表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第三章「崩れていくもの」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/167

第76話 非番

その日は——珍しく、晴れていた。



レナが言う。


「たまには、休みなさい」


「レナさんは?」


「私も非番」


「……一緒に?」


「どこかへ行きましょう」


 


レナが、外套を手に取る。


「帝都に来て、まだ西区を歩いてないでしょ」


「……はい」


「案内してあげる」


「……いいんですか」


「いいに決まってるでしょ」


「……ありがとうございます」


「また礼を言う」


「言いたいから言います」


 


レナが「知ってる」と言う。


 


——


 


西区は、他の区より少し古かった。


石畳が、でこぼこしている。


露店が、雑然と並んでいる。


路地が、複雑に入り組んでいる。


 


「……面白い場所ですね」


「でしょ」


 


レナが、前を向いたまま言う。


「帝都の中枢より——ずっと、生きてる感じがするから」


 


二人で歩く。


 


レナが「あれ、美味しいわよ」と言う。


串焼きの露店を指さす。


 


「……買うんですか」


「買う」


 


レナが、二本買う。


一本を、セリスに渡す。


 


「はい」


「……ありがとうございます」


「また礼を言う」


「言いたいから言います」


「知ってる」


 


二人で、歩きながら食べる。


 


「……美味しいですね」


「でしょ」


 


レナが、満足そうに言う。


 


——


 


しばらく歩いた先に——古い建物があった。


円形の、石造りの建物。


 


「……あれは?」


「闘技場よ」


「闘技場?」


 


「民間の試合や賭け事に使われるの」


 


レナが、建物を見る。


 


「夜は閉まってるけど——昼間は試合をしていることもある」


「……入れますか」


「今日は——閉まってるわね」


 


セリスが「そうですか」と言う。


 


(……西区の闘技場)


(夜は閉まっている)


 


頭の片隅に——残った。


 


——


 


昼頃。


 


人波の中で——何かが動いた。


 


男が、走っている。


手に——女性の鞄を持っていた。


 


「——待て! 泥棒!」


 


悲鳴が上がる。


 


レナが——動いた。


走る。


迷わず。


 


セリスも後を追う。


 


路地に入る。


 


男が、袋小路に追い詰められていた。


 


「——っ」


 


男が、振り返る。


 


「うるせえ——!」


 


男が、殴りかかる。


 


レナが、男の腕を取る。


一瞬。


 


男が、地面に倒れていた。


 


「……」


「素手でも——できるのよ」


 


レナが、鞄を拾う。


 


被害者の女性に返す。


 


「……ありがとうございます」


「いいえ」


 


——


 


事が済んで。


 


セリスが「……すごいですね」と言う。


 


「何が?」


「剣がなくても——」


「体が——武器だから」


 


レナが当然のように言う。


 


セリスが「……レナさんって」と言う。


「なに?」


 


「強いですね。本当に」


「……まあ、色々やってきたから」


「どんなことを?」


 


「……色々よ」


 


それ以上は言わない。


 


「仕事は秘密って言ったでしょ」


「……はい」


「それだけよ」


 


セリスは、それ以上は聞かなかった。


 


(……この人は)


(何かを、背負っている)


(でも——話してくれた時に、聞けばいい)


 


「……強くなろうとしてきた人の強さだと思います」


 


セリスが言う。


 


レナが——少し、止まる。


 


「……なんで、そう思うの」


「目を見れば——分かります」


「……エルマ様みたいなことを言う」


「エルマさんに教えてもらいました」


 


レナが「……あの方は」と言う。


「賢い方だったのね」


 


「はい」


 


——


 


午後。


 


川沿いの道に出た。


水の音が聞こえる。


 


「……休みましょう」


 


レナが言う。


 


二人で、川岸に腰を下ろす。


 


水面が、光に揺れていた。


 


「……きれいですね」


「そうね」


 


しばらく、何も言わない時間が続く。


 


水の音だけが聞こえる。


 


気まずくはなかった。


 


「……セラ」


「はい」


 


「昨日——泣いたでしょ」


「……はい」


 


「すっきりした?」


「……はい」


「少し」


 


「少しか」


 


「……でも、だいぶ楽になりました」


「そう」


 


レナが、水面を見る。


 


「……私も、昔——よく泣いてたから」


「……レナさんが?」


 


「村がなくなって。家族がいなくなって」


 


静かな声だった。


 


「……拾っていただいた時も」


「……そうだったんですか」


 


「泣いてばかりだった。最初は」


「……今は」


 


「今は——泣かなくなったわね」


「……どうして」


 


レナが「守りたいものができたから」と言う。


 


