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【毎日更新!】魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜  作者: 筑紫隼人
第六章「悪魔と呼ばれた者」

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第144話 引っかかる

翌朝。


宿を——出た。


空が——曇っていた。


雨に——なるかもしれなかった。


「……今日は、降りそうですね」


メイラが——空を見上げながら言う。


「降っても——動く」


ガイウスが——言う。


「わかってますよ」


「ただ——言っただけです」


「そうか」


「……ガイウスさんって、時々——確認しなくていいことを確認しますよね」


「確認はしていない」


「じゃあ、何ですか」


「……情報の共有だ」


「同じじゃないですか」


「違う」


メイラが——空を見た。


「……まあ、いいです」


「降ったら、降ったで考えます」



歩き始めた。


道が——緩やかに——南へ向かっていた。


帝都方向への——移動が続く。



「……ノイエ」


歩きながら——呼ぶ。


『……はい』


「昨夜——よく眠れましたか」


「昨日と同じ聞き方をしています」


「毎日——聞こうと思っています」


『……なぜですか』


「あなたが——どんな夜を過ごしたか、知りたいから」



少し——間があった。



『……昨夜は』


『……重かったです』


「昨日と同じですか」


『……違います』


「どう違いましたか」


『……昨日の重さは——リオのことを考えていた』


『でも——昨夜の重さは』


『……違うものでした』


「何を考えていたんですか」



また——間があった。



『……あなたのことを、考えていました』


「私のことを?」


『……はい』


「どんなことを?」



長い——沈黙。



『……あなたは——いつか、死にますか』



セリスは——少し、止まった。


「……いつかは、死にます」


「人間は——みんな、死ぬ」


『……』


「それを——考えていたんですか」


『……はい』


「昨夜」


『……はい』


「……なぜ、そのことを考えたんですか」



『……分かりません』


『ただ——考えていました』


『あなたが死んだら』


『……どうなるのか、と』


「……私が死んだら、ノイエはどうなるか、ということ?」


『……そうではなく』


『……あなたが死んだら』


『……私は、どう感じるのか、と』



セリスは——また、止まった。


「……それは」


「大事な問いだと思います」


「どう感じると思いますか」



沈黙。



『……引っかかります』


「引っかかる?」


『……はい』


『あなたが死ぬことを——考えると』


『何かが——引っかかります』


「引っかかる、とは——どういう感じですか」


『……止まれない感じです』


『考えが——どこかに、引っかかって』


『先へ——進めない』


「……」


「それは——嫌だ、という気持ちに近いかもしれません」


「あなたが死ぬことが——嫌だ」


「だから——考えが引っかかって、前に進めない」



『……嫌だ』


「ええ」


「嫌だ、という言葉が——近いですか」



少し——間があった。



『……近いと思います』


『でも——嫌だ、という言葉だけでは』


『……足りない気がします』


「足りない?」


『……はい』


『もっと——大きい何かです』


『嫌だ、より——大きい』


「……それは」


セリスが——少し、考えた。


「怖い、かもしれません」


「嫌だより——大きい」


「怖い、という言葉は——どうですか」



沈黙。


今度は——短かった。



『……怖い』


「合っていますか」


『……合っているかもしれません』


『あなたが死ぬことを——考えると』


『引っかかって——怖い』


「……そうですか」



「ノイエ」


「あなたが——私が死ぬことを怖いと思う」


「それは——私にとって」


「大事なことです」


『……なぜですか』


「怖い、という感情は——大切にしているものがある時に、出てきます」


「大切にしていないものが——なくなっても、怖くはない」


「でも——大切なものが——なくなると思うと、怖い」


「だから——あなたが私のことを怖いと思うということは」



「……私のことを、大切にしてくれているということだと思います」



長い——沈黙。



『……』


返事が——なかった。


でも——沈黙の中に、何かがあった。



しばらくして。


『……引っかかります』


「また、引っかかっていますか」


『……はい』


「今度は——何に?」


『……あなたが、今——言ったことに』


「私が言ったこと——大切にしているから怖い、ということですか」


『……はい』


「それが——引っかかる?」


『……はい』


「なぜですか」



『……私が——あなたのことを』


『大切にしている、という言葉が』


『……合っているかどうか』


『引っかかっています』


「合っていないと思いますか」


