セリスが、隣に立つ。


「あの人の最後の言葉」


「聞こえてた」


ガイウスは、答えない。


「『合理的ではないな』って」


一拍。


「あれ、どういう意味だったと思う?」



風が吹く。

草が、ざわりと揺れる。


ガイウスは、しばらく黙っていた。


「……分からない」


「皮肉かもしれない」


「あるいは——」


そこで止まる。


「あるいは?」

セリスが、促す。


「初めて、合理の外を見た、ということかもしれない」


静かな声だった。

断定ではない。


ただ——そう感じた、という言葉。



「……あいつは、ずっとそれだけで生きてきたんだろう」

ガイウスが、続ける。


「数値。効率。最適解」


「それ以外は、全部誤差だと思っていた」


「だから——俺も誤差だった」


「告発した時も」


「汚名を着せられた時も」


「ただの——計算のズレだった」



セリスは、何も言わなかった。


言える言葉が、なかった。


ただ——隣に立っていた。

それだけだった。



「……でも」

ガイウスが、ぽつりと言う。


「最後に笑ったな」


「うん」


「あれは、なんだったんだろうな」


「……私には分からない」

セリスは、正直に答えた。


「でも」


一拍。


「笑えたなら——何か、見えたんじゃないかな」


「計算の外側に」



ガイウスは、しばらくエルム村を見下ろしていた。


そして——


「……ああ」


短く、頷いた。


それだけだった。

それで——十分だった。



「行くぞ」

ガイウスが、踵を返す。


「次の目的地は?」

ライラが地図を広げる。


「ここから南東に二日。帝国との国境に近い中継点がある」


「ガウスの情報では、そこに——」


「魔導石の輸送ルートが通っている」

セリスが引き取る。


「ガウス先生の話では、そのルートを押さえれば」


「帝国の北部補給線に、楔を打ち込める」


「……大きく出たわね」

ライラが、苦笑する。


「できるの?」


「分からない」

セリスは、はっきりと答えた。


「でも——やってみないと分からない」



メイラが、小走りで追いついてくる。

手に、何か持っている。


「これ」


差し出したのは、小さな布袋だった。


「エルム村の村長さんから」


「受け取れない」

ガイウスが即答する。


「いいえ」

メイラは、袋を押し返した。


「受け取って、って言ってた」


「『命を守ってくれた人に、これくらいしかできないけど』って」



ガイウスの手が、止まる。


布袋の中身は、乾燥した木の実と、小さなパン。


村人が、ぎりぎりまで切り詰めた生活の中から出した、

それだけのもの。


「……」


ガイウスは、しばらく動かなかった。


そして——受け取った。


無言で。


だが、その手は——

微かに、震えていた。



「行こう」

セリスが言う。


「うん」

メイラが頷く。


「ええ」

ライラが地図をしまう。


ガイウスは、布袋を胸のポケットに入れた。


丁寧に。

大事に。



一行は、丘を下り始めた。


南東へ。

次の目的地へ。


それぞれの「計算の外側」を、

少しずつ抱えながら。



「……そういえば」

歩きながら、メイラが言う。


「ガイウスって、あの人のこと——許せた?」


唐突な問いだった。


ライラが「こら」という目を向ける。

だが、メイラは真剣な顔をしていた。


ガイウスは、少し間を置いた。


「……分からない」


「許す、という言葉が合うかどうかも分からない」


「でも」


一拍。


「終わった、とは思う」


「俺の中で」



メイラは、頷いた。


「そっか」


「それで——いいと思う」


「許すことと、終わることは、違うから」


ガイウスは、何も言わなかった。


だが——


歩く速度が、少しだけ緩んだ。


ずっと前のめりだった背中が。

初めて——普通の速度になった。



セリスは、その背中を見ながら思った。


(変わっていく)


人は、変わる。


ゆっくりと。

時に気づかないほど、少しずつ。


ガイウスが変わっていく。

メイラが変わっていく。

ライラも。


そして——


(私も)


右手を、見る。


今は何も光っていない。

ただの、少女の手。


だが——その内側には、確かに「何か」がある。


石室で触れたもの。

クラッセンの障壁を歪めたもの。


それが何なのか、まだ分からない。


でも。


(怖くは、ない)


不思議と。

今は——怖くない。



「セリス、何ぼーっとしてるの」

ライラが振り返る。


「遅れてるわよ」


「ごめん、今行く」


小走りで追いつく。


「何考えてたの?」


「……色々」


「曖昧ね」


「うん」



ライラは、小さく笑った。


「まあ——いいけど」


「ちゃんと前見て歩きなさい。この道、石が多いから」


「……分かった」



空が、少しずつ明るくなっていた。


雲の隙間から、青が見える。


薄く、でも確かな青。



風が、南から吹いた。


暖かくはない。

でも——北の風より、少しだけ柔らかかった。



一行は、進み続けた。


次の場所へ。

次の戦いへ。


まだ見えない何かに向かって。


それでも——


確かに、前へ。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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