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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

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第92話 報告と乖離

夜。


最低限の灯りだけが、部屋を照らしている。


机の上には、一枚の紙。


セリスはペンを持ったまま、しばらく動かなかった。


(……選んだ)


何を伝え、何を伏せるか。


その線引きは、もう終わっている。


なら——書くだけだ。


「いくわよ」


メイラが隣に立つ。


ライラは窓際、ガイウスは扉の前。


いつもの配置。


だが空気は違う。


——これは戦いだ。


言葉で行う、もう一つの戦い。



「口述して」


メイラが言う。


セリスは、小さく頷いた。


そして、静かに語り始める。



「ヴェストファーレン公爵閣下」


「帝都における依頼について、以下の通り報告いたします」


ペンが走る。


迷いはない。


だが——選別されている。



「ヴァルターとの接触は予定通り完了」


「儀礼的会話に留まり、具体的な情報の取得には至らず」


「ただし、帝都内部における警戒レベルの上昇を確認」


「外部勢力に対する監視体制は、強化されていると推測される」



一瞬の間。


メイラが視線を上げる。


セリスは、わずかに頷いた。


——ここまでは事実。



「なお、帰路において不審な接触を受けた」


「対象は単独行動と推定」


「短時間の接触の後、離脱」


「現時点において、追跡の兆候は確認されていない」



ライラが小さく息を漏らす。


「ずいぶん丸めたわね」


ガイウスは何も言わない。


だが否定もしない。



メイラが確認する。


「対象の詳細は?」


セリスは、ほんの一瞬だけ沈黙した。


——アルベルト。


その名は、出さない。


「記載しない」


「現時点で組織的関連性は不明」


「単独の接触事案として扱う」


メイラは頷く。


そのまま書き進める。



そして——


セリスは、次の一文を選ぶ。


ここが、境界だ。



「なお、本接触は依頼における主要目的の達成には影響を与えていない」


「主要目的はすでに完了している」


一拍。


呼吸を整える。



「当該接触が今後に与える影響については、現時点では不明」



ペンが止まる。


それで——終わりだった。



静寂。


あまりにも、整いすぎた報告。



「……終わり?」


ライラが言う。


「終わり」


セリスは答える。


ガイウスが腕を組む。


「削ったな」


「必要なものはある」


セリスは言う。


「でも、全部じゃない」



メイラが紙を見つめる。


そこに書かれていないもの。


——観測局の評価

——アルベルトの判断

——セリスの力


すべてが、意図的に落とされている。



「……いいと思う」


静かに言う。


「報告としては成立してる」


「でも」


視線を上げる。


「見抜く人は、見抜くわよ」


セリスは頷いた。


「分かってる」



封をする。


蝋が溶け、固まる。


それで——形式上は終わりだ。



「出す」


ガイウスが封書を受け取る。


「いつもの経路で送る」


「お願い」


短い言葉。


扉が開き、閉まる。


足音が遠ざかっていく。



残された三人。


火が、小さく揺れる。



「……怖い?」


メイラが聞く。


セリスは、少し考えてから首を振った。


「怖くはない」


一拍。


「でも——嫌な感じはする」


ライラが笑う。


「それでいいのよ」


「何も感じない方が、よっぽど危ない」



セリスは目を閉じる。


(これでいい)


そう思う。


そう思うしかない。



だが——


どこかで、何かが噛み合っていない。


そんな感覚だけが、残った。



■場面転換


数日後。


ヴェストファーレン公爵領。


冬の空気が、石造りの城を包んでいる。


帝都とは異なる、静かな世界。



執務室。


厚い扉が閉ざされ、外の音はほとんど届かない。


机の上に、一通の封書。


封蝋には見慣れた印。



「帝都からか」


低い声。


すでに部屋には、公爵一人。



封が切られる。


紙が広げられる。


視線が走る。


上から下へ。


一度で——十分だった。



「……なるほど」


小さく呟く。



紙を指で軽く叩く。


乾いた音が、静寂に響く。



「ヴァルター接触——完了」


「帝都警戒——上昇」


「不審な接触——」


そこで止まる。


わずかに、口元が歪む。



「ここだな」



椅子に背を預ける。


天井を見上げる。



「単独」


「短時間」


「影響不明」



小さく笑う。



「そんな都合のいい接触があるか」



静かに断じる。



「依頼は完了している」


「それも事実だろう」


一拍。



「だが——」



紙に視線を戻す。



「これは“結果報告”ではない」



指で一行をなぞる。



「“削られた報告”だ」



沈黙。


思考が、静かに組み上がる。



「書かなかった、ではない」


「書けなかった、か」



一つずつ、言葉にする。



「対象の秘匿」


「評価の欠落」


「現象の不記載」



わずかに目を細める。



「つまり——」



「“何か”が起きている」



断定。


迷いはない。



「しかも——」


紙を軽く持ち上げる。



「それは、“言語化を避けたくなる類のもの”だ」



沈黙。


空気が変わる。



「面白い」


ぽつりと落ちる。



「選んだな」



誰に向けた言葉でもない。


だが確実に——


セリスに向けられている。



「隠した」


「つまり、握った」



ゆっくりと立ち上がる。


窓の外を見る。


白く冷えた空気。


遠くに広がる、自らの領地。



「判断としては、悪くない」



だが次の瞬間、声が冷える。



「だが——甘い」



机の引き出しを開く。


別の報告書。


別経路から届いた情報。


(※詳細はあえて描かない)



二つの紙を並べる。


わずかな“ズレ”。


だが、それで十分。



「どこまで隠せる?」



紙を重ねる。



「試そう」



蝋燭の火が揺れる。


影が、深く落ちる。



「セリス」



その名を、静かに口にする。



「お前は——どこまで選べる?」



静寂が、すべてを包み込んだ。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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