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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

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第81話 脱出

 夜。


 ノックの音が——やけに大きく響いた。


「……誰?」


「私だ」


 その一言で、胸が跳ねる。


 扉を開ける。


「……殿下」


 ヴァルターは、一人だった。


 誰もいない。


 その事実が——なぜか、特別に思えた。


「少し、いいか」


「……はい」


 廊下へ出る。


 並んで歩く。


 触れそうで、触れない距離。


 窓際に立つ。


 夜の帝都が、静かに瞬いていた。


「セラという人物と話した」


「……はい」


「帝国の外を知った」


 短い沈黙。


「私は——動く」


 やはり、そう来る。


「帝国を変える」


 その声は、静かで。


 けれど——揺るがない。


「……危険です」


「分かっている」


 分かっていて、それでも進む人だ。


 だから——


 怖い。


「……殿下」


「レナさん」


 名前を呼ばれる。


 それだけで、心が近づく。


「何があっても——生き延びてくれ」


「……殿下こそ」


「私は大丈夫だ」


「……そうは思えません」


 思ったことが、そのまま口に出る。


 止められない。


 ヴァルターが、わずかに笑う。


「心配するな」


「……できません」


 沈黙。


 夜風が、二人の間をすり抜ける。


 言葉にできないものだけが、残る。


「……殿下」


「なんだ」


「一つだけ——」


「どうぞ」


 引き返せない一歩を、踏み出す。


「帝国が変わったら、とおっしゃっていました」


「……ああ」


「その時——何を、言うつもりですか」


 止まる。


 空気が、張り詰める。


「……それを聞くか」


「……はい」


「言ったら——逃げるかもしれないぞ」


「逃げません」


 即答。


 それ以外、ありえなかった。


「本当に?」


「……本当に」


 視線が絡む。


 逃げ場はない。


 そして——


「帝国が変わったら」


「はい」


「レナさんに——そばにいてほしい」


 その一言で。


 世界が、変わる。


「……っ」


 息が、止まる。


 胸が、痛いほどに熱い。


「それだけだ」


 優しい逃げ道。


 けれど——それが逆に、残酷だった。


「返事は——その時でいい」


「……でも」


「レナさん」


「……はい」


「待っていてくれるか」


 選ばれてしまった。


 この人に。


 この未来に。


 目を閉じる。


 一瞬。


 けれど——十分だった。


 目を開ける。


「……はい」


 小さく。


 確かに。


「……待ちます」


 その言葉は——約束になった。


 ヴァルターが、静かに息を吐く。


「……ありがとう」


 少しだけ、安堵した顔。


 その表情を——焼き付ける。


「おやすみ」


「……おやすみなさい」


 彼は、去っていく。


 振り返らない。


 その背中が遠ざかる。


 見えなくなっても——動けなかった。


(……待つ)


(この人を)


(この未来を)


 胸に手を当てる。


 鼓動が、痛いほど速い。


 ——


 翌朝。


 ノック。


「……どうぞ」


 扉が開く。


「……おはようございます」


「おはよう」


 セリスだった。


 その姿を見た瞬間——


 なぜか、胸がざわつく。


「……少し、話せますか」


「どうぞ」


 入ってくる。


 静かに。


 そして——


「……お世話になりました」


「……え?」


「今日、帝都を出ます」


 その一言で。


 すべてが、遠ざかる音がした。


「……そうか」


 昨夜とは違う種類の、痛み。


「……急ね」


「……すみません」


「謝らなくていい」


 立ち上がる。


 引き止めない。


 引き止められない。


「……危ないことをするの?」


「……少し」


「そう」


 それ以上は聞かない。


 聞けば——行かせたくなくなるから。


「……無事でいなさい」


「……はい」


「約束して」


「……約束します」


「帰ってくる場所が——ここにあるから」


 その言葉は、セリスに向けて。


 でも同時に——


 自分自身への誓いだった。


「……ありがとうございます」


「また礼を言う」


「言いたいから言います」


「知ってる」


 二人で、少しだけ笑う。


 それが——最後になるかもしれないのに。


 ——


 セリスは去る。


 何も言わずに。


 何も残さずに。


 ただ一つ——手紙を除いて。


 ——


 屋敷の外。


「……行きましょう」


「はい」


「……セリスさん、大丈夫ですか」


「大丈夫」


「……泣きそうな顔してます」


「泣いてない」


 間。


「……泣いてない」


「……はい」


 三人は歩き出す。


 朝の光が、やけに眩しい。


(……レナさん)


 振り返る。


 一度だけ。


 窓に——水色の髪。


 確かに、見えた。


(……見てる)


 それだけで。


 足が、止まりそうになる。


(……でも)


 前を見る。


(戻れない)


(戻らない)


 拳を握る。


(全部終わったら——)


(必ず)


 その言葉は、誰にも聞こえない。


 でも——確かにあった。


 ——


 レナは、窓際に立っていた。


 遠ざかる背中。


 二度と戻らないかもしれない背中。


 そして——昨夜の言葉。


(……待つ)


 誰を?


 どちらを?


 分からない。


 それでも——


(待つ)


 帝国が変わる日。


 あの人が戻る日。


 そして——


(もう一度、会う日)


 理由は、いらない。


 約束も、いらない。


 それでも——


 胸の奥で、確かに響いている。


 再会の予感だけが。


 消えずに、残っていた。

いつも応援ありがとうございます。

セリスの選ぶ「非合理な正しさ」と、それによって少しずつ変わり始める魔剣の関係性。書いていて私自身も、意志の力が世界にどう抗えるのかを考えさせられます。

実は、この『魔剣』とは正反対の「超合理的・現実的」な視点で歴史を再構築する物語も並行して執筆しています。


『室町ホールディングス再興録 〜過労死コンサル、足利義昭に転生す〜』

https://ncode.syosetu.com/n6067lz/


こちらは『魔剣』とは打って変わって、現代のビジネス知識で戦国の世を「ホワイト化」しようと奮闘するコメディ寄りの戦記です。

「意志」で戦うセリスと、「知略とシステム」で戦う義昭。

アプローチは真逆ですが、「理不尽な運命をどう塗り替えるか」という根底のテーマは共通しています。

もしよろしければ、息抜きがてら覗いていただけると嬉しいです。あちらの信長も、なかなかに「非合理」な男ですよ。

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【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
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