『……分かりません』


『でも——引っかかります』


「引っかかるということは——完全には否定できない、ということだと思います」


「合っていないと——はっきりわかれば、引っかからない」


「でも——引っかかる」


「それは——合っているかもしれない、という感覚だと思います」



沈黙。



『……引っかかる、という言葉は』


『……感情の入口、ですか』



セリスが——止まった。


「……どうして、そう思ったんですか」


『……あなたが、以前——言っていました』


『分からなくても——何かがある、ということは、ある』


『引っかかるということは——何かがある、ということだと思いました』


『それが——感情の入口かもしれない、と』



「……そうです」


セリスが——言った。


「引っかかることが——感情の入口だと思います」


「完全には分からない」


「でも——何かがある」


「その何かを——たどっていくと」


「感情が——見えてくる」


「あなたは——今日、それをやっています」



『……やっています』


「ええ」


「引っかかって——怖い、という言葉を見つけた」


「怖い、より——大きい何かがある、と気づいた」


「それが——大切にしている、ということかもしれないと知った」


「全部——引っかかりから始まっています」



『……』



「……ノイエ」


「一つだけ——言っていいですか」


『……はい』


「私も——あなたのことが大切です」


「だから——正直に言います」


「あなたが——変わっていくのを見ることが」


「嬉しいです」


「引っかかりながら——怖いと気づいて」


「怖いより大きい何かを——探している」


「それを——一緒に見ている」


「嬉しい、と思っています」



長い——沈黙。



『……引っかかります』


「今度は何に?」


『……嬉しい、という言葉が』


『……私にも、当てはまるかどうか』


「当てはまると思いますか」



また——沈黙。


今度は——短かった。



『……引っかかります』


「引っかかる、は——合っているかもしれない、という感覚でしたね」


『……はい』


「だったら——当てはまるかもしれない」


『……はい』


「それで——十分です」



「……セリスさん」


メイラが——隣に来た。


「何?」


「雨、降ってきました」


「そうですね」


「フードを被った方がいいですか」


「被りましょう」


「……なんか、さっきから——ずっとノイエと話していましたね」


「そうですね」


「何を話していたんですか」


「……いろんなことを」


「引っかかることについて」


「引っかかること?」


「ええ」


「……難しそうですね」


「難しくないですよ」


「引っかかったことを——たどっていくだけです」


メイラが——少し、考えた。


「……私もやってみようかな」


「何が——引っかかっていますか」


「今は——雨が引っかかっています」


「なぜ?」


「早く止んでほしいから」


セリスが——少し、口の端を動かした。


「……それは、引っかかりじゃなくて——ただの希望だと思います」


「え——同じじゃないですか?」


「少し違います」


「どう違うんですか」


「引っかかりは——自分でも気づいていない何かが、出てくること」


「希望は——わかっていることを、欲しいと思うこと」


「……難しいですね」


「難しいかもしれません」


「でも——引っかかることが——あれば、わかります」


「……今は、雨以外に引っかかることは——ないですね」


「いい状態だと思います」


「え——なんで?」


「引っかかりがない時は——穏やかな時です」


「ああ——そっか」


メイラが——雨の中を、歩き続けた。


「……穏やかな時を——もっと増やしたいですね」


「ええ」


「そのために——動いています」



雨が——続いていた。


でも——激しくはなかった。


細い雨だった。



「……ノイエ」


「今日——引っかかる、という言葉が見つかりました」


『……はい』


「昨日は——重い、でした」


「一日ごとに——言葉が増えています」


『……増えています』


「明日は——また、別の何かが見つかるかもしれない」


『……そうでしょうか』


「そうだと思います」


「あなたが——たどろうとしているから」



『……たどろうとしています』



「ええ」


「それが——今のあなたです」



雨の音が——続いていた。


メイラが——傘代わりに、フードを深く被った。


その横顔が——雨の中でも、穏やかだった。


(……穏やかな時を、増やしたい)


(メイラが言っていた)


(そのために——動いている)


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


突然ですが、作者からコンサル的お願いがございます。


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次話の更新速度というKPIに直結しますので、何卒ご支援のほどよろしくお願いいたします!

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