表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/163

第93話 試金石の祭壇

 報告書を送った翌々日の朝——それは届いた。


 宿の窓を叩いたのは、公爵家が秘匿する高速通信用の魔導鳥。その脚に括り付けられた細い筒には、ヴェストファーレン公の直筆による返信が収められていた。


「……早すぎる」


 メイラが、わずかに震える手で封を切る。


 セリス、ライラ、ガイウスの三人が、それを囲むように覗き込んだ。


 書状の内容は、驚くほど簡潔で——そして、温かかった。


『帝都での依頼完遂、大儀であった。不審な接触についても、お前の機転で大事に至らなかったようで何よりだ。お前の判断と報告を、私は全面的に信頼している』


「……気持ち悪いわね」


 ライラが腕を擦りながら吐き捨てる。


「私たちの“嘘”を、そのまま飲み込んだふりをしてる。……いいえ、飲み込んだからこそ、吐き出させようとしてるんだわ」


 セリスは黙って続きを読む。


 そして——本題は、その先にあった。


『報告にある通り、帝都の警戒が増しているならば、こちらも予定を早める必要がある。王国内北西の渓谷にある「静寂の石室」へ向かえ。そこには帝国の魔導回路を無力化するための古い「共鳴石」が眠っている』


 一拍。


『お前の報告通り、接触者が「単独」で「影響不明」であるならば、お前たちだけで十分に回収可能と判断した。期待しているぞ、セリス』


 空気が凍りつく。


「……ハメられたな」


 ガイウスが低く唸る。


「俺たちが“単独で、影響はない”と報告したことを、そのまま根拠にされた。もし違っていても——公爵は“お前の報告を信じただけだ”で通せる」


「つまり……」


 メイラが言葉を継ぐ。


「私たちの隠し事を、“安全の証明”に変えられたってことね」


 セリスは、書状を握りしめた。


「……行くしかない」


 視線を上げる。


「ここで拒めば、報告が嘘だったと認めることになる。……試されてるのよ」


「何を隠したのか、じゃない」


「“どこまで隠せるか”を」


 誰も反論しなかった。


 それが、答えだった。


――――――――――


 二日後。


 一行は霧に包まれた北西の渓谷、その最奥に立っていた。


 岩壁に穿たれた入口——「静寂の石室」。


 古い時代の魔導遺構。


 かつて、ルシファーの断片を封じる中継点として築かれた場所だと伝えられている。


 内部は異様なほど静かだった。


 足音すら、吸い込まれるように消える。


 そして——最奥。


 そこに、それはあった。


 高さ三メートルに及ぶ巨大な水晶柱。


 淡く脈動する光。


 あれが、「共鳴石」。


 だが——


「……あれ、見て」


 メイラが指差す。


 水晶柱の周囲に、無数の光点が浮かんでいた。


 よく見れば、それはすべて“針”。


 細く鋭い魔導針が、空中に静止し、すべて中心へと向けられている。


 微かなハミング音。


 嫌な予感しかしない。


「『拒絶の天秤』……」


 ライラの顔色が変わる。


「古い防衛機構よ。侵入者の魔力の“質”を測って、不純と判断したら——」


「排除、か」


 ガイウスが短く言う。


「ええ。魔法障壁をすり抜けて、肉体だけを正確に貫く。……今の術式じゃ、防げない」


 沈黙。


 セリスの心臓が、強く打つ。


(不純な力)


 それは——自分だ。


 ノイエ。


 内側にある、あの力。


 報告しなかったもの。


 見せたくなかったもの。


 だが。


「……私が行く」


「セリス!」


 ガイウスが制止する。


 だが、セリスは首を振った。


「公爵が見たいのは、これよ」


 一歩、前に出る。


「“私がどう切り抜けるか”」


 ライラが歯を食いしばる。


「普通の方法じゃ無理よ。分かってるでしょ」


「うん」


 セリスは、静かに答えた。


「だから——普通じゃない方法を使う」


 空気が張り詰める。


 そして。


 セリスが踏み出した、その瞬間。


 世界が変わった。


 浮遊していた魔導針が、一斉に赤く発光する。


『不純物、検知』


 無機質な声。


『排除を開始します』


 次の瞬間——


 数千の針が、雨のように降り注いだ。


(……来る)


 セリスは、目を閉じる。


(ノイエ)


 呼ぶ。


 応える声。


『——了解しました』


 冷たい、だが確かな響き。


 そして——


 空間が、歪む。


 セリスの周囲だけが、異質にねじ曲がる。


 降り注ぐ針が、その領域に触れた瞬間——


 音もなく、砕けた。


 貫くはずの機構が、機能しない。


 透過するはずの術式が、成立しない。


 まるで、存在そのものを否定されたかのように。


 針はすべて、粉塵となって消えた。


 光の粒が舞う中。


 セリスは、ただ歩く。


 何もないかのように。


 だが、その右手は——


 どす黒い赤の光を帯び、血管が浮き上がっていた。


 異質。


 明らかに、人ではない。


 それでも。


 止まらない。


 水晶柱の前へ。


 手を伸ばす。


「……取ったわよ、閣下」


 共鳴石に触れる。


 冷たい感触。


 確かな重み。


 それを、掴み取る。


――――――――――


 夜。


 石室から離れた野営地。


 焚き火が、小さく揺れている。


 セリスの右手は、まだ震えていた。


「……見たわね」


 ぽつりと、言う。


 三人を見る。


「これが、私が報告しなかった力」


 一拍。


「……化け物の力よ」


 沈黙。


 ライラは言葉を失い、ただ睨むように見つめている。


 メイラは、悲しげに目を伏せた。


 理解しているからこそ、何も言えない。


 そして——


 ガイウスだけが、動いた。


 セリスの隣に座り、その肩に手を置く。


 大きく、温かい手。


「……公爵は知ってたな」


 低い声。


「お前が何を持ってるか。何を使うか」


 一拍。


「だから、報告じゃなく——行動で証明させた」


 セリスは、共鳴石を握りしめる。


「これが目的じゃないのね」


「ああ」


 ガイウスは頷く。


「この石より、お前の方が価値がある」


 言い切る。


「少なくとも、あの男にとってはな」


 沈黙。


 火が、揺れる。


 セリスは空を見上げた。


 月が、やけに明るい。


(……それでも)


 胸の奥で、何かが揺れる。


(私は、選ぶ)


 人であることを。


 それとも——


 それ以外を。


 まだ、決まっていない。


 だが。


 決めるのは、自分だ。


 たとえ——その選択が、自分を人から遠ざけるとしても。


 世界は、皮肉なほど鮮明だった。


 それが呪いなのか、祝福なのか。


 セリスには、まだ分からない。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