声
静止していた世界が、ゆっくりと動き出す。
——否。
動いていたのは、自分ではない。
セリスは理解した。
自分の身体が、自分の意思とは関係なく前に出ている。
「な——」
声が出ない。
腕が動く。
剣が、振られる。
その動きは、美しかった。
まるで、最初からそうなるように世界が設計されていたかのような、無駄のない一閃。
次の瞬間。
目の前にいた帝国兵の首が、音もなく落ちた。
血が噴き出す。
だが、その飛沫は——自分には一滴もかからない。
「……どう、なって……」
『ご安心ください』
頭の奥で、声が響いた。
冷たく、静かで、そして妙に整った声だった。
『現在、最も効率的な排除行動を実行しております』
「排除……?」
『敵対個体の無力化です』
その言葉と同時に、身体がさらに動く。
三歩。
振る。
突く。
払う。
——終わり。
気付けば、囲んでいた兵は全員倒れていた。
沈黙。
焦げた匂いと、血の匂いだけが残る。
セリスの膝が、震えた。
「……あなたは……誰……?」
わずかな沈黙の後、声は答えた。
『私は剣です』
「……剣?」
『はい。名称は——ノイエ・ジール』
その名は、どこか異質だった。
この世界の言葉ではない響き。
「……今のは……あなたが……?」
『はい。あなたでは再現不可能なため、代行いたしました』
一瞬、理解が追いつかない。
「……勝手に……?」
『はい』
あまりにも当然のように言う。
セリスは、息を呑んだ。
「……人を……殺したのよ……!」
沈黙。
だが、すぐに答えが返る。
『訂正します』
静かな声。
『すでに死亡しました。現在はただの有機物です』
——その瞬間。
セリスの中で、何かが弾けた。
「ふざけないで!!」
叫びが、夜に響く。
だがその声は、あまりにも静かに返された。
『ふざけておりません』
間。
『事実を述べております』
——理解できない。
この”存在”は、自分とは決定的に違う。
そう、本能が告げていた。




