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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第四章「真実の欠片」

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第91話 選択の余白

街の喧騒が、やけに遠く感じた。


誰も口を開かないまま、路地を抜ける。


足音だけが、妙に響く。


「……離れるぞ」


ガイウスが低く言った。


異論は出ない。


——あの場に、これ以上いられなかった。



宿に戻る。


扉が閉まった瞬間、ようやく空気が緩んだ。


「……はぁ」


メイラが大きく息を吐く。


「何あれ」


「意味分かんないんだけど」


ライラが壁にもたれたまま言う。


「分かりたくもないわよ」


ガイウスは腕を組み、短く言った。


「あいつは“敵”じゃない」


「もっと厄介だ」


沈黙。


その意味は、全員が理解していた。


セリスは、自分の手を見る。


何もない。


だが——


(……あの時)


確かに、“何か”が起きた。


アルベルトの手を、拒絶した。


空間が、裂けた。


そして——傷を与えた。


(私が……?)


理解が追いつかない。


「……セリス」


メイラの声。


顔を上げる。


「大丈夫?」


短い問い。


セリスは、少し迷ってから答えた。


「……分からない」


「何が起きたのか」


「自分が何なのか」


沈黙。


否定はできない。


ガイウスが言う。


「一つだけ確実なのは」


視線が向く。


「あいつは、お前を“処理対象”として見た」


言葉が、重く落ちる。


処理対象。


人ではない。


選別されるもの。


「……うん」


セリスは小さく頷いた。


「利用か、排除か、って話ね」


ライラが続ける。


「どっちにしてもロクでもない」


「……でも」


セリスは首を振る。


「それを決めるのは、あっちじゃない」


一拍。


「……はずだった」


最後が、少し弱くなる。


メイラが静かに問う。


「揺らいでる?」


セリスは、すぐには答えられない。


観測局。


アルベルト。


どちらも、自分を“分類”した。


神か。


人間か。


悪魔か。


そのどれでもない“何か”。


「……選べるのかな」


ぽつりと落ちる。


ガイウスが即答する。


「選べる」


短く、断定。


「選べなきゃ、お前はもう終わってる」


荒いが、まっすぐな言葉。


セリスは、少しだけ息を吐いた。


「……終わってない、か」


「少なくとも、あいつはそう判断した」


ライラが言う。


「だから“保留”なんでしょ」


その一言で、現実が戻る。


保留。


つまり——


まだ“決まっていない”。



「……報告」


セリスが口にする。


全員の視線が向く。


「公爵に」


ヴェストファーレン公。


今回の任務の起点。


皇太子との接触も、その命令だった。


「……そうね」


メイラが頷く。


「本来はそれが最優先」


「問題は——中身ね」


沈黙。


セリスは、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「……全部、話す必要はある?」


ライラが即答する。


「ないわね」


「むしろ危ない」


ガイウスも頷く。


「内容次第じゃ、お前の扱いが変わる」


その一言で、空気が締まる。


セリスは確認するように言う。


「……例えば?」


メイラが整理するように答えた。


「まず一つ」


指を立てる。


「観測局の評価」


「“神・人間・悪魔の境界にいる”ってやつ」


一拍。


「これをそのまま出したら——」


「あなたは“人間”じゃなくなる」


言葉は静かだったが、意味は重い。


セリスの指先がわずかに強張る。


「……二つ目」


メイラが続ける。


「アルベルトの判断」


「“価値がある”って評価されたこと」


「保留されたこと」


「完成しろって言われたこと」


ライラが肩をすくめる。


「これ出したら、向こうも同じ判断するわよ」


「利用するか、管理するか」


ガイウスが短く言う。


「どっちにしても自由はない」


沈黙。


「……三つ目」


メイラが最後に言う。


「あなたの力」


「さっきの、あれ」


少しだけ言葉を選ぶ。


「空間を切ったような現象」


「アルベルトに傷をつけたこと」


一拍。


「これが一番危険」


セリスの呼吸が、わずかに乱れる。


自覚があるからこそ。


「制御できてない」


「説明もできない」


「再現もできない」


メイラははっきりと言った。


「そんなもの、報告したらどうなると思う?」


答えは、誰も口にしなかった。


だが、分かる。


——管理されるか、排除されるか。


そのどちらかだ。



長い沈黙。


セリスは、自分の手を見る。


(……これ)


まだ、何なのか分からない。


でも。


(渡したくない)


理由は説明できない。


けれど、はっきりと思う。


「……送る」


顔を上げる。


全員を見る。


「報告はする」


メイラが問う。


「全部?」


セリスは首を振る。


「違う」


はっきりと言う。


「選ぶ」


一拍。


「皇太子との接触は報告する」


「帝都の警戒も」


「でも——」


息を整える。


「観測局の評価はぼかす」


「アルベルトの判断も出さない」


「私の力は——書かない」


沈黙。


その決断は、明確だった。


ライラが小さく笑う。


「いいじゃない」


ガイウスも頷く。


「筋は通ってる」


メイラは少しだけ考えてから言った。


「……分かった」


「文面はこっちで整える」


「曖昧にする部分は調整する」


セリスは頷く。


「お願い」



「送るタイミングは?」


ガイウスが問う。


セリスは即答した。


「今夜」


「帝都を離れたことも含めて、すぐに送る」


判断は早い。


迷いは、もうない。



火が、小さく揺れる。


セリスはその光を見つめる。


(選んだ)


何を見せて、何を隠すか。


誰に委ねて、どこまで握るか。


それを、自分で決めた。


遠くで、かすかに鐘の音が鳴る。


帝都の方向からだ。


そのどこかに、あの男はいる。


(……次に会う時)


アルベルトの言葉がよぎる。


「完成していろ」


セリスは、ゆっくりと目を閉じる。


そして——小さく呟いた。


「それも、私が決める」

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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