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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

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第98話 仮面

エルム村から、三日が経っていた。


道は南へ。

帝都へ向かうにつれ、街道の人通りが増えていく。


商人の荷馬車。

帝国の巡回兵。

旅人の列。


「……帝国の匂いが濃くなってきたわね」

ライラが呟く。


「ここから先は——気をつけて」



宿場町の外れ。

夕暮れ前に、一行は足を止めた。


「確認する」

ガイウスが地図を広げる。


「帝都まで、あと半日」

「明日の朝、入ることになる」


セリスは、地図の上の「帝都」という文字を見つめた。


(また、あの街に)


前回とは——違う。


エルマはいない。

ガイウスがいる。


そして——レナが、いる。


「……セリス」

メイラが隣に立つ。


「考え込んでる顔してる」


「そう?」


「うん。眉間にしわ寄ってるもの」


セリスは、少しだけ苦笑した。


「……帝都のこと、考えてた」

「前回と同じようにはいかないから」



「そうだな」

ガイウスが地図をしまう。


「前回は——エルマ公爵夫人の庇護があった」

「今回は、ない」


「しかも」

ライラが続ける。


「帝都の警戒は、確実に上がっている」

「あの観測局の報告通りにね」


沈黙。


「入り方から、考える必要がある」

ガイウスが言う。


「セリス、お前の顔は——手配が出ているかもしれない」


「……そうね」


「エルデン王家の生き残りとして、帝国に認識されている可能性がある」


「前回は偽名だけで通った」

「だが今回は——それだけでは足りないかもしれない」



「これを使いなさい」


ライラが、懐から何かを取り出した。


薄い金属製の、小さな仮面。

目元だけを隠す、薄い作り。


「舞踏会用の装飾品みたいな形だけど」

「帝都では、ちょっとした流行なのよ。最近」


「……流行?」


「匿名で賭けを楽しむ文化が広まっていてね」

ライラが肩をすくめる。


「西区あたりでは、こういうのをつけた若い女性をよく見かける」


「だから——目立たない」

「顔を隠しながら、隠していないように見える」



セリスは、仮面を受け取った。


手のひらの上で、軽い。


「……これで、大丈夫?」


「完璧じゃない」

ライラが率直に答える。


「でも——あるとないとじゃ、全然違う」


「帝国兵が顔を確認しようとした時、一瞬だけ迷わせることができる」


「その一瞬が——逃げる時間になる」


セリスは、仮面を顔にあてた。

目元が、影になる。


「……どう?」


「悪くない」

ガイウスが、短く言う。


「雰囲気が変わる」


メイラが頷く。


「うん。なんか——別の人みたい」



セリスは、仮面をつけたまま、小さな水たまりを覗き込んだ。


揺れる水面に——見知らぬ顔が映っていた。


同じ金髪。

同じ碧眼。


でも——どこか違う。


(……守られている)


そう感じた。


顔を隠すことで。

仮面の下に、本当の自分を置いておけるような。


(セラ・エーレンベルクとも違う)


あの偽名は——名前だけだった。


でも、これは。


「……気に入った」

セリスが言う。


ライラが、小さく笑う。


「そう。じゃあ決まりね」



「ただし」

ガイウスが言う。


「帝都の中で——気を抜くな」


「前回会った人間に、うっかり声をかけるな」


「前回会った人間……」


セリスの胸に、何かが引っかかった。


(レナに——会うかもしれない)


あの笑顔が、頭をよぎる。


膝の上で泣かせてくれた夜。

孤児院の子供たちと笑っていた朝。

写真を撮った、あの日。


(会ったら——どうする)


「セリス?」

メイラが、顔を覗き込む。


「……なんでもない」


「また眉間にしわ」


「……ごめん」



夕飯は、宿場の食堂で取った。


質素な豆のスープと、固いパン。

でも——温かかった。


「明日から、また動き始める」

ガイウスが言う。


「全員——準備はいいか」


「いつでも」

ライラが即答する。


「大丈夫です」

メイラが頷く。


セリスは——仮面を、テーブルの上に置いた。


目元の形に、くり抜かれた革。

薄くて、軽い。


「……私も」


顔を上げる。


「大丈夫」



夜。


宿の小さな窓から——星が見えた。


セリスは、天井を見上げながら考えていた。


(帝都に入れば——また、何かが始まる)


クラッセンは終わった。

でも——終わっていないことの方が、ずっと多い。


神のこと。

魔導石のこと。

ガウスが持ち出した情報の意味。

アルベルトのこと。


そして——


(レナのこと)


会ったら——どうする。


仮面をしていれば、すぐにはバレないかもしれない。

でも。


(私は——平気でいられるか)


あの笑顔を見て。

あの声を聞いて。


何も言わずに——通り過ぎることが。



右手を、目の前にかざした。


何も光っていない。

ただの手。


(でも——この手で、守りたいものがある)


レナのことも。

メイラのことも。

ガイウスのことも。


(それは——変わらない)



仮面を、手に取る。


目元に、そっとあてる。


暗い天井が——少しだけ、遠くなった。


(行こう)


セリスは、目を閉じた。


明日——帝都に入る。

仮面をつけて。


本当の名前を、胸の中にしまって。


それでも——前へ。



星が、窓の外で静かに瞬いていた。


風はなかった。

穏やかな夜だった。


嵐の前の——静けさのように。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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