第2話 声
静止していた世界が、ゆっくりと動き出す。
――否。
動いていたのは、自分ではなかった。
セリスは悟る。
自分の身体が、意思とは無関係に前へ出ていた。
「な――」
声が出ない。
腕が動く。
剣が振るわれる。
その一閃は、あまりにも美しかった。
最初から、その軌道だけが正解だった。
そう思わせるほど、無駄がない。
次の瞬間。
目の前の帝国兵の首が、音もなく宙を舞った。
血が噴き上がる。
だが、その飛沫は一滴たりともセリスには届かない。
「……どう、なって……」
『ご安心ください』
頭の奥で声が響く。
冷たく。
静かで。
どこまでも整った声だった。
『現在、最も効率的な排除行動を実行しております』
「排除……?」
『敵対個体の無力化です』
その言葉と同時に、身体が再び動いた。
三歩。
踏み込む。
振る。
突く。
払う。
それだけだった。
気づけば。
包囲していた帝国兵は、一人残らず地に伏していた。
辺りを静寂が包む。
鼻を刺す焦げた臭い。
濃く漂う血の臭い。
その二つだけが、戦いの終わりを告げていた。
セリスの膝が、小さく震える。
「……あなたは……誰……?」
短い沈黙。
やがて、声が答えた。
『私は剣です』
「……剣?」
『はい。名称は――ノイエ・ジール』
聞き慣れない響きだった。
この世界の言葉ではない。
そんな違和感だけが胸に残る。
「……今のは……あなたが……?」
『はい』
一拍置いて続ける。
『あなたでは再現不可能と判断したため、代行しました』
言葉の意味が、すぐには頭へ入ってこない。
「……勝手に……?」
『はい』
迷いも躊躇もない返事だった。
当然のことを確認された。
そんな声音。
セリスは息を呑む。
「……人を……殺したのよ……!」
声が震える。
返ってきたのは、静かな訂正だった。
『訂正します』
わずかな間。
『すでに死亡しました。現在は有機物です』
その一言で。
セリスの中の何かが、音を立てて弾けた。
「ふざけないで!!」
叫びが夜へ響く。
それでも声は変わらない。
『ふざけておりません』
短い沈黙。
『私は事実を述べています』
理解できない。
この存在は、自分とは決定的に違う。
理屈ではない。
本能が、それを告げていた。
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