「……孤児院の子たちですか」


「それもある」


「……他に?」


 


レナが、少し間を置く。


 


「……色々よ」


 


それ以上は言わない。


 


でも——耳が、少し赤かった。


 


セリスは、気づいていた。


 


でも、何も言わなかった。


 


——


 


夕方に近い頃。


 


屋敷への帰り道に入った路地で——


声が聞こえた。


 


「——出てこい!」


「嫌だ! 出るもんか!」


 


男の怒鳴り声。


子供の泣き声。


 


「……」


 


レナが立ち止まる。


 


「ついてきて」


「はい」


 


路地に入る。


 


廃屋の前に、男が立っていた。


 


扉を蹴っている。


 


中に——子供が二人、隠れているようだった。


 


「——やめなさい」


 


レナが、声をかける。


 


男が振り返る。


 


「……誰だ」


「通りすがりよ」


 


「関係ないだろ! この悪ガキどもが——!」


 


「何をしたの?」


 


「俺の商品を壊しやがって!」


 


「弁償すればいいわね」


 


「そういう問題じゃ——」


 


「いくら?」


 


男が、金額を言う。


 


レナが、財布を取り出す。


 


「……払うんですか」


セリスが小声で言う。


 


「早く終わらせる方が早いから」


 


レナが当然のように言う。


 


「でも——」


「いいの」


 


お金を受け取った男が、舌打ちをして去っていく。


 


——


 


レナが、扉の前に立つ。


 


「……もう大丈夫よ」


「出てきていい」


 


しばらく、沈黙。


 


それから——


 


扉が、ゆっくりと開いた。


 


男の子が二人、おそるおそる出てくる。


 


十歳くらいだろうか。


 


目が赤かった。


泣いていたのだろう。


 


「……ごめんなさい」


 


一人が言う。


 


「わざとじゃなかったんです」


 


「知ってる」


 


レナが、しゃがむ。


目線を合わせる。


 


「怪我は?」


「……ないです」


 


「そう。よかった」


 


「……あの、お金は」


「いい」


 


「でも——」


「いいって言ったでしょ」


 


レナが、立ち上がる。


 


「家は?」


「……近くです」


 


「送っていく」


「……え?」


 


「暗くなる前に帰りなさい」


 


有無を言わせない口調だった。


 


でも——怖くない。


 


——


 


子供たちを送り届けて。


また二人で歩き始める。


 


セリスが「……どうして、お金を払ったんですか」と言う。


 


「言ったでしょ。早く終わらせる方が簡単だから」


 


「……それだけですか」


「それだけよ」


 


「……子供たちのためじゃないですか」


 


レナが「……うるさい」と言う。


 


「そうですよね」


「……うるさい」


 


耳が——少し、赤かった。


 


「あなたって——」


「なに?」


 


「……いつも、そうなんですね」


「何が」


 


「困っている人を——放っておけない」


 


レナが「……そんなことはない」と言う。


 


「あるんです」


 


「……」


 


「私が言うんだから、あるんです」


 


レナが、少し止まる。


 


「……変なところで頑固ね」


「レナさんに言われたくないです」


 


「何よ」


 


「……レナさんの方が、ずっと頑固です」


 


「……うるさい」


 


二人が、笑う。


 


同時に。


 


路地に——笑い声が響いた。


 


——


 


屋敷への帰り道。


 


「……今日は、楽しかったです」


 


セリスが言う。


 


「そう?」


「はい」


 


「……私も」


 


レナが、前を向いたまま言う。


 


「こういう日が——増えるといいわね」


「はい」


 


「……平和になったら」


「……はい」


 


「もっと——こういう日が作れると思う」


 


「帝国は、変わりますか」


 


「……変える人がいるから」


 


「……殿下のことですか」


 


レナが「……うるさい」と言う。


 


耳が——少し、赤かった。


 


セリスが「お姉ちゃんに任せなさい」と言う。


 


「……何がおかしいの」


「おかしくないです。ただ——」


 


「ただ?」


 


「……嬉しいので」


 


レナが「……変な子ね」と言う。


 


「悪い意味じゃない?」


「悪い意味じゃない」


 


夕暮れが——二人を照らしていた。


 


水色の髪が、風に揺れる。


挿絵(By みてみん)


(……この人には)


(本当に幸せになってほしい)


 


セリスは、その横顔を見ながら思った。


 


心の底から。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【開始12時間で100PV突破の注目の新作!】意志を持つ禁忌の魔剣は、彼女を守る剣か、それとも彼女を喰らう器か? 復讐に燃える王女が世界の真実を斬り拓く、本格ダーク戦記。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