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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

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第94話 共有される禁忌

渓谷の夜は、石室の冷気を引きずったまま更けていった。


 


焚き火の爆ぜる音だけが、重苦しい沈黙を辛うじて繋ぎ止めている。


 


セリスは毛布にくるまりながら、自分の右手を見つめていた。


 


あの時、確かにそこには“別の何か”があった。


 


空間を歪め、触れる前にすべてを砕く力。


 


今はもう、赤黒い光も消え、ただの少女の手に戻っている。


 


だが――


 


(消えてない)


 


皮膚の内側。


神経の奥。


 


“握りつぶす感覚”だけが、焼き付いたように残っていた。


 


「……怖くないの?」


 


ぽつりと、言葉が零れる。


 


その問いは、自分に向けたものか、それとも仲間に向けたものか。


 


自分でも分からなかった。


 


焚き火の向こう側。


 


ガイウスが無言で火の番をしている。


 


少し離れた場所では、ライラとメイラが武器の手入れをしていた。


 


最初に反応したのは、ライラだった。


 


手を止め、ゆっくりと顔を上げる。


 


「怖いかって?」


 


一拍。


 


そして、肩をすくめる。


 


「当たり前じゃない」


 


即答だった。


 


「正直言って、あんたがあの時――私たちごと消し飛ばすんじゃないかって、本気で思ったわよ」


 


容赦のない言葉。


 


だが、その口元には笑みが浮かんでいた。


 


乾いた、自嘲気味の笑い。


 


「でもね」


 


ライラは続ける。


 


「その“化け物の力”がなきゃ、私たちは今ここにいない」


 


焚き火の火が、彼女の瞳に揺れる。


 


「……だから、感謝してるわよ」


 


「皮肉な話だけどね」


 


セリスの胸が、わずかに締め付けられる。


 


その時、メイラが静かに立ち上がり、ライラの隣に腰を下ろした。


 


「私は……少し違う」


 


穏やかな声。


 


だが、その奥には確かな揺れがあった。


 


「怖かったのは、“力”そのものじゃない」


 


メイラはセリスをまっすぐ見つめる。


 


「セリスが、遠くに行ってしまうこと」


 


「……」


 


「あなた、あの時――私たちの声、聞こえてなかったでしょう?」


 


図星だった。


 


何も、聞こえていなかった。


 


ただ、壊すことだけに集中していた。


 


それが“最適”だと、理解していたから。


 


「……うん」


 


小さく、頷く。


 


「分かってる」


 


その一言が、やけに重かった。


 


沈黙が落ちる。


 


焚き火が、ぱちりと音を立てた。


 


その沈黙を破ったのは、ガイウスだった。


 


「……俺は、あんたを責めない」


 


低い声。


 


薪をひとつ、火に投げ入れる。


 


火が一瞬、大きく揺れた。


 


「どんな力だろうと、それを握っているのがあんたなら――それはあんたの力だ」


 


「……でもな」


 


そこで言葉を切る。


 


ガイウスの視線が、わずかに鋭くなる。


 


「公爵は違う」


 


空気が、変わる。


 


「あいつはもう、“それ”を数えてる」


 


「戦力として」


 


セリスの背筋に、冷たいものが走った。


 


「俺たちの報告書……嘘は見抜かれてる」


 


「その上で、利用された」


 


「この力を“引き出すため”にな」


 


ガイウスの言葉は、静かだが確信に満ちていた。


 


「セリス」


 


名前を呼ばれる。


 


「お前が人間であるかどうかなんて、あいつにはどうでもいい」


 


「欲しいのは、“従う力”だ」


 


「……最強の魔剣としてのな」


 


セリスは、無意識にポーチへ手を伸ばした。


 


中には――共鳴石。


 


あの石室で手に入れたもの。


 


そして同時に、“証明”してしまったもの。


 


自分の在り方を。


 


「……それでも」


 


握る。


 


ぎゅっと、強く。


 


「利用されるだけじゃ、終わらない」


 


顔を上げる。


 


「この石も、この力も」


 


「使うのは、私」


 


「私が決める」


 


一瞬の静寂。


 


そして――


 


「その意気よ」


 


ライラが立ち上がり、軽く背伸びをした。


 


張り詰めていた空気が、わずかに緩む。


 


「じゃあ、湿っぽい話はここまでにしましょうか」


 


「メイラ、“二度目の報告書”は?」


 


現実的な話題へ引き戻す。


 


メイラは少し考え、苦笑した。


 


「……隠せないわね、今回は」


 


「だったら、逆に使う」


 


その目に、知性の光が宿る。


 


「共鳴石の回収に成功。防衛機構はセリスの力で突破」


 


「……ありのままを書く」


 


ライラが眉を上げる。


 


「いいの?」


 


「ええ」


 


メイラは頷いた。


 


「その方が、公爵は“安心する”」


 


「そして――油断する」


 


セリスは息を吐いた。


 


結局、自分たちは“毒”を飲み続けるしかない。


 


力を示せば、支配は深まる。


 


だが、その力なしでは前に進めない。


 


矛盾の中で、進むしかない。


 


「……そういえば」


 


不意に、ガイウスが口を開いた。


 


「次のルートだが」


 


「王国北部――国境近くの“エルム村”を通る」


 


その名前が出た瞬間。


 


空気が、変わった。


 


微かに――だが確実に。


 


殺気が滲む。


 


「……ガイウス?」


 


セリスが覗き込む。


 


彼の表情は、普段と変わらない。


 


だが、拳が――


 


強く握られていた。


 


「……あそこにはな」


 


低く、押し殺した声。


 


「忘れたくても、忘れられない男がいる」


 


「クラッセン」


 


その名が落ちる。


 


重く。


 


鈍く。


 


「かつて、俺の部隊に――非武装の民の虐殺を命じた男だ」


 


空気が凍る。


 


ライラの目が細くなる。


 


「……あの件か」


 


「ああ」


 


ガイウスは頷く。


 


「あいつは今、“合理化推進官”として動いているらしい」


 


「村を切り捨て、数字で命を選別する役だ」


 


焚き火が、大きく爆ぜた。


 


「……公爵の依頼とは関係ない」


 


「だが――」


 


拳に力がこもる。


 


「俺は、あいつだけは見逃せない」


 


セリスは、その横顔を見た。


 


過去に縛られた男。


 


だが、それでも前に進もうとしている。


 


(同じだ)


 


自分と。


 


「……行きましょう」


 


セリスは静かに言った。


 


「ガイウス」


 


彼が視線を向ける。


 


「あなたの戦いも、私たちの戦いよ」


 


短い沈黙。


 


そして――


 


「ああ」


 


ガイウスは、頷いた。


 


「“合理的じゃない結末”を、あいつに見せてやる」


 


焚き火の火が、静かに揺れる。


 


夜は、まだ深い。


 


だが――


 


確実に、次の戦いは近づいていた。


 


セリスは、北の空を見上げる。


 


重い雲。


 


押し潰すような気配。


 


嵐の前触れ。


 


その先にあるものを、彼女はまだ知らない。


 


だが――


 


(それでも、進む)


 


右手を、そっと握る。


 


人であることと、そうでないものの境界で。


 


それでも、自分であるために。


 


 


――夜が明ければ、北へ。


 


次なる戦場へ。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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