第1話 王都陥落、そして私は魔剣を抜いた
はじめまして。
本作は「亡国の王女」と「意思を持つ魔剣」が織りなす、戦記ファンタジーです。
剣と魔法の世界でありながら、戦争や国家、そして“人とは何か”をテーマに描いていきます。
少しシリアス寄りではありますが、魔剣との掛け合いや成長要素も重視していますので、楽しんでいただければ嬉しいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
バール教暦1152年。
帝国暦356年。
王都アルヴェリアは炎に包まれていた。
赤く染まった夜空。
響き続ける悲鳴。
崩れ落ちる石壁。
戦火が王都をのみ込んでいく。
「……セリス」
血に染まった父が、ゆっくりと振り返った。
その瞳だけは、不思議なほど穏やかだった。
「これを持て」
差し出されたのは、飾り気のない黒い鞘の剣。
手にした瞬間、冷えた金属が微かに震えた。
「父上……これは」
「決して抜くな」
短い言葉だった。
だが、その声には迷いがなかった。
その直後。
城門が砕ける轟音が響く。
帝国兵の怒号が一気に近づいてきた。
もう時間は残されていない。
「生きろ、セリス」
それが父の最後の言葉だった。
セリスは走った。
炎の中を。
煙と血の臭いが満ちる城下を。
背後から鎧の音が迫る。
「止まれ! 王女だ!」
逃げ込んだ路地は袋小路だった。
囲まれる。
逃げ道はない。
震える手が剣の柄に触れる。
(抜くな)
(父上はそう言った)
その瞬間だった。
『抜け』
頭の奥で声が響く。
感情をまったく感じさせない、冷たい声。
セリスは剣を抜いた。
その瞬間。
世界から音が消えた。
炎は揺れない。
兵士も動かない。
時間そのものが止まったようだった。
『……認識しました』
無機質な声が頭の中へ直接響く。
『接続を確認』
『器としての適性を確認』
『魂出力、適正範囲』
『契約を開始します』
視界の端に青白い光が浮かぶ。
文字のようにも見えた。
【初期化開始】
「……え?」
自分の身体が勝手に動く。
剣がゆっくり振られる。
ただ、それだけだった。
目の前の帝国兵が消えた。
鎧だけを残して。
肉体だけが跡形もなく消失していた。
悲鳴もない。
血飛沫もない。
音すら残らなかった。
『初期稼働を確認』
『契約者の生存を最優先とします』
息が止まる。
何が起きたのか分からない。
震える指の中で。
剣だけが静かに脈打っていた。
『ご安心ください』
事務的な声が続く。
『あなたは、もう一人ではありません』
『不要な感情ノイズは順次最適化します』
その一言だけは。
刃よりも深く胸へ突き刺さった。
どうしてなのか。
分からない。
それでも。
その言葉は恐ろしくてたまらなかった。
後に歴史書は、この夜をこう記す。
バール教暦1152年。
帝国暦356年。
グランツハイム帝国がエルデン王国を滅ぼした年。
そして。
一人の王女が魔剣を抜いた年。
帝国軍の旗には、こう刻まれていた。
「バールの名において、世界の秩序は守られる」
だが、その夜から守られたのは秩序ではない。
世界そのものが、静かに狂い始めていた。
第1話を読んでいただきありがとうございます。
ここから、セリスと“普通ではない剣”の物語が始まります。
次話以降で、剣の異質さや世界観が少しずつ明らかになっていきます。
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引き続きお付き合いいただければ幸いです。




